AOBATO'S PHOTO

花や鳥たちの美しさや可愛らしい仕草などを写真に修めようと奮闘中です。

猫の心意気

2013-06-21 19:25:03 | 

 

6.猫まんま

 そのあくる日もあたいは、再びおじんちに出掛けた。途中おじんが仕事しているでっかい建物の前を通ると、おじんが窓越しに覗き込んでいるのがわかったのよ。おじんのあの顔は、かなりあたいを意識しているなと、すぐにぴーんときたの。それにしてもおじんは大夫白髪が増えてきていた。おじんちで暮らしていた頃、おじんは、あたいのことを娘のように可愛がってくれていて、あたいの頭をゴシゴシ掻いてくれていたが、おじんのあたいへの愛情表現だったみたい。あたいは、自分の体のあちこちが痒い時は、舌で舐めなめして痒みを取るんだけど、頭の周りが痒い時は舌が届かず、誰かが掻いてくれないと満足できないことを、おじんは良くわかってくれていたの。そんな時は自分からおじんに甘えてすり寄って掻いて貰ったものよ。時には耳の付け根の辺りにダニがくっついて、足の爪でダニを捕ろうとするのだけれど、ダニもあたいの赤い血を欲しがり、必死で捕まりにくいカ所に隠れているものだから、かゆくてかゆくて気がおかしくなるときが何度かあったの。子供の頃はおかんが他の兄姉ら全部の体毛を丹念に調べてくれて、ダニやシラミを分け隔てなく良く見つけてくれたものだった。大きくなってからは、そんな時助けてくれるのは、決まっておじんだったのよ。

 余計な話をしちゃったけど、おじんが働いている前を通る時、あたいは2~3回でんぐり返りをしながら通ったので、おじんはあたいのことをとっくに気づいていたはずなの。おじんのいる建物の横を北に向かって通り抜けて、おじんちへ向かったの。前の日にはおじんちの柿の木の下辺りからおばんのところへ行ったけれど、気付かれなかったので、今度はかって知ったる玄関の方へ周ったら、運良く暑い夏の日だったので、玄関が開いていたの。堂々と玄関の中へ入り「にやーにやー」と賑やかに声をかけたのよ。そしたらおばんが顔を出してきて「熊、熊じゃない。どうしていたのよ」と4年ぶりの再開におばんは、優しく出迎えてくれたのよ。前の日とは感じがまったく違ったの。どうやら前の日あたいが、追い払われても、図々しくしていたことをおじんに話したのだろう。それでおじんが「それは『熊だったんだよ』」と気づかせてくれたそうだ。おばんはあの懐かしい4年振りの「ねこまんま」であたいを歓迎してくれたの。おばんはあたいだけの茶碗を準備してくれたのよ。少しばかり色あせてはいたが、輪島塗擬きのお椀を。懐かしい格別な味がしたわ。ご飯、それもコシヒカリで、昨夜の残りのかしわの天ぷらも入っていたのよ。野菜がたっぷり入った味噌汁に、今日は特別に昔のことを覚えていてくれて、あたいが大好物の牛のおっぱい入り猫まんまで、実に懐かしい味で、すっごく感激しちゃった。動物蛋白と炭水化物と今話題の繊維もたっぷり、あちこちで、たまに食べたこともあるが、ここの味噌味が一番美味しいのよ。おばんが使っている味噌は、この辺のではなさそうなのよ。薩摩の産らしく、大豆がたっぷり入って、何より良いのが健康的な減塩タイプらしい。これがおばんの伝統の猫まんまなのよ。おばんの懐かしい味がうれしくて、あっという間に平らげてしまったの。

 その夜、おばんは、興奮した声で、「熊が来て、玄関で鳴いて呼んできたのよ」とおじんに話す声が聞こえていた。その昔、あたいがここを出るとき、一番悩んだのはミーコらのことだったが、おばんの猫まんまを食べられなくなることが二番目の悩みでもあったのよ。でも今日は又、忘れられない気分になっちゃった。