赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

②地政学の視点で国際情勢を見る【現状分析編】 コラム(472)

2022-10-17 00:00:00 | 政治見解



コラム(472):
②地政学の視点で国際情勢を見る【現状分析編】

(昨日の「①地政学の視点で国際情勢を見る【基礎編】」のつづき)

昨日は、地政学という概念をご紹介しましたが、これを用いて現在の国際情勢を観察していきたいと思います。


地政学の視点からロシアを見る

ロシアによるウクライナ侵略戦争は衝撃的でした。2014年にロシアがクリミア半島を奪い取った後、ウクライナの西側諸国への接近を口実にロシアが攻め入るという暴挙は、ロシアにとっても国際社会からの孤立という大きな代償を支払わなければならないものでしたが、それでも、なぜ、ロシアはウクライナを侵略しなければならなかったのか、ロシアという国とその動きを、地理的な条件をもとに見てみたいと思います。

ロシアの国土面積は17,098平方キロメートル。2位のカナダの9,985平方キロメートルを大きく引き離して世界で最大の国です。しかし、ロシアの地理を立体的に見てみると、ウラル山脈が南北に国土を分断しており人の往来を制限していることから、その東西で様相が全く異なります。

ウラル山脈より東はウラル・シベリア・極東の3つの地域に分けられますが、人口は少なく、開発は進んでいません。一方、欧州に近いウラル山脈より西のエリアは、面積としては全体の24%にすぎませんが、人口の実に74%が集中しており、首都のモスクワやサンクトペテルブルクといった都市もこちらに位置します。

また、国土の北側は、近年地球温暖化で変わりつつあるものの、大変寒冷な地域で、冬も含めて年中利用できる不凍港は少なく、自由に海に出ていける環境ではありません。そして西側には欧州やアメリカなどのNATO勢力が控えています。こうして見てみると、広大な土地を持ち、広く海に面したロシアが、実は様々な地理的な条件による制約を抱えていることがわかります。

このような背景のもとにロシアは2014年、クリミア半島を強引に併合しました。その最大の第一の理由は、ロシアは、NATO勢力との間のバッファゾーン(緩衝地帯)に位置するウクライナに対して、影響力を何としてでも保持したかったということだと思います。

第二の理由は、クリミア半島にある良港・セヴァストポリ港を支配することで、黒海を通って地中海に出ていくルートを確保したかったためと考えられます、前述のように、ロシアの北側は寒冷で自由に海に出ていく事が難しいために、この「黒海ルート」を保持することはロシアにとって死活問題となるのです。

しかし、現在の戦況を見ていると、リムランドのウクライナは、米英を中心とするシーパワーの力をえて、ハートランドのロシアを押し戻しつつあり、プーチン政権が倒れる可能性の方が大きくなっています。伝統的なロシアの南下政策は、現代でも失敗したと言えるのではないかと思います。


地政学の視点から中国を見る

中国はもともと世界第3位の広大な土地を持つランドパワーでしたが、近年では大幅な経済成長を成し遂げて覇権国家を目指し始めました。ランドパワーの特性を生かしてユーラシア大陸の支配と南シナ海を橋頭保にして海洋進出(シーパワー化)を急速に進めてきました。

これは世界最大のシーパワーである米国にとっては看過できない事態となり、地政学的なすみ分けができなくなっていることが基本的な構図と言えます。実際、江沢民時代、胡錦涛時代は米中蜜月でした。しかし、習近平氏の時代になると「太平洋は広い。米中の二大国が活躍する広さは充分ある」と発言し、もともと親中派であったオバマ元大統領の中国離れを作る要因になったことはあまりにも有名です。

同様に、シーパワーの国である日本にも圧力をかけ始めました。中国は、歴史的にも、国際法上も明確に日本の領土である尖閣諸島の領有権を主張、いまでは沖縄までも中国領だと言い張っています。その原因は、中国がシーパワーとしての拠点を海上に得て、日本海や東シナ海を制覇し、日本を支配するための足掛かりを持ちたいというのがその背景です。

また、南シナ海での人工島の建設、スリランカなどでの港の建設、ジブチへの基地配備など、地政学的な観点から戦略的にリムランドに楔を打ち込んでいることがわかります。そして一帯一路構想で、陸と海の両方でユーラシア大陸の国々を支配する構造を作り出そうとしているのが現在です。まさにこれまでのランドパワーに加えて、シーパワーを得ようという意図が明確にわかります。

これを中国的な考え方で言えば、華夷秩序となります。これについては、当ブログの「華夷秩序とそれに抗う日本」をご参照ください。

これに対抗したのが安倍元総理です。安倍元総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、いまや、アメリカの外交戦略の基本となり、QUAD(日米豪印4か国の枠組み)として対中包囲網の形成を促進しました。インド洋・太平洋に張り出してシーパワー化する中国をハートランドに押しとどめることを狙ったといえます。しかも、いまでは、NATO加盟国もこの動きに加わろうとしており、独仏英に加の艦船が南シナ海を遊弋しています。

歴史的に見て、ランドパワーとシーパワーが両立した例はありません。ローマ帝国は広大な領土と道路など物流網を誇り、ランドパワーとして栄華を極めましたが、海洋進出とともに衰退しました。シーパワーの日本も、大東亜戦争では海の支配に加えてユーラシア大陸への進出を試みましたが失敗した事例がそれを物語っています。したがって、ランドパワーとシーパワーを同時に手に入れようとする中国の覇権の試みが失敗するのは目に見えていると言えるはずです。

もっと踏み込んで言えば、ランドパワーの国がシーパワーの国に侵略して成功した事例は、私が知っているのは、1066年ノルマンディー公ウィリアムがイングランドを征服して王となったノルマン・コンクエストくらいです。ただし、これは海戦ではなく陸戦の勝利によるものです。

ちなみに、シーパワーの国日本は、飛鳥の時代、白村江の戦いで敗れた後に、水城、山城などの防衛基地を築いて唐・新羅の連合軍に備えていました。その後、元寇時には博多を防御の拠点とし、鎌倉武士の奮闘と折からの台風で蒙古軍は海の藻屑となっています。さらに、明治期には日清、日露の戦争で勝利しましたが、これらいずれもの戦いもランドパワーの国(陸軍国家)の朝貢要求あるいは侵略を海戦ではね返していたものです。これから考えると、中国が台湾を攻めたとしても海の藻屑となることは目に見えています。

さらにランチェスターの法則を加味すると

さて、地政学にランチェスターの法則【※】から派生したミート戦略を加味してみるともっとわかりやすくなるかもしれません。余談ですが、私はこの法則の弱者の戦略にしたがい選挙戦術を構築、衆議院選挙に勝利した経験があり、この考え方は大変優れていると今でも確信しています。

【※】ランチェスター戦略とは戦力に勝る「強者」と戦力の劣る「弱者」にわけ、それぞれがどのように戦えば戦局を有利に運べるのかを考えるための戦略論。 要は、兵隊の数と武器の数、さらに武器の性能を加味した数式で戦闘の優位性が計算できるとするもの。これが「オペレーションズ・リサーチ(OR)」として発展した。

ミート戦略とは、強者であるNO.1がさまざまな分野に手を伸ばすことで、NO.2がNO.1にのし上がろうとするのを防ぐ考え方です。

実例を挙げれば、戦後はイギリスに代わってアメリカが世界に覇を唱えましたが、急激にNO.2のソ連がのしあがったために、1940年代末にはNATOを構築したり、日本を反共の防波堤にしてソ連の台頭をおさえこもうとしました。また、70年代は中ソ論争で反ソとなった中国と手を結び、ソ連包囲網を形成しようとしました。

日本もアメリカに叩かれたことがあります。80年代末頃、経済大国2位となった日本はアメリカにとっての経済的な最大の脅威となり、日米構造協議などの圧力で日本は委縮させられました。地方のシャッター商店街などはこの時の産物です。この後バブルの崩壊で日本経済はアメリカ経済を凌駕するどころか低迷を始めました。

現在は、習近平中国がNO.1のアメリカに挑戦しようとしてアメリカに叩かれている構造です。結果はもう見えています。中国の敗退は確実で、アメリカは次の挑戦者がでてくるまではNO.1として世界に覇を唱えることになると思います。ただ、かつての世界の警察官を自認したところまで盛り返すのかは不明です。

なお、現在のロシアは、軍事力で言えばNO.2で、それ以外は国土が広いだけの中程度の国ですので、ウクライナ侵略戦争をNO.1に対する代理戦争と見ることはできません。北朝鮮並みのテロ国家がウクライナの財産を奪いに行っているだけと見るのが正解だと思います。ただ、核兵器を持っていることが問題点で、今はそれを理由に西欧諸国に「弱者の恫喝」をしているのです。日本で言えば〇〇組という暴力団が、核兵器を入手して日本政府を脅しているということになるのかもしれません。


このように、国際秩序は、NO.1とそれに対抗するNO.2とのせめぎあいの中でつくられていると考えられ、これに、地政学の観点を合わせてみれば、大局的な視点で国際関係がわかるのではないかと思います。

なお、地政学上の重要な考え方に「チョークポイント」があるのですが、今回は割愛いたしました。



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