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メジロと暮らした日々

2013-06-02 17:35:00 | エッセー

メジロと暮らした日々

子供の頃の意気込み

 小学校5~6年生の頃であった。同年代の近所の男の子とメジロを飼って、その鳴き声を競おうと言うことになった。そのためにメジロの捕獲法を大人たちに習ったものである。準備するものに、メジロを捕獲するのに必要なトリモチと小枝、メジロがトリモチに止まったときに捕まえるための海老網、メジロが思惑通りに捕まった時に入れる鳥かごと風呂敷が欠かせない。もう一つ大事なことがあった。それは捕まえるための囮(おとり)となるかごに入ったメジロである。囮のメジロは、大人たちが飼っているメジロを借用出来ないかと依頼したのであった。運良く借りられれば、シャープペン大で長さ20センチほどの小枝に粘着性の強いトリモチを塗り、それを括り付けた囮の入ったメジロかごを、メジロが訪れそうな場所に吊り下げて置くと、野生のメジロがそのトリモチの塗られた小枝に止まる。すると重さの軽いメジロは動けなくなり、それを海老網でそっと捕まえる捕獲法である。

メジロ取りで最初に行うのがトリモチ作りであるが、これが子供には難しい作業であった。トリモチは、モチノキという樹木の樹皮を剥ぎ取り、そのまま小川に持参して直径30センチ位の平らな岩を探して、その上に置き、拳大の石で細かく叩きつぶして、粘着性の物質だけを残して繊維質を除去すると、トリモチ(鹿児島ではヤンモチという)が出来上がる。最初はどの木がモチノキであることなど皆無であった。友達の中には、それを心得ているものがいて、自慢たらしく教えてくれるのである。しかしモチノキに木肌の似かよったも他の樹木の種類が多々あったり、木肌だけでなく、葉の形や付き方を熟知しなければ理解しにくいモチノキでもあった。

トリモチを小枝に満遍なく塗り立てて、かごに括り付けて置き、それに野生のメジロが止まれば、両足の指がくっつきメジロは直立不動となる。けれども身軽とは言え、ものの数秒も経てば、自重でメジロはトリモチの付いた棒を軸に180度下方に回転してぶら下がってしまう。そうなればメジロは、棒から下方へと糸を引く様にぶら下がって、仕舞いには足が離れて、難を逃れることになる。その数秒間が捕獲の可否に繋がる一瞬である。だから海老網が必要なのである。このようなメジロの捕獲は、1度や2度ではなかなかうまくいかない。当時は冷蔵庫を利用することもなく、トリモチは1日経てば粘性が落ちるために、翌日も使えるというものではなかった。再度メジロの捕獲に挑戦するならば、初手のトリモチ作りから何回も挑戦しなければならない。やがて何度目かにやっとの思いでものに出来ることになる。

運悪く囮のメジロが借りられないことも再々あった。この様な時にも、トリモチを活かした捕獲法があった。それは、山中には、蜂蜜ではないが、甘い蜜に似た樹液を出す樹木がある。メジロは桜や寒椿などの花々であったり、熟した柿や蜜柑など、密や果糖類を餌として生きているのである。このようにメジロが、樹木の一部からしみ出ている甘い樹液を啄(ついば)んでいる光景を見かけたものである。その樹液をメジロが啄み易い位置に、トリモチを塗った小枝を横向きに設置しておいて、メジロのおでましを根気よく待つのである。

このようにして捕まえたメジロは、余りにも野生環境と異なる人為的環境とのギャップからなかなかかごに慣れない。捕獲され、かごに閉じこめられ鳥たちは、かごから逃げ出したいために、嘴(くちばし)を四六時中かごの外へと突き出す。そのために嘴の周囲の羽毛が剥(は)がれて傷が付き易くなる。この様なメジロの怖がる動きを静止させ、傷が付くのを塞(ふさ)ぐために、風呂敷でかごごと覆ってしまうのである。結果的に動物であるメジロも餌と水に有り付けるために2~3日で慣れて、異常な興奮から一段落しておとなしくなり止まり木を往復する様になる。つづく