AOBATO'S PHOTO

花や鳥たちの美しさや可愛らしい仕草などを写真に修めようと奮闘中です。

猫の心意気

2013-06-28 18:21:16 | 

 

11.徘徊暮らし(4)

 今度は公園から西へ向かってみたの。少しばかり川あり山ありだったけど意外とそんなに遠くはないところに、やはり乳を出す牛が沢山いるN牧場があったの。あたいもおばんちで生まれて、おかんに色々教えて貰ったお陰で、いっぱしの大人猫になって2度の妊娠とお産を経験したが、子育てをして子供達を一人立ちさせるまでは、時間が掛かり、半年くらいはかかった。その経験から、妊娠してしまったからには子育てに適した安全な環境とやらがどうしても必要なので、そんなところを探し歩いていたところ、このN牧場にたどり着いたの。今度は久しぶりの子育てで、おじんもおばんも手伝ってくれないから、文字通り徘徊独立という訳なのよ。今度はあたいもうかうかしておれないの。子育ての正念場ということよね。だからこのことをぼさぼさ頭の中にたたき込んで、あたいの子育てのあり方ちゅうもんを確立させようと思っているところなのよ。もう、おかんも生きているのやら、ましてやおとうなんか顔も知らないし、頼るものはなく、子らが生まれれば文字通り正真正銘の母子家庭と言うことになる訳よ。

 おばんが若い頃、お産した時に「案ずるより産むが易し」ということを実感したと聞いたことがあったけれど、あたいのお産も、安産だったのよ。あたいは子供の頃からからだがそんなに大きくなくて、お産はいつも3匹だったけれど、2産目の時は雄の黒ちゃん1匹、雌のミケちゃん2匹だったの。

 N牧場に来てから30回目の朝を迎えた頃だった。その夜になってから急に産気づいて、その夜のうちに、今度は何と5匹生まれたのよ。あたいもそうだけど、あいつもクロネコだったために、可愛い子らはみんな黒ちゃんだったのよ。実はね、人のお姉ちゃんたちも月1でおなかの中に卵が出来るらしいのよ。あたいらも全く同じで、その時が発情なのよ。あたいら野良が発情したら、決まった奴とだけ何することは珍しいのよ。長い時は発情がまるまる1日続くのよ。そしたら、気に入った奴だけじゃなく、貫禄のあるボスみたいなのが、代わる代わる追っかけてくるのよ。もう大変なんだから。おじんが「つけ」が回ってくると言っていたけど、こんなときも案の定、ミケちゃんであったり、黒ちゃんであったり奴らの遺伝子が子らにはっきり出てくるのよ。ちょっぴり恥ずかしいけれど、いろいろな色模様を持つ子を生んじゃうと、奴らとのことがバレちゃうのよ。だけど、生まれてくる子らはみんな同じように超可愛いんだから。

 生まれたからには、今度は頼るのは子供よね。でも実際に頼ることなどある訳じゃないのよ。あたいの生き甲斐が出来たというものよ。おかんがそうだったように、あたいもかなり厳しく育て上げたから、そのお陰で、みんな良く育ち、いい子ぶらないで、しっかりと親離れしてくれたの。みんな独り立ちしていけそうになったので可愛い子猫らを住み慣れたN牧場に置いて、あたいはそっとここを出て、次の新たな暮らしを模索しながら旅に出てしまったの。暫くこんな感情を持ったこと無かったのに、なんか心細く感じたけれど、これであたいも独り立ちできたと自信持っちゃったの。やれば出来るってね。あたいが牛子屋にいたねずみを結構退治してやったから、N牧場の見て見ぬしてくれたおっちゃんたちも悪い人じゃなかった。結構助かったの。感謝の涙の一つも出してお礼しなければと思うんだけど、あたいらその涙が出ることがないのよね。