alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

バイオエナジェティクス

2018-05-31 | マッサージ研究
 池見酉次郎先生はヨガや東洋医学にも造詣が深く、自彊術(じきょうじゅつ)や催眠、自律訓練法の本も出して、気功師と対談もしています(『気功学の未来へ』)。日本オリジナルの学問を創った池見酉次郎先生は個人的に尊敬しています。
 特に1932年にドイツの精神科医ヨハネス・ハインリヒ・シュルツ(Johannes Heinrich Schultz:1884-1970)が発表した「自律訓練法(Autogenic training)」という自己催眠法を池見先生は重視しましたし、今でも九州大学医学部は「自律訓練法」を推奨しています。
  「自律訓練法」自体は良い方法だと思います。一つだけ問題があり、開発者であるドイツの精神科医シュルツはナチス・ドイツのT4作戦で、同性愛者に売春婦との性交を強制し、同性愛者の疑いがある人々を強制収容所とガス室に送りました。「自律訓練法」について語る心理学者たちを見るたびに、このシュルツ先生の業績がアタマに浮かびます。

 ちなみに、ユング派心理学のカール・グスタフ・ユングや現存在分析のルードヴィヒ・ビンスワンガー、メダルト・ボス医師らは全員、ナチスドイツに積極的に協力し、精神障害者や同性愛者を生きる価値の無い命としてガス室に送る政策を支持していました(小俣和一郎『精神医学とナチズム』1997)。
 心理学や精神医学を学ぶ際には、このような陥穽や深淵、落とし穴があちこちにあるのですが、教える側の大学教授達が、このような落とし穴について倫理観を持って語らないため、後進の学生達が落とし穴に何十年もハマっているのは、心理学・精神医学の世界の日常の光景となっています。

 非常に興味深いのは池見酉次郎先生が、1978年にアレクサンダー・ローウェンの『引き裂かれた心と身体』を監修・翻訳されていることです。
「引き裂かれた心と体―身体の背信」
アレクサンダー・ローウェン (著),    池見酉次郎 (監修),
創元社 1978/1 
    アレクサンダー・ローウェン(Alexander Lowen 1910ー2008)は、アメリカの精神科医で、1940年代にフロイトの直弟子であるヴィルヘルム・ライヒの教育分析を受けました。教育分析とは精神科医になるための精神分析です。ローウェンはライヒの直弟子なのです。
   ヴィルヘルム・ライヒ(Wilhelm Reich:1897-1957)は「フロイト本来の方法を発展させて」、1935年に「植物神経療法(ヴェジト・セラピー:Vegeto Therapy)」を創り上げました。これは、感情によるブロックが身体による緊張となるので、それをマッサージで取り除こうとするものです。
 
   アレクサンダー・ローウェンは、ライヒの方法を継いで、「バイオエナジェティクス・アナリシス(Bioenergetic analysis)」を創り上げ、心身症を治療しました。
   「生体エネルギー分析」とは、「怒りは首肩の固さとなる」というように、ある感情は身体の特定部位の生体エネルギーの特定の詰まりになると分析し、それを体操やマッサージで改善しようとするものです。
 
   現在の西洋精神医学や西洋心理学には、このような「生体エネルギーの詰まりが、カラダのコリや精神症状を引き起こし、体操やマッサージで生体エネルギーの詰まりを解消すれば精神症状が改善される」という思想は全く見られません。
 
   日本の心身医学、心療内科のパイオニアである池見酉次郎先生が「生体エネルギー分析(バイオエナジェティクス・アナリシス)」を日本に紹介されているのは、興味深い現象だと思いました。
 
【参考文献】
「からだと性格―生体エネルギー法入門 」
アレクサンダー ローウェン
1988/11   創元社
 
「バイオエナジェティックス―心身の健康体操」
アレクサンダー ローウェン
 1985/3 思索社

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