保守はゴジラの夢を見るかⅣⅩ

　”戦前の物語”が終わらないまま”戦後の物語”にすり替わってしまった現実があるのです。これは戦後の日本の精神構造に悪影響を与えていると思います。
それだけではなく「国が戦争に負ける」「占領される」「いつ独立が回復するか分からない、いつまで続くかわからない」そういった経験は大変屈辱的なものです。
戦争中の日本は「神国、世界一強く絶対負けない」という物語を信じていました。それがコテンパンに負けて国中焼け野原でしかも占領されるのです。
相当に世界観が崩れることでしょう。そこから新しい世界観を作り上げなければ”戦後の物語”は始まりようがありません。
それはどのようにして始まったのでしょう。
日本人は『敵であったはずのアメリカと気持ちの上で一体化することで敗戦ショックを押さえつけて自分たちのアイデンティティー危機を回避しようとした』のです。
とても乱暴なことです。負けた側が勝った側を横目で見ながら「実は我々も彼らの一員なんだ…」、いくら思い込んでも普通は通用しません。
勝ち組と負け組の違いは歴然としてあるのです。それでも物語はこうして始まります。その理由の一つは占領政策が予想より寛大だったからです。
それがもし厳しくて餓死者が山のように出たら「我々とアメリカは一心同体だ」といっても説得力はないでしょう。
しかしアメリカは占領軍の司令官マッカーサーが自分の政治的野心、「大統領になりたい…」という野心があったため食料援助を十分に行いました。
またポツダム宣言の内容に従うなら「二度と日本が立ち上がれないように日本の産業は解体しまえ」という方針がありましたが、
日本がそれなりの産業を持ち続けられるように裏で密かに手をうったりしました。
これによって「鬼畜米英って言ってたけど…、案外アメリカは優しいじゃないの…」と言う話になっていきます。
しかもおもしろいのは日本占領の微妙な性格であります。建前上は連合国軍全体が占領を執行しています。マッカーサーの正式な肩書きは連合国軍最高司令官です。
ところが実際はアメリカ陸軍の単独占領と言って良いでしょう。厳密には中国四国地方の一部に英連邦のオーストラリア、ニュージーランドの軍隊が入っていました。
それを除けばアメリカの単独占領と言って差し支えありません。日本人から見ればアメリカ＝連合国です。しかも終戦直後に国連ができます。
これによって「世界規模で平和を守る、経済発展も保証する」そういう発想が盛んに喧伝されました。これはグローバリズムの極地です。世界政府主義です。
SF作家のH.G.ウエルズは世界政府主義者で第二次大戦直後
「核兵器が使われたからには世界政府を作らなければ人類は滅びる。世界政府か人類滅亡か、二者択一だ」と息巻いていました。
国連はもちろん連合国主動で作られています。常任理事国を見れば分かります。アメリカ＝連合国、連合国＝国連、国連＝全世界と言う図式ができあがります。
つまり『アメリカ＝全世界』なのです。もし日本がアメリカと同一化できれば『日本＝全世界』となります。
また、戦争中に掲げられたスローガンで『八紘一宇』という言葉があります。八紘とは世の中全部、一宇とは屋根のことです。
「世界を一つの屋根に集める」という意味です。日本主導で世界を一つにまとめようとしたのです。
これと「アメリカが今や全世界であり、世界全体に平和と繁栄をもたらす」という敗戦直後の日本で浸透した発想は実によく似ています。
「アメリカが日本に代わって八紘一宇をやってくれた」とも解釈できるのです。
後は「実はアメリカも日本も変わらないのだ。国境や国籍にこだわる時代は終わりました」そう構えるだけで、
『あの戦争は実は勝ったのだ』そう言いくるめることができるのです。これが戦後日本の根本にある錯覚ではないでしょうか？

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