赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

①地政学の視点で国際情勢を見る【基礎編】 コラム(471)

2022-10-16 00:00:00 | 政治見解



コラム(471):①地政学の視点で国際情勢を見る【基礎編】

いまから数年前、国際情勢を見る際、ドイツのメルケル元首相の中国政策が私にはどうしても理解できませんでした。西側諸国から民主主義と人権を擁護する代表格と見られ、2007年にはチベットを訪問しダライ・ラマと面談したことから中国の報復を受けたにもかかわらず、15年にわたる首相在任中に中国訪問を12回も繰り返し、中国と緊密な関係を築いてきたことに、です。国益のための行動と切り捨ててしまえばそれまでですが、ほかに理由があるかもしれないとずっと考えておりました。

最近になってある国際政治学者の言葉が長年の疑問を解消してくれたように思います。その方は
「独・国家大戦略の失敗――ユーラシア枢軸構想を狙ったドイツの野望」と題するお話で「独ロ中が提携して、3国のランドパワー、大陸国家のアライアンスを作ってやる。アメリカ市場に依存しないで、ドイツはヨーロッパで一番大きな影響力を持ちながらEUをコントロールしながら、ロシアにエネルギーを供給させ、そして製造業大国ドイツが栄え、そしてそのマーケットはさらに一番大きな14億のマーケットがあるチャイナで儲けると。こういう図式を描いたんでしょうね。」
ということを述べておられました。

その中に「ランドパワー」、「大陸国家」という言葉がでてきまして、昔、学んだ「地政学」を思い出しました。それに当てはめてみれば、ロシアによるウクライナ侵略の意味の一端もわかるのではないかと思い至りました。そして、改めて地政学という考えを紐解いてみると、安倍元総理の「地球を俯瞰する外交」やアメリカの国家外交政策にまでに昇華させた「自由で開かれたインド太平洋戦略」QUADの取り組みも、この考え方の延長線上にあるのではないかと考えるに至ったわけです。

前置きはそれくらいにして、地政学から見た国際政治とはいかなるものかを述べていきたいと思います。

地政学とは何か

地政学とは、地理的な条件が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響をマクロの視点から研究する学問分野です。英国の地理学者のマッキンダーや米国の海軍将校のマハンなどによって理論化されたユニークな考え方です。戦後の東西冷戦期には下火になったものの、現在の国際社会の複雑な利害関係を紐解く上で、地理を軸にして考えればシンプルに整理できるものとして再び脚光を浴びています。


ランドパワー(陸軍国家)とシーパワー(海軍国家)

ここでは基本的な考え方である「ランドパワーとシーパワー」、「ハートランドとリムランド」という概念を中心に述べていきたいと思います。

「ランドパワー」とは、陸上における経済拠点や交通網などを支配・防衛するための軍事力・輸送力を含む総合的な能力を持つ勢力のことです。ユーラシア大陸にある大陸国家、具体的にはロシア、中国、ドイツなどが該当します。それらの国は陸軍が主体のイメージがあると思います。ランドパワーがわかりにくければ「陸軍国家」と覚えておくといいかもしれません。

一方、「シーパワー」とは、港を含む海上交通路や経済拠点のネットワークを持ち、それにより海洋を支配・利用するための総合能力を持つ海洋国家で、具体的な例としてはアメリカ、イギリス、日本などが挙げられます。実際、アメリカの最強部隊は海兵隊です。陸軍は工兵が主体です。また、イギリスは故エリザベス女王の棺を引っ張ったのは海軍兵士でした。そのシーンを映像で見たと思います。大英帝国は海軍が主力なのです。したがって、シーパワーを「海軍国家」と言い換えることもできます。私が初期に学んだときにはその表現でした。


ランドパワーとシーパワーのせめぎあい

歴史を紐解くと、ランドパワーの国(陸軍国家)は常に領土の拡張をめざし、これに対してシーパワーの国(海軍国家)は、港や基地を整備して防御するという構造が基本形となっています。

歴史を簡単に振り返りますと、15世紀、大航海時代を迎え、スペインやイギリスが世界中の海を制覇したためシーパワーの国(海軍国家)が覇権を握っていました。そして、19世紀から20世紀前半にかけては鉄道網や道路網などの整備で陸上輸送能力が急激に発達したためドイツやロシアといったランドパワーの国(陸軍国家)が台頭してきました。さらに、2つの世界大戦を経て、20世紀後半からはシーパワーの国(海軍国家)アメリカが覇権国家になるという歴史となっています。ただ、現在のアメリカは覇権国家としての陰りを見せています。


ハートランドとリムランド

ランドパワーやシーパワーという分類はそれぞれの国の軍事力の性質を表すものですが、地理的な領域に関する概念はハートランドとリムランドに分けられます。

ハートランドとは、シーパワーの影響がほとんどないユーラシアの中央部から北部に広がる領域を指します。

現在のロシアと重なるエリアです。このエリアを支配することは巨大なランドパワーを得ることと同義であると考えられていますが、雨が少なく寒冷であり、古くから人口は多くなく、文明が栄えることはあまりありませんでした。

一方のリムランドとはユーラシア大陸の海岸線に沿ったエリアで、中国東北部から東南アジア、インド半島、アラビア半島を経てヨーロッパ大陸に至る長大なユーラシア沿海領域を指します。この領域は温暖で雨量が多く、農耕の生産性が高く、経済活動が盛んであり、大都市と多くの人口がここに集中しています。

歴史上、厳しい環境のハートランドの国は、豊かなリムランドにたびたび侵攻し、リムランドの国やその外側のシーパワーの国と衝突しています。第二次世界大戦後の朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などが例となります。リムランドとは、「ハートランドのランドパワー」と、「周辺のシーパワー」がぶつかり合い、国際紛争が起きやすい地域と言うことができます。

以上の考え方をもとに、明日は現状を分析していきます。(つづく)



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