新・本と映像の森 328 ミヒャエル・エンデ:大島かおり/訳『モモ』岩波少年文庫、2005年
409ページ、定価本体800円、原書1973年。
モモは大きな都会のはずれの円形劇場の廃墟に住みついたひとりの小さな女の子です。家族もなく年齢もわかりません。
でも人の話を聞ける才能があるらしく町の人たちや子どもたちがやってきてモモと仲良くなって話をしたり遊んだりしていました。それが第1部です。
第2部と第3部では世界に「灰色の男たち」が入り込んで人々の「時間」を節約してあげるとまるめこみ、実は「時間」を支配しはじめます。
それに気づいたモモは……。
SFかと思ったけど、主人公モモはファンタジーの世界の住民ですね。
まず第1に、時間についての哲学的/社会学的思考がおもしろいです。いま並行して読んでいるアウグスティヌス『告白 ③』は時間について詳しく考察していておもしろいです。
第2に、人々や子どもたちとモモとの関係。モモは「時間の国」のマイスター・ホラと亀の助けも借りますが、人々や子どもたちが「灰色の男たち」に支配されてしまうなか、
たったひとりで「灰色の男たち」に立ち向かいます。
それは勇気のある素晴らしい行為だと思いますが、どうして「人々や子どもたちといっしょに」ではないのでしょうか。そこにミヒャエル・エンデさんの1973年ごろの絶望感が投影されているのではないでしょうか。
たった1人で抵抗して創った世界は、元の世界ではないし、理想の世界でもないという気がします。じゃあ、どうすればいいんだ?!といってボクに名案があるわけはないですが。
3つめに,ボクは仲閒に「反逆罪で有罪」とされ「時間」を奪われて消えてしまった「灰色の男」にのひとり「ナンバーBLW/553/c」の運命のことを考えます。
敵であっても、なぜ「人類の敵」が意識をもってしまったか、考えた方がいいと思います。
「BLW」というのはドイツの自動車「BMW」のパロディでしょうか。