『ソウルボート航海記』 by 遊田玉彦(ゆうでん・たまひこ)

私たちは、どこから来てどこへゆくのか?    ゆうでん流ブログ・マガジン(エッセイ・旅行記・小説etc)

ドリーマー20XX年 1章

2011年05月01日 07時20分21秒 | 近未来長編小説『ドリーマー20XX年』
さて、いよいよお待ちかねの小説『ドリーマー20XX年』がスタート! 
終章まで長い物語です。ゴールデンウィーク中はドリーマー導入編(1~3章)を掲載し、その後は章ごとに区切って週1回ペースで掲載します。
なお、この小説を画面右欄のカテゴリー『ドリーマー20XX年』でお読みになるには、当ブログ機能の事情で1章からの順番が逆になるため、章立ての番号を順にご覧ください。最後までお読みになられた貴方はエライ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第一部
ドリーマー導入編

~~1~~
M師とわたしの奇妙な会話


 朝になると今の今までどこにいたのかよく分からなかったのが目の底に光が入ってきて、まぶたをパチクリさせ、寝ていたことを思い出したとたん、起きる。誰でも、朝はそういうものだろう。だから別に変わった起き方の話じゃない。それよりも、その前が問題なのだ。寝ているときに、このわたしがどこにいたのかまったくもって疑問なのだが、とにかく眠っていた最中の、わずかばかりの記憶に基づいて、そこで起こる奇妙な体験についてお話ししようと思うのである。

 ことわっておくが、わたし山田一雄、四十五歳は多少の躁鬱の気があって仕事やら生活やらのストレスから精神にかなりのほころびはあるが、精神科医にかかったことはまだない。だが、今後あるかもしれないということは否定しない。誰だって、いっぱしの中年男となれば、そのくらいの可能性はあるだろう。アメリカあたりでは馴染みのカウンセラーを抱えている市民はごまんといるそうだから、これからの日本も、そういうことになるであろうことは対岸の火を見るまでもないことだ。

「ここのところ、どうも心の具合がよくないから午前中ちょっと寄ってきます」と、オフィスに電話を入れても、同僚連中も「そうですか。お大事に」くらいで済ませる。
 むしろ、「山田はカウンセリングを受けていないが大丈夫か」と上司が言い、「そうなんですよ、精神科の定期検診を受けたがらないんで」と部下に言われる課長代理が問題になる日はすぐそこである。

 ということで、渋々、精神を分析されるわけである。たとえば夢判断という分析方法は、精神医学全般で古典的な位置付けをされているが、その夢判断はフロイト博士が初代で、夢に登場した相手が、女、あるいは男でなくとも、たとえば破れたブヨブヨのゴム風船、あるいは、黒光りする長い棒などが登場した場合、それは疑うことなく性的シンボルとして認められ、日常生活においての性的な抑圧が原因であると判断されるところである。

 そうだとして、誰だって多少の差は別にして、性的抑圧は常識というものだ。抑圧がなければ興奮しないではないか。だったら、全部が全部、夢の世界は性的抑圧のお祭り騒ぎか? といえば、そんなことはないというのが現代の心理学および精神医学界の共通した見解だろう。フロイトはよほど性的魅惑に取り憑かれた博士だったのだろう。

 まあ、しかし、わたしはフロイト博士を批判したいわけではなかったのに悪口を叩いてしまっている。この時点でわたしは分裂していることになる。誰だって、本音と建て前で分裂した意見を交錯させていて、その場の勢いでどっちに転ぶかは分からないのである。

 確かに、いちいち今のが本音で、さっきのは建て前で、と頭の中で分類整理してしゃべっている人がいることにはいる。そういう輩は政治家などに多いが、ふつうの人間にはそんな即座の芸当はできないから、どれがどれなのか分からずじまいで生きているのが日常というもののはずである。

 つまりだ・・・。
 わたしらは性的抑圧の虜、ならびに分裂の奴隷なのである。世間的常識で身を包み隠しながら、脳膜にはあらぬヴィジョンをちらつかせ、電車の吊革にぶら下がり、窓の外を黙って眺めるピープルである。今朝も通勤電車の中で、目の前の黒いストッキングの足が挑発的に感じられ、あらぬ妄想をしたばかりである。はっきりいって、そういうことを考えているということが、その場でバレたら死ぬほど恥ずかしいのだから、能面のような顔をして何も見ていないフリを装っているのはわたしに限った話ではない。

 話を夢に戻そう。
 わたしは夢を見る。それは眠るからであるが、その夢は場面というのもがいっさい無いのである。背景の色が、白から水色、黄色、紫色、茶色、ときに黒と変化することはあっても、風景というものが無いのである。

 背景があるのだから、奥行きはある。一メートルくらいに感じるときもあれば、どこまで行っても奥行きのときもある。奥行きというものは、そういうものである。ずっとずっと奥なのである。

 問題は、奥行きに必ず、M師が立っていることだ。
 手足が異様に細長くて、顔はツルンとしていて顎に髭を生やしていて、目が細く、唇が薄く、鼻はご愛敬ほどのものがついていて、かりに白い瓜に目鼻をつけてヤギ髭を生やしたらそんな感じになろうかといった顔である。見てくれはそんなふうなのだが、いちばんの特徴は、その顔が、満面の笑みをたたえていることである。

 これには困った。なぜかといえば、初めて夢にM師が現われてからというもの、黄色や緑の背景に立って、ただ笑っているだけで何もしゃべらない。わたしはといえば笑うこともできず、ただ見ているしかなかった。面白くも何ともない日々ばかりが続いた。そのうち眠るのにも嫌気がさして三日くらい頑張ってみたが、気をゆるしたとたんパタンと倒れて気がついたらまたM師が立っていた。こうなったらお終いで、こちらは何もできず、ただ、笑い顔を見ているしかない。

 意味の無い笑い顔を見ていることの辛さは、悪意を帯びた、いかめしい面を見ているよりも何十倍も苦しいということは体験した者でなければ決して分かりはしないだろう。その場にハンマーでもあれば、ためらいなく自分の頭を打ちつけて、苦しみから開放されようとするはずである。それなら目を閉じて見ないでいればいいのだが、それができないからひたすら苦しい。

 ではなぜ目が閉じられないのかと起きてからずいぶん考えた結果たどり着いた結論は、眠っているからだということだった。あちらで目を閉じていれば、夢のこちらでは目を開けているしかないではないか。どうも、そういう原理原則があるようである。

 ちなみにM師という名前は、わたしが勝手につけたもので、微笑む、のMという単なるゴロ合わせにすぎない。苦しまぎれにそんな名前をつけたのであって、決してM師に敬愛とか親しみとかを感じていたわけではない。朝起きるたびに、そのM師と別れることができる喜びを感じて、布団から出ることがわたしの幸せになったくらいである。お陰でわたしはこの夢を見るようになってからというもの、体重が十五キロも減ってしまった。もっとも、わたしの場合それ以前は一六三センチの身長に九十キロからあったのだから、すこしばかり普通の体型にもどったというだけの話である。周囲の人間は、やっとダイエットを始めたのだねと言って喜んでくれる。

 とにかく、そういうことが半年くらいも続いただろうか。またどうせM師が今夜も現われるだろうから、その前に首をくくって永遠におさらばしてやろうか。いや、もう一晩だけ付き合って、馬鹿やろう!の一言もいってからでも遅くない、と思い返して布団に入ったのである。

 時間という感覚は無いのだが、気分的には一○○時間は経っただろうか、満面の笑みのM師を前にして、そのときの背景は当初、白だったのが、だんだん変化して赤みを帯びた瞬間、わたしは、馬鹿やろう! の「ば」の字を口から吐き出そうとして、大きく息を吸い込んだ。
 そして、「ば」と言ったところで、
「馬鹿やろうは、おまえだな」
 と、M師が言った。
 わたしは二の句が告げず、ぽかんと口を開けて、M師を見た。
 満面の笑みでM師がこちらを見ている。悔しくて、おさらばの「お」の字を言った瞬間、
「おさらばするか?」
 と、M師が言った。
 それからは身体に巻ついた縄がスルスルほどけたようになって、金魚のように口をパクパクさせて、あーいーうーえーおー、と口がきけるのを確かめ、
「あんた、しゃべるのか?」と聞き返した。
「おまえがしゃべれば」
「何だって?」
「わしはずっと、おまえがしゃべるのを待っていた」
「何だよ、それぇ」
「これまで、おまえさんは一度もしゃべろうとしなかったじゃろう?」
「だって、あんたが何も言わないから」
「同じ言葉をそっくりおまえに返してやるわい」そう言ってM師が笑みを顔じゅう膨らませた。何ともおぞましく、これだけ人を苦しめておいて、この後に及んでよくそんな顔ができるな! というホホ笑みだった。

 それから、わたしたちの会話が始まったのである。話の内容は、わたしがその場その場で思いついたことをしゃべり、それにM師が答えるという形式で、M師のほうから話題を提供することはまず無い。誰が決めたルールというわけではないが、そういうことになっていた。だから、わたしは拷問のような退屈は金輪際、懲りごりだったから、適当に思いついたことを眠っているあいだじゅうペラペラと話し続けたのである。

              ○○○

 今夜もM師との会話が始まった。
「何かと言えば金、金で巷じゃ、ひったくりが若い娘を襲ってハンドバックから二千円ぽっちを盗むんだからね。そんなのでつかまってどうするんだろう」
「金って何じゃと思う?」
「おれにとって金は給料で、それでごはん食べて酒も飲んで家賃払って、まあ生活していくための何ていうのか金は金だな」
「その金が無くなれば、どうなる?」
「どうもこうも、生きていけないじゃないの」
「では、金で生きておるわけだな」
「まあ、そうとも言えるけど」
「子どもの頃もそうだったか?」
「子どものときは親に食わせてもらってたから」
「親はなぜ子を食べさせる?」
「それが親の責任ってもんだから」
「責任だけか」
「いや、まあ愛情だとか」
「では、愛情があれば親子でなくても、そういう関係になれるのではないか」
「夫婦もそうだろうけど。それから福祉なんかの場合でも」
「金は実態のない約束事でしかないんじゃよ。それも地球規模の価値観を築き上げる強力なパワーを持った。だが、金は数字上の幻想と言っていいものじゃ。経済学なんてもんはまったくのまやかしなんじゃが、ふつうの人間に理解できんようにする手段じゃよ。その経済学の言葉を借りて簡単にいえば、金は信用創造で生み出されるが、信用したことにすればいくらでも刷れる。つまり無いところから金を作り出す一種の錬金術といえるな」
「無いのに創り出せるって、おれにはよくわかんないな」
「信用ってなんだと思う?」
「たとえば、おれがあんたを信じるって」
「なんで信じる?」
「もうずいぶん付き合ってるし、まあ、なんとなく」
「つまり、そう思うから信用すると。思わなければ信用しないと。だったら信用できると思うだけで金は創り出せるだろう。でな、そう思って刷れる連中が金を作って思うようにコントロールしているというわけじゃ」
「勝手にか?」
「そう好き勝手にじゃ」
「どこの連中だよそんなことできるの」
「中央銀行」
「じゃあ、それぞれ国が勝手にやってるのか」
「ちがう。国じゃない。中央銀行とは民間金融機関じゃ。日銀も株式会社じゃ。日銀が紙幣を刷って国に売って利益を出しておるよ。国は借金して、その利子まで払っておる」
「え? 国が金を擦ってるんじゃないの?」
「国は硬貨を造幣しておるが、紙幣は日銀が擦っておる」
「なんで! だったら国が作れば借金なんかないじゃないの。それで増税されたんじゃたまらんじゃないか」
「本来、紙幣発行権は国にある」
「なら、なんで国が擦らないのよ。おかしいじゃない。どうしてよ」
「アメリカに右倣え。どこの国も、世界の金融システムがそうなってしまっておる」
「ますます、わけがわかななくなったよ。国ってなんなのか」
「そうじゃろうて。世界はのう、みんなが信じている国家という姿と目には見えない金融世界があるんじゃよ。表と裏とじゃ。表は裏からコントロールされ、本来の豊かさを吸われ続けておるということじゃ」
「なんか、胸が悪くなってきたよ」
「本当は金などなくても、その人間に必要なものは手に入るし、その権利もあるんじゃよ」
「今度は基本的人権の話?」
「いや、魂と生命の話じゃ。金を介在させて物を交換しなくても、人類が、とくに文明人が親と子の関係のような精神状態にあれば、どこでも、いつでも、必要な物は手に入る。互いに助け、活かし合うからな。また、そういう次元の世界もある」
「そんな、絵空事のような話ありっこないさ」
「アマゾンの、アフリカの、またはチベットの、辺境の地に住む人間たちはそれに近い生活をしているぞ」
「なんだ、原始生活の話か」
「そう思うのが現代病じゃよ。端からゴミになる有り余る物質と、それを動かす金の力の渦にどっぷり浸かった人間には理解不能の世界じゃな。ほっほっほっほう」
「ごたくはいいから、金くれ!だよ」
「ならば、どのくらいあったらいい。どのくらい金がほしい?」
「サラリーマンが一生働いて、まあ二億円がいいとこだから、その倍もあれば」
「そうか、ここにきっちり五億円あるが」

 M師がそう言ったとたん、目の前に五億円の札束が積み重なった。刷り立てのインクの匂いまで漂っている。わたしは金の山を眺め、思いを巡らせた。

「そうさなあ、まず庭付きの五十坪の家を建てて、最高級のAVシステムを三十畳のリビングにしつらえて、ローレックスとか、ベンツのスポーツタイプとか、あれこれほしかった物をひと通り買って、フォアグラとかキャビアとか旨いものを鱈腹喰って、それに飽きたらリッチな海外旅行にでも出かけて、そうだ豪華客船で世界一周の旅もいいな。美女がいっぱい乗ってる船で、シャンパンを浴びるように飲んで、葉巻を吸いながら片手は美女の膝に置いて、片手はトランプでもするか、ヒッヒッヒ」
「それでもまだ半分は残っているが、その金はどうする?」
「海外預金して利子で生活だな」
「遊んで暮らすというわけじゃな」
「じゃあ、何か事業でも始めるか」
「どんな?」
「チェーン店」
「なんの?」
「ビデオ屋」
「それで?」
「そうなってみないと分からないよ。やめよう金の話は」
「どうして?」
「金について話してると、わびしくなる」
「そう、おまえさんの世界はそうじゃろう。ここでは金は言葉でしかないから五億と言えば五億現われる」
「ここって、どこのこと?」
「おまえさんがあとで思い出す世界じゃ」

 M師がそう言うと、パッと世界が切り替わって、わたしは目覚め、夢を思い返すのがいつものくりかえしなのだ。夢は、夢の中では夢と思っていない。起きてから、夢だったと知るのである。
 五億円がここにあったはずだ!
 わたしは手で宙をかきまわし、布団のまわりまさぐったが、そんなものがあるはずがない。鼻にはまだ、新札のインクの匂いがハッキリと残っている。

 昨夜は、保険料の請求書を見て溜息をついて寝たから、そういう夢を見たのだと、また、溜息をついた。滞納している保険料を早く払わなければ保障を剥奪するといいやがった。保険は生命の保証をしてくれるのではなく、何かあったときのための安心を買っているような気分で毎月金を払うのだが、まだ怪我も病気もしていないので、ただ金を払い続けているだけの気がしてしかたがない。ポックリ死んだら遺族に何がしかの金が入るのだろうが、本人は決して受け取ることのない金だ。死んでしまうのだから、どうでもいい話である。

                ○○○
 
 次の夜は、酒が入っていた。久しぶりに女性がいる新宿の飲み屋に出かけ、歌舞伎町のキャバクラだが、化粧の匂いを嗅いで、情欲まさぐるウヒヒッな酒を飲んだのだ。とはいっても、ビールを二本飲んでいるあいだに三回手を握ったのと、一度肩に腕を回しただけのことで、一万円のボトルを入れるのをためらっていると、その子はちがう席に行って帰ってこなかったから、それがウヒヒッであったと言えばうそである。うそであるが、手を握っただけで想像するのはこちらの勝手だ。

 布団に入ったわたしは、もちろんある期待を胸にしていた。まさか、それは絶対ない。M師が絶世の美女に変身して待っているなんて。いや、そうであっても気持ち悪い。そうではなく、M師との会話が女についてのことに及んだら、ひょっとしてそこにわたしが密かに恋しているキャパクラアイドルのS嬢が現われてくれるのではないかと期待しているのである。

 眠りの縁で、わたしはアイドルS嬢の顔を思い浮かべ、期待に胸を踊らせているうちに、目が冴えてしまい、眠ろうとすればよけいに眠れない状態にロックがかかって、眠れなくなってしまった。

 前にも何度かこういうことがあったのだ。眠ったのは、たぶん明け方のころだったろうか。期待した会話は、こうなったのである。
「産道っていうのは、あれだな、人間が初めて歩く道のことって思う」
「ほう、少しは進歩があったようじゃな」
 M師が、ホホホホホウ
 と、声を出して笑った。

 笑うのはM師の専売特許だが、声をあげる場合は会話がとくに弾む前兆だ。
「口にしちゃいけないんだ。大学のとき心理学の本でエディプス・コンプレックスっていうのを知ってそう思った。セックスの対象としての最初の女性は母親である。ショックだったな。だっておれ四年生のとき母親にオッパイねだったことがあってさ。吸ってると、とろんとした気持ちになって幸せだった。でも」
「でも、何じゃ?」
「悪いことだって」
「ほんとうに、そう思うのか?」
「いや、でも何か」
「十月十日、三二○日間過ごした子宮は愛の園だったのではないかな。産道は人生の花道じゃが辛い別れ道でもある。忘れられなくて当然。飛び出た瞬間、オギャーと泣くのが試練の始まりじゃ」

 アイドルS嬢が出てくるどころか、母親のやつれた顔が目に浮かんだ。何だか寂しい気持ちになって、わたしはベソをかきそうになった。
「おれ、生まれるかどうか最後まで悩んでいたんだ」
「知っとるよ」
「あっちが、よかった」
「あっちって、どこじゃ。子宮のことかな?」
「あっちは、あっちだよ。子宮に入る前の」
「ほう、覚えているか」
「何となくだけど、うすぼんやりと。寒くも暑くもなくて、いい街だったな。気心の知れた仲間もいたし、美味しいものもたくさんあったな。そうだ、目の覚めるような美しい女の人がいた。あの人にもう一度会いたい。何か話したんだが、思い出せない。思い出そうとすると、どんどん遠ざかっていく」
「インターシティじゃよ。中間の街といってな。ああいう街が無数にあるんじゃ。それぞれの魂に合った街がな。で、子宮に入ったころには忘れることが約束となっておる」
「あんたも、あの街にいたの?」
「わしはどこにも行ける」
「なら、おれを連れてってよ」

 M師が笑ってわたしを見つめ、「よかろうて」と言った。「じゃが、ちょっぴりだけ」と付け加えた。
「お願い!」わたしは大声でそう言って目を剥いた。
「よし。だが、ひとつ約束がある」
「何だい?」
「ルールじゃ。絶対に口を開いてはいけません。守れるかな?」
「ああ、もちろん!」
 こうして、わたしはM師と初めて新たな旅を体験することになったのである。だが、その旅はわたしが想像もしなかった、世にもふしぎな旅だった。しゃぼん玉に乗ってふわふわ飛んでゆくような夢想旅行を期待したのに・・・

(2章へ つづく)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ご注意】
ここまで安サラリーマン山田一雄の脳内のご託をお読みになってバカバカしくなった方は、もう読まないほうがいいかと思います。この先はもっとへんてこりんなお話になって、バカじゃないのと腹が立ってくるうちに、別世界へ旅をすることになります。近未来の新宿区へ飛ぶのはもう暫く先の物語です。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿