時々新聞社

慌ただしい日々の合い間を縫って、感じたことを時々報告したいと思います

16歳少女、茶髪で「クビ」を撤回させる

2007年05月21日 | 社会問題
16歳の少女が、髪の色を理由にアルバイト先の店長から突然、クビを通告された。
週5日、朝8時から夕方5時まで牛丼チェーン店で働き、さらに週2、3日は午後6時から9時半までファミリーレストランで働く。ダブルワークで月収は約16万円。高卒認定試験(旧大検)をとって大学に進み、獣医師になるのが夢だ。
ところが3月、ファミレスの新店長に「髪の色を黒くしなさい」と指示された。極端な茶髪ではないし、店では規則通りに束ねている。1週間考えた後、拒否した。店長からは「それなら一緒に働けない」と告げられたという。
ユニオンに入って交渉することにした。4月の団体交渉で、会社側は「解雇通告だというのは誤解」と説明。店長の「クビ」発言についてもはっきり認めない。交渉の結果、会社は、髪を黒くしなくても今まで通り働くことを認めたというような記事である。
短い記事のため、状況を正確に把握することはできないが、およそ以下のようなことはわかる。
・問題なく採用され、就業規則に則って髪を束ねて勤務しており、前の店長のもとでは、茶髪が問題視されていないことから、就業規則にも茶髪禁止は規定されていないのであろう。
・店長といっても、おそらく経営者ではなく、解雇について決定できる立場にないと思われる。
ユニオンによる交渉で、会社側も「解雇」を主張していないことから、店長による勇み足と判断するのが妥当だろう。
新店長には、新たに店長に任命されたという気負いもあり、彼(彼女?)自身の考えもあったと思われるが、明らかに職権を逸脱しており、違法な行為である。
おそらく、この店長も、会社側から『軽はずみなひと言で問題を大きくしてくれた』ということで注意されたのではあるまいか。
店長と言っても、会社で言えば1つの店を任されている単なる下級管理職であろう。
一般の企業で、代表権のカケラさえ持たない係長や課長から「貴様はクビだ」と言われて、即退職になることがあるだろうか。まともな管理職なら、絶対にこのような軽はずみな言動は行わない。もしこのようなことが許されるなら、上司の個人的な好き嫌いで直ちに職を失ってしまうことになる。たかがアルバイトなどと思ってはいけない。それほど、雇用契約の解消は簡単ではなく、労働者の働く権利は重いのである。
一般に、アルバイトという立場では、店長などから「クビ」と言われたら、泣き寝入りするケースがほとんどと思われるが、この少女の場合、ユニオンに入って交渉し、店長による「クビ」を撤回させたことは立派である。
今回のようなケースでの「解雇」が認められれば、たとえば、方言を含む言葉遣い、スタイル、容姿、病気や障害の有無など、何でも「クビ」の対象にされてしまう。企業側のやりたい放題を許すことになる。
このニュースに関して、多くのブログで賛否両論が述べられているが、これらの意見の中で編集長が驚いたのは、「なぜそうまでして茶髪にこだわるのか」、「自由の意味を履き違えている」、「上司の指示だから従うべき」などの意見があることだ。また、「それほど騒ぐほどのことなのか」、「どっちもどっち」という意見もある。
今回の茶髪も本来それほど問題にすべきことではなかった。だからこそ、会社側も直ちに「解雇」を否定し、和解しているのである。
偽装請負、ワーキングプア、ネットカフェ難民など、青年の雇用環境は悪化している。青年のみならず、労働現場では違法な長時間労働、サービス残業や過労死の蔓延などもすでに公然の事実である。
このように労働者の命さえ縮めるような働き方を是正するためには、労働法制に則った企業に対する規制や労働者自身による告発などが不可欠である。
今回のケースは、従業員一同でストライキをやったとか、裁判を行って解雇を撤回させたとか、多額の賠償金を払わせたとかいうハデな事案ではない。今の労働現場を見ればどこにでもあるような出来事である。だからこそなおさら、この新店長による「解雇」を認め、泣き寝入りが当たり前ということになれば、アルバイトにすらありつけない多くの若者を新たに生み出すことになりかねない。
そういう意味で、この16歳の少女が今回残した足跡は、世間が考えている以上にその社会的な意義は大きいのである。