馬糞風リターンズ

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映画「日本のいちばん長い日」

2015年09月04日 | 映画
4組の映画の会で「日本のいちばん長い日」を観ました。昭和42年に同名の映画が公開されています。当ブログも当時ワクワクしながら観たのをつい最近のように鮮明に覚えています。結論から言いますと今回の「日本の・・・」は何とも緊張感の無い、また何が言いたいのか分かり難い出来上がりで、旧作と比ぶべくもないように思いました。
 原作は旧作は大宅荘一編、新作は半藤利一著となっています。しかしこの本は文藝春秋新社が当時の生き残っていた関係者を集めて座談会を文章化したものです。その速記を文章化しチェック、体裁を整えたのが半藤利一でした。出版にあたり半藤が若干33歳の若手編集者と言うことで、当時の大御所大宅壮一が序文だけを書いて大宅壮一編として刊行しました。その後、若干の加筆訂正をして半藤利一著として再出版されたものです。
「日本のいちばん長い日」のタイトルは1967年公開されたハリウッド映画「The Longest Day(史上最大の作戦)」に倣ったものです。

 当ブログは、旧作と新作の出来具合の差は何処から来ているのかをいろいろな資料、ネットなどから集めて対比表を作ってみました。
        
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 旧作は昭和42年、東宝35周年記念として東宝の名に懸けて製作したオールキャストの大作です。日本映画屈指の偉大な監督岡本喜八がメガホンを執り、脚本は数々の名作を手掛けた橋本忍とあればさもありなん、の感です。本来「日本のいちばん長い日」は昭和天皇や閣僚たちが御前会議において降伏を決定した1945年(昭和20年)8月14日の正午から宮城事件、そして国民に対してラジオ(日本放送協会)の玉音放送を通じてポツダム宣言の受諾を知らせる8月15日正午までの24時間です。ですから新作のように天皇陛下、鈴木貫太郎総理、阿南陸軍大臣などの私生活やエピソード挿入は帰って映画の筋書きを解らなくするだけではなく何とも緊張感の無いものにしてしまいます。
 旧作は飽くまでも追い詰められた崖っぷちの大日本帝国の窮状、それを取り巻く連合国側からの無条件降伏受諾を迫る・・・。追い被せるように日本各都市への無差別爆撃、広島・長崎への新型爆弾投下、ソ連軍参戦・満州進撃・・・。「157分と長尺にもかかわらず、最初から最後まで緊張感を持続させ、数多くの登場人物をさばいた岡本喜八の手腕が光る。スタッフ・キャストともに素晴らしい仕事ぶりで、日本映画の底力を見せつけた。」と賞される名作です。「昭和天皇実録」によると昭和天皇が家族とともにこの映画を鑑賞されたとしています。
 ● 新作独自のシーン(幾つかの新しいエピソードの内から・・)
東条英機:旧作では8月14日~15日までの24時間が舞台ですから東条英機元首相や岡田啓介元首相などを登場させるのは話を混乱させるだけのように思います。

鈴木貫太郎総理のルーズベルト大統領死亡への弔意。
 大戦末期の45年4月12日、敵国アメリカ大統領ルーズベルトが脳出血で急死した際に鈴木貫太郎総理が弔意を表します。一方、ナチスドイツは欣喜雀躍し 罵詈雑言を尽くしました。このことは、日本の「武士道精神」として好感を持つ海外メディアの報道もあったようですが、映画の筋立てとはあまり関係が無いように思います。

● 分かり難い国の組織と人間関係。(当時の内閣、軍隊などの組織系統及び登場人物の相関図画が解り辛い)
 当時の政治形態、特に軍隊の組織や系統役割などは現在の我々には全く解らない部分です。陸軍省、海軍省、参謀本部、近衛連隊、東部軍管区、・・・これらの人達の上下関係や役割などを理解していなければ松阪桃李演じる畑中健二少佐などの本土決戦を唱える若手将校たちが近衛連隊や参謀本部、・・・、などへ決起同調を求めて走り回る理由もわかりません。ですから映画ではメン玉を引き剥いてバタバタと走り回って何をしているかわからない事になってしまいます。旧作でも同じことですが、旧作ではそれをキャスチングでカバーしています。旧作は東宝のオールキャストと云うこともあり、僅か1シーンであっても当代の名優が演じていますので、それだけでも「この人物は重要なのだ」とのある程度の判断が付きます。
 東宝はこの「日本で・・」の成功で以後8・15シリーズとして毎年昭和47年まで6年間続きました。

● 気になった俳優
旧作で鈴木一(総理秘書官)役を演じた 笠徹は、鈴木貫太郎(内閣総理大臣) を演じた笠智衆の息子だそうです。
新作で鈴木孝雄(鈴木首相の弟)で 時代劇の斬られ役福本清三が1カット写っていました。(このシーンも何故必要なのか全くわかりません)

 他、まだまだ書きたいことは沢山ありますが、半藤利一が寄稿している週刊ポスト平成27年8月28日号「誰も責任を取らない日本」を是非お読みになることをお勧めします。現在進行形の「東京オリンピックのゴタゴタの原因」もよくわかります。