原発を考える 原発・浜岡原発・放射能についての情勢
3月17日(日)に浜松労政会館で開かれた「浜岡原発裁判・県西部の会」「第2回定期総会」の議案の「情勢」部分を以下に掲載します。
Ⅰ 原発と浜岡原発をめぐる情勢(参考資料)
1、原発をめぐる政治・社会情勢
2011年3月11日の東日本大地震・福島原発「破局事故」から2年が過ぎました。浜岡原発をはじめ全国の原発で、日本の社会全体で、そして中央の政界で、原発の廃止と再稼働をめぐるたたかいが激しい「綱引き」「つばぜり合い」になっています。
今年2月の『朝日新聞』全国定例世論調査では、「すぐにやめる」13%、「2030年より前にやめる」24%、「2030年代にやめる」22%、「2030年代より後にやめる」12%、「やめない」18%、「その他・答えない」が11%と、原発「やめる」が71%と7割を超えていて、原発をゼロにの世論は今も多数派が続いています。
原発反対の世論に逆らって、安倍首相は「原発ゼロ見直し」「安全と確認された原発から再稼働」を実行しようとしています。
さらに日本メーカーによる日本国外での原発建設を加速させ、国外から「国際原子力帝国」の力も借りて、日本国内での原発再稼働・建設を推進しようとしています。
2、福島第1原発事故の現状
福島第1原発の1号機から3号機まで、2年経っても放射能の漏れは今だに続いていて、致死量の放射能のため原子炉に近づくことはできず、原子炉の中や溶けた核燃料の状態はまったくわかっていません。
溶けた核燃料を冷やし続けるための高濃度の汚染水は、地下水が1日に約400トンも原子炉建屋の地下へ流入しているために増え続け、すでにタンクへの貯蔵量は26万トンに達しています。東電は貯蔵量を70万トンまで増やすとしていますが、これも2015年夏に満杯となります。(『中日新聞』2013年3月11日付)
福島第1原発事故以来2年、政府による指示で避難した人たちは合計14万6520人に達してます(新「訴状」p9)。これ以外に多数の県民が県内・県外へ自主的に今も避難しています。避難者はほとんど減っていません。
今回の放射能過酷事故で余儀なくされた避難生活の中での病気の悪化や自殺などでの「原発関連死」は『中日新聞』による調査(2013年3月11日付、資料A)で789人以上、震災関連死の少なくとも6割以上を占めています。この数字は南相馬市といわき市は入っていないため、推定では原発関連死者は1千人を超えます。この数字に津波で家に閉じ込められ、救いの手も届かず亡くなった避難区域内の犠牲者が含まれているかは不明です。
原発事故が原因の自殺はわかっただけで 人を数えています(『中日新聞 2013年3月』、資料B)。
3、放射能の生命と人間への影響
福島県は、原発事故時に18才以下だった子どもを対象に甲状腺を調査、昨年9月に発表しましたが、今年2月に甲状腺ガン2人を追加、3人となりました。ほかに甲状腺ガンの疑いが7人いて、合計で10人となります。
10人の内訳は男性3人、女性7人、平均は15才以下で、しこりの大きさは平均15mmです。
福島医大の鈴木真一教授は「チェルノブイリでは4,5年経って増えてきたのだから、もともとあったガンを発見している」と発言していますが、検診受診者は約4万人ですから4万人分の10人で確率は4千分の1となり、子どもの甲状腺ガンの通常の発生率「100万人に1人」(民医連藤末会長の声明)」を何桁も上回っています。
1986年4月26日のチェルノブイリ事故から27年経って、ウクライナ共和国では、子どもの甲状腺ガンが事故前の年間4~5人(ウクライナの子ども人口は1200万人)から10年後に200人前後、20年後に500人を超え、今も多発しています(資料 図C)。
ウクライナ・ベルロシアでは、子どもの甲状腺ガンだけではなく、大人の白内障・心臓血管疾患なども多発しています。
さらにウクライナ政府の報告書『チェルノブイリ事故から25年 未来のための安全』(2011年4月)では、事故後に汚染地域で生まれた第2世代の約32万人について、1992年に「慢性疾患」をもつ子どもが22%、2008年には78%に増加していると報告しています。(資料 図D)
国際機関(国際原子力村)は、「被曝との疫学的な因果関係が証明されていない」と、子どもの甲状腺ガンなど限られた病気しか認めていませんが、これは加害者・原子力推進の立場に立つ立場であり、被害者の立場に立って、「被曝との因果関係を疫学的に否定され」ない限り、その病気が被曝の結果であると認め被爆者を救済すべきです。
チェルノブイリ事故で事故から5年後にソ連政府がつくった「チェルノブイリ法」で、年間5mSv以上は「強制移住ゾーン」、年間1~5mSvは「移住の権利ゾーン」(希望者には政府が区域外に住宅と職業を斡旋する)、1mSv以下は「放射線管理ゾーン」と決めています。
ところが、日本では50mSv以上は「帰還困難区域」、20~50mSvは「居住制限区域」となっています。
日本政府は「現在の避難指示の基準である20ミリシーベルトの被ばくによる健康リスクは、他の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水位順である」(「低線量被ばくのリスクに関するワーキンググループ報告書(座長:長瀧重信長崎大名誉教授)」)との立場に立っています。
しかし、人間への低線量放射線の影響について、松崎道幸(まつざきみちゆき)医学博士(北海道深川市立病院内科)は『日本の科学者 2013年1月号』の論文「がんリスクは10ミリシーベルトでも有意に増加」で、原発労働者と医療放射線被曝の2つの調査で10ミリシーベルトの被曝で3%、ガンリスクが有意に増加することをデータから明らかにしました。
さらに、日本政府が原発労働者のガンは喫煙・飲酒によると主張していることを実証データで否定しました。
この10ミリシーベルトで3%の増加は日本人100人(現在は100人のうち35人がガン死亡。これが3%増加すると35×1.03=36.05)に1人ガン死亡が増えることになります。
国際的な機関ICRPは放射線の危険を1ケタ小さく、10分の1に過小評価していることになります。しかも、この数値は大人についての調査結果です。この「10mSv」は、1年間の被曝量ではなく、年々増えていく累積の被曝線量です。
すでに3・11から1年間で福島市や郡山市では10mSvに達している地域があり、いのちと健康を救うための具体的対策が急務であると思われます。
文部科学省の今年3月1日の発表によると、原発から80km圏内で昨年10~12月におこなった放射線量調査(航空機モニタリング、地上と地上1m)で、1年前と比較して約40%減っています。これは半減期と降雨の影響と推定され、セシウム134と137の半減期から推定した減少量は1年間で21%のため、19%は降雨による放射性物質の移動のためと考えられます。
放射線量が少しづつ減っている中で、水生動物や陸上動物への放射線汚染・「生物濃縮」が各地で発見され続けています。
今年3月には、福島第1原発から西へ40kmの福島県二本松市(昨年6月の地上1mの空間線量が1.0~1.9μSv/h)でカエル類から2732~6732ベクレル/乾燥重量1kg、サワガニで2843ベクレル/kg、カマドウマ類で4313ベクレル/kg、オサムシ類で957ベクレル/kgを検出しました。
同じ調査で、群馬県みどり市で、カエル類396~903ベクレル/kg、サワガニで649ベクレル/kg、カマドウマ類で403ベクレル/kg、オサムシ類で15ベクレル/kg8と、距離180kmでも動物に放射能が濃縮されています。
4、浜岡原発の現状
浜岡原発は、2011年5月に管首相の要請を中電が受け入れ、3号機の運転再開の見合わせ、5月13日に4号機運転停止、5月14日に5号機運転停止以来、すでに2年近くが過ぎようとしています。
ところが5月14日に、運転停止直後の5号機で、タービンを回した高温の蒸気を熱湯に戻す「復水器」から海水が流入したことが発見されました。流入した海水は約400トンで、うち5トンが原子炉圧力容器内に入ったと発表されています。海水は原子炉にさびや腐食を起こし、流入から2年近く経った今でも中電の対策が続いています。
これ以後も、2011年7月に、塩化ビニール製のホースの破損で純水40トンが漏れ、この事故をきっかけに放射能を帯びた汚染水が建屋内に漏れる事故が起き、2012年3月に非常用の原子炉冷却水を溜める「復水貯蔵槽」の底の「内張り材」で海水の影響とみられる穴がみつかるなどトラブルが続出しています。
これらの5号機のトラブルは、2009年8月11日の駿河湾地震(マグニチュード(M)6.5、震度6弱)で、1~4号機の揺れ(原子炉建屋地下2階の加速度109~163ガル)の3~4倍の426ガルを記録した5号機の異常な揺れに原因があるのではないかとも推定されています。この426ガルは旧耐震指針で想定された基準地震動=S1を超えています。
中電のその後の調査で5号機の地下200~400mに地震動を増幅する「低速度層」が発見され、5号機の揺れはこの低速度層によると発表されています。
駿河湾地震のM6,5に対してM8.5は1000倍、南海トラフ巨大地震のM9.0は32000倍のエネルギーを持っています。
予測されている巨大地震(M8から9)の震度7、しかも長時間の揺れに3~5号機はさらされることになり、津波以前に原子炉が破壊される危険性が高いと思われます。
中電は、浜岡原発全停止以前の、3・11大震災直後から、津波対策として、浜岡原発前面の砂丘に、砂丘からの地上高10~12m(海面からの高さ18m)、幅2m、総延長1.6kmの「防潮堤」を総額1400億円(当初見積は1000億円、その後補正)で建設し「これで安全だ」と「再稼働」を推進しようとしています。
さらに1・2号機の「リプレース」で6号機を新たに建設しようとしています。
しかし、すでに浜岡原発の3号機から5号機の原子炉に付設された使用済み核燃料プールは3機で総容量1740トンのうち1140トン(66%)が貯蔵されています。各号機の残り容量は、3号機が1年半、4号機が2年、5号機が6.4年で、3機でプールを共用しあっても、わずか3年半で満杯になります。
移送先として予定されていた六ヶ所村の再処理工場の臨時貯蔵用の燃料プールはすでに98%を使っていて、残容量はわずか60トンです。再処理工場自体も稼動予定だった1997年からトラブルが続いていまだに稼動の見通しがまったく立っていません。
1年前の『静岡新聞』の県民アンケート調査(320人)でも「再稼働認めず廃炉」が54,6%、「地震・津波対策が完了すれば再稼働を認める」が36.5%、「ただちに再稼働」は1.2%、「無回答ほか」が7.5%と、県民の過半数が浜岡の再稼働に反対しています。