田舎の倉庫

Plala Broach から移植しました。

村上春樹著「小澤征爾さんと、音楽について話をする」

2012年02月29日 | 読書三昧

人気・実力ともにNO.1と目される村上氏だが、「空には月がふたつ出ていた(1Q84)」などと言う作家は信用できないと思っていた。

その彼がジャズ喫茶を経営した経歴を持ち、ジャズとクラシックの熱心な愛好家だとは知らなかった。その音楽に対する真摯な姿勢と、何よりも、聴いている量の多さと知識の豊富さに脱帽した。

また、小澤征爾氏という、言わば現代のモンスターのような音楽家をつかまえて、音楽が生み出される舞台裏に迫り、また、彼の音楽観や人生訓など、音楽ファンなら誰でも一度は聞いてみたくなるような話を引き出した功績は大きいと思った。

同書の「始めに」から核心部分を引用させていただくと・・・

"僕は素人だけど(素人だからこそというべきか)音楽を聴くときは無心に耳を澄ませ、その音楽の素晴らしい部分をただ素直に聴き取り、身体に取り入れようとする。素晴らしい部分があれば幸福な気持ちになれるし、あまり素晴らしくない部分があればいささか残念に思う。

もしその上で余裕があれば、素晴らしいとはどういうことなのか、あまり素晴らしくないとはどういうことなのかについて、僕なりに考えを巡らせたりもする。しかし音楽のそれ以外の要素は僕にとって、さほど重要な意味を持たない。

音楽とは基本的に、人を幸福な気持ちにするべきものなのだと考えている。そこには人を幸福な気持ちにするための実に様々な方法や道筋があり、その複雑さが僕の心をごく単純に魅了する。

僕としては小澤さんの話を聞くにあたっても、その姿勢をできるだけ崩さないことを心がけた。言い換えれば、好奇心の旺盛な、そしてできるだけ正直な素人の聞き手であることを心がけた。たぶんこの本を読まれる方の大部分は、僕と同じような「素人」の音楽ファンなのだから。"