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Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

ヴィルヘルム・ライヒのマッサージ

2018-05-31 | マッサージ研究
 初期の精神科医フロイト(Sigmund Freud:1856-1939)は、患者のからだに触れたり、マッサージをしていました。
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「身体心理療法の現状とシステムズ・アプローチとしての展開」  
葛西俊治『札幌学院大学人文学会紀要』第93号、59-82,2013年2月
 
 フロイトがマッサージを用いていたことは、フロイトの治療法の変遷の歴史を調べると理解できます。もともとフロイトは催眠の研究を行い、「催眠には掛かりにくいヒトと掛かりやすいヒトがいる」ということから自由連想法による「精神分析(Psychoanalysis:サイコアナリシス)」の立場に移行しました。当時のヒステリーを治療する医師たちはマッサージを用いていました。このヒステリーの治療のためのマッサージから当時の科学的な電気治療器具ヴァイブレーターが生まれました。
 当時のヨーロッパでは、フランス・アントン・メスメル(Franz Anton Mesmer:1734-1815)が「動物磁気(Animal magnetism)」という催眠法を開発していました。その「動物磁気」による催眠を「シャルコー・マリー・ツース病」の発見で有名な神経科医ジャン=マルタン・シャルコー (Jean-Martin Charcot)がサルペトリエール病院で行い、それを若き日のフロイトが学んでいました。当時のメスメル(Mesmer)の「催眠=動物磁気メスメリズム」は、「ハンズ・オン(Hands on)」といって、患者の体に手を当てて、手の下を流れるエネルギー(動物磁気)を感じながら行うものでした。フロイトは、催眠を最初に行い、「催眠には掛かりにくいヒトと掛かりやすいヒトがいる」ということから自由連想法にうつり、『精神分析』をつくりました。弟子たちには、晩年のフロイトによって完成された「精神分析」だけが伝わりました。
 
 フロイトの直弟子である精神科医ヴィルヘルム・ライヒ(Wilhelm Reich:1897-1957)も、「フロイト本来の方法を発展させて」、1935年に「植物神経療法(ヴェジト・セラピー:Vegeto Therapy)」を創り上げました。これは、感情によるブロックが身体による緊張となるので、それをマッサージで取り除こうとするものです。ヴィルヘルム・ライヒは「オルゴン(Orgone)」という東洋医学の「気」そっくりの的エネルギーがカラダに詰まって、固い「ボディ・アーマー(身体のヨロイ)」をつくると考えていました。ヴィルヘルム・ライヒはドイツ生まれのユダヤ人ですが、1933年に出版した『ファシズムの大衆心理(The Mass Psychology of Fascism)』で、ナチス・ドイツは的抑圧を政治エネルギーに転化していると批判して、ナチス・ドイツ政府から発禁処分を受けます。1927年にはオーストリアのウイーンにフリーセックス・カウンセリング・クリニックを創設し、1936年には『文化の革命(The Sexual Revolution)』を書きました。いまでも欧米では、「新ライヒ派マッサージ(Neo-Reichian massage)」というマッサージの流派があります。
 
以下、引用。
「1930年代、ライヒは、精神分析の守備範囲を大きく逸脱して、患者を治療しはじめた。」
From 1930 onwards, Reich began to treat patients outside the limits of psychoanalysis's restrictions. 
 
「かれは、患者のボディに触れることでコミュニケーションしはじめた。かれは、男患者には、ショーツを降ろすように言って、ときには完全に脱がせた。女患者には、下着を脱がせて、彼らの肉体を愛するかのように、ボディをリラックスさせるためにマッサージしはじめた。かれは患者たちに希望を起こさせるような感情を肉体におこさせようとした」
he began to try to communicate with the body using touch. He asked his male patients to undress down to their shorts, and sometimes entirely, and his female patients down to their underclothes, and began to massage them to loosen their body armour. He would also ask them to simulate physically the effects of certain emotions in the hope of triggering them
以上、引用終わり。
ヴィルヘルム・ライヒは、このようなマッサージを使った精神分析をしたために、精神分析協会から除名されました。
 
 「ロルフィング」を創始したアイダ・ロルフ(Ida Rolf:1896 –1979)のマッサージは「痛い」ので、有名でしたが、マッサージを受けている患者が「トラウマからの解放」を感じるという「心身を癒すマッサージ」として有名でした。1972年(76歳)から1979年(83歳)の晩年のロルフは、「痛いマッサージ」ではなく、「身体教育」としてのボディワークとしてのロルフィングを行いました。日本には、10セッションからなる「身体教育」としてのロルフィングだけが伝わっています。日本の「認定ロルファー」はマッサージは無免許なので、「身体教育(ボディワーク)」だけを行います。アイダ・ロルフが晩年にまとめた「10セッション」からは逸脱しませんし、「痛いマッサージ」などはしません。
 アメリカの「認定ロルファー」は、筋膜研究者トマス・マイヤーズのように同時にカルフォルニア州の「認定マッサージ師」でもあり、ロルフの「10セッション」を「13セッション」に変えたり、「アナトミー・トレイン」など新たな理論を創造しています。76歳から83歳と高齢時代のアイダ・ロルフがまとめたボディワーク身体教育の「ロルフィング」は日本に伝わりましたが、「感情によるブロックが身体の緊張や姿勢の歪みとなったブロックをリリースする、痛いマッサージ」の名人芸は伝わらなかったようです。
 
 現在は、効果が無いと確定した、形骸化した『精神分析(サイコアナリシス)』の残骸だけが、伝わっており、欧米の「心理療法」の名人たちが本当に使っていた技法は、心理療法士たちには、ほとんど伝承されていませんし、存在さえ、あまり知られていないようです。

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