桔梗おぢのブラブラJournal

突然やる気を起こしたり、なくしたり。桔梗の花をこよなく愛する「おぢ」の見たまま、聞いたまま、感じたままの徒然草です。

入院一週間目の小外出

2009年12月14日 21時33分56秒 | つぶやき

 十一月二十七日 ― 入院八日目。
 午前中、再び内視鏡検査があって、出血も見られなかった上、血液検査では赤血球数は三日前の253から261、血色素数は7・6から7・9、ヘマトクリットは22・8から24・0へ。

 
まだまだ基準値には程遠い数値ですが、少しずつ改善されてきている、という医師の話でした。
 ただ、血色素数は9・0以上にならないと、退院許可が出る見込みはない。また三日後に予定されている検査結果を待たないと、いつごろなら9・0以上になりそうかという予測は立てられず、少なくとも十一月中の退院は望みなし、とのこと。

 それはそれで諦めがつきましたが、問題は下着類やタオルなどは差し入れてもらっていたものの、その他身の回りのもの(たとえば携帯電話の充電器)が何もないということでした。取り立てて連絡を取らねばならぬ人はいませんが、私にとっては携帯電話だけが外界と繋がる唯一の手段です。そろそろ電池切れも近い。
 月末も近いので、いろんな支払いもしなければなりません。

 ナースの長(おさ)に相談を持ちかけると、短時間なら外出してもよいという許可が出ました。あとになってみると、それほど仰々しいものではなかったのですが、外出に当たって、外出申請書という書類を出さなければなりません。
 申請書には外出の目的と所要時間、付き添い人などの欄があって、私の場合は貧血で倒れる心配があるので、付き添いのあるのが望ましいとのこと。急なことなので、付き添いを頼める人などいません。急でなくとも、多分いません。
 付き添いの件をどうしようかと考えながら、自宅に帰ったら、入院中の垢を落とし、髪を洗おうと思いました。
 それからクリーニング店、銀行、コンビニ、携帯電話ショップと、その日、行くべきところをリストアップして、病室のある四階フロアをひと巡りしました。足慣らしのつもりでした。



 内視鏡検査を控えていたので、前日の夜九時以降、絶食でした。もちろん朝食も抜きだったので、昼食は一気に平らげました。
 内視鏡検査の結果がわかっていたはずはありませんが、何かのお祝いのつもりか、デザート代わりの「もみじまんじゅう」と「もみじを彩る秋の夕陽」と印刷されたカードがついていました。

 昼食後、衣服を着替えて一階に降りると、新型インフルエンザのせいもあって、外来待合は人で溢れていました。受付はてんてこ舞いの様子で、私に付き添いがあるかどうか、見咎める人もいません。
 玄関の自動ドアを二つ抜けると、久しぶりの外気です。



 いつも私が眺めていたのは、病室から見える武蔵野貨物線と渡り廊下にあるこの窓からの景色だけです。左手少し先が新松戸駅。道路に面して左右に馴染みの店がありますが、ここからは見えません。

 それが、今日は籠から放たれた小鳥のような気分です。天気もよかったので、晴れがましいような、照れ臭いような気持ちでもありました。
 一歩道路に踏み出したとき、頭がクラクラとしました。太陽の光を浴びた瞬間のことです。

 足取りを確かめながらゆっくりと歩き、いつも通勤時に通る流鉄の線路際に出ました。見慣れたはずの風景がすごく新鮮に感じられます。

 入院している間に、季節も晩秋から初冬へと移り変わっていました。
 私は暖かい病室でぬくぬくと過ごしていたので気づかぬ日もありましたが、わずか一週間のうちに、小雨の降った日が三日もあり、最高気温が10度に届かぬ日もあったのです。
 我が庵のあるマンション前の通りが妙に明るく感じられると思ったら、欅や公孫樹の葉がすっかり散っていたのでした。

 庵に帰って、病室に持って行くものをショッピングバッグに詰め、植木類に水をやって腰を上げました。



 本は何を持って行こうかと逡巡した挙げ句、読み差しのままだった車谷長吉さんの「灘の男」を持って行くことにしました。
 何より気にかかっていたのは、その夜に訪ねてきてくれる友人に用意しておいた手土産を庵に置いたままにしていることでした。すぐ取り出せるように、一番最後にバッグに収めました。

 所用を済ませたあと、近くのダイエーに行きました。昼は済ませていたのに、小腹が空いています。
 病院では私のような患者が外出に乗じて何をしたくなるのかを先刻承知なのでしょう。間食は取ってもよいが、消化のよくないものと過度な刺激物は禁物というほか、とくに注意はありませんでした。
 分厚いハムステーキも食いたい、パスタも食いたいと、触手を動かされるものはたくさんありましたが、一度には食べられません。
 一つだけなら何を食べるかとつらつら考えてみるに、ケンタッキーフライドチキンしかないだろうとの結論が導かれました。

 店に入り、メニューを見上げると、小さな子が初めて独りでお使いに出たときのような気持ちです。喉がカラカラに乾くような思いを味わいながら、チキン1ピースと薄めのコーヒーを注文。食べ物を注文するのに、こんな緊張感を覚えたのは初めてです。
 1ピースはあっという間に食べ終えてしまいました。骨もバリバリ噛み砕いて食べたいという誘惑に駆られましたが、せっかく治りかけている胃の腑に傷をつけてはいけないと思って我慢。コーヒーも何十年ぶりかで砂糖を入れました。
 フライドポテトも食べたかったけれど、油+油はさすがにいかんと、これも自制。あと1ピースは食べられそうに思えましたが、腹八分目と言い聞かせて店を出ました。

 フライドチキンをわずか1ピース食べただけで、非常に満ち足りた幸せな気分でした。
 その夜はもう一つうれしいことが待っていたからでもありますが、それは次のブログで……。


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