まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

連歌のようにまちづくり

2023-03-21 15:38:20 | 講義・レクチャー Lecture

リンク:設計計画高谷時彦事務所 Profile 記事一覧へ

追加:連歌のようなまちづくりでどのような内川の雰囲気をイメージしているのか・・・・

自分で確かめるために簡単なスケッチを描いてみました。本当は、下記のお話をするときに示せばよかったのでしょう。後出しで失礼します・・・。

 

 

 

内川フォーラム(公益のふるさと創りつるおか主催)でパネルディスカッションの基調となる報告をする機会をいただきました。

内川は20年ほど前に護岸や、沿道の整備がなされています。下の写真のように川岸にも建物が建っていたのですが、それを撤去して「すっきり」した景観をつくったわけです。

川岸に建物があった方がよかったのではないかという声もあります(これには一理あります)が、まずは、「ごちゃごちゃとした景観をつくっていた(と思われていた)」川沿いの建物は撤去して、公園なども歩道や公演なども整備されたという事実を出発点としましょう。私たちの方法の一つは今あるものを生かすということです。

川がきれいになったのですから、次はその空間をどう使うのかということです。当然下のような期待が出てきます。

私が鶴岡の大学院で研究室を持ったのは。ちょうど河川区間の整備が終わり、次のステップへの期待感が市民の間にあった時だと思います。学生さんたちの発意で、次のステップをめざした社会実験が提案されました。2007年のことです。

社会実験はすべて学生の手作りです。タイトルは内川が「変わる」日となりました。

すでに水もきれいになっていたにもかかわらず、市民の意識は「汚いどぶ川」というイメージがありました。その意識を変え、そして新しい使い方をしていこう、沿道にも楽しい店を増やしていけないか、川というのはこんなに楽しい場所になるんですよ・・・そんな思いが込められた社会実験でした。このメニューもいいですね。

 

当日の様子です。

川に面した道も楽しい縁日のような場所になりました。

橋脚にも仕掛けが施されました。

三雪橋の赤い欄干とけんかするような青のペンキで塗られていた橋脚は、イベントのあと目立たない暗色の塗装に塗り替えてくれました。イベントの効果です。

少し昔ばなしになってしまいました。話を現代に戻します。最近の動きはどうでしょうか。

こんな楽しそうなイベントも行われているんですね。また、若い人たちが仕掛けているリバーサイドマルシェも面白そうです。

沿道を見てみます。川に面しているということを十分にいかした、デッキテラス付きのお店です。いいですね。

下スライドは、私が設計させていただいた、商工会議所会館。これも川に面していることを大いに意識した建物です。

以上のように2007年の社会実験以降、「いい方向」に向かっていることが多いのですが、一方では課題も

あります。難しい問題ですが、道路拡張に伴う歴史資産の消失。

それからこんなこともありました。川に沿ってはかつて馬市が開かれていたのですが馬をお祀りする神社もありました。今はなくなりました。また川に面して大きな開口部を持つ建物・・・よそ者の私にとっては「鶴岡らしい」いい建物だと感じるものでした・・・も今はありません。もったいない・・・。

また、これもしょうがない要素ではありますが、大きな駐車場。どうしても必要なもんなのでしょうが、川沿いの風情にとってはプラスではありません。

また、すでに川とは無関係だということで川に面して大きな壁を面している建物も出てきます。

今の状況をまとめてみます。下のスライドの左側です。中央部にあるように、イベントやアクションの継続をすると同時に、もう少し川と関係を持つ建物:内川に開いたお店や働く場、川を楽しむ住まいなどを増やしていくことが必要だと思います。そしてそれらが点で終わらずに、線としてつながり、輪になっていくようにしたいと思います。そういう一連の動きを「連歌」をイメージして、連歌のようにまちをつくってはどうか・・・というのが、今日の私の問題提起です。

連歌については、私よりも、今日ここにいらっしゃる鶴岡の方々のほうがずっと詳しいと思います。

松尾芭蕉が羽黒山から降りてきて、鳥居町の長山重行の屋敷で呼んだ句は皆さんご存知の「めずらしや山をいではの初なすび」です。鶴岡の皆さんは知らない方がいないほど有名です。この句は実は連歌の発句です。これに脇句、3の句とつなげていき、さいごの挙句に至るのが連歌です。

緩やかなルールに基づき、自由に句を付け加えていきながら、最後には一巻の芸術作品をつくる・・・そういう連歌に学びたいと思ったわけです。すでに読まれている句(お店やイベント)もあります。うまくつなげていくことが大事になってきます。イベントや、建物作りも、<「内川」をお題とした歌会に参加している>という意識でつくっていくのです。舟運があった時代や、川に直接面して料亭などがあった時代はともかくとして、近年は「内川に面している」という意識が共有されることはなかったのではないでしょうか。そこを変えたいと思います。

 

実は数年前に商工会議所会館を設計したときには、この建物が発句になれないものかと考えていました。

歌会のルールはしたスライドの赤字の3つの項目です。

 

歌会のルールその1は、①駐車場はなるべく川から離すということです。商工会議所会館の駐車場は川や大通りである羽黒街道からは直接見えないように配置されています。歌会ルールその2は②川を楽しむ居場所をつくるということです。これは下のようなカフェレストランとなって実現しました。

私のお気に入りの席から内川を望んだ写真です。いつの間にか春夏秋冬が出そろいました。しかし、食べているのは季節に関わらずカレーなんですね。そして第3の歌会ルール③川を感じる公共スペースは、下スライドの広い階段です。内川の水面だけでなく月山も遠くに見えます。

下のスライドにまとめます。

そして下スライドのように、次の句(脇句)につなげたいと思いました。

ただ、わたしの発句の力不足でした。残念です。

しかし、内川ではなく羽黒街道に沿っては、脇句が生まれました。タブのきポケットパークを受けて、市の方でも小さなポケットパークをつくってくれました。

商工会議所会館は、もちろん会館としては問題があるわけではありませんが、まちづくりの発句とはなりませんでした。歌会には、歌会の場所を設定し、歌人を集める亭主役が欠かせません。まちづくりにもそういう人が必要です。下の事例は東京下北沢です。小田急線路跡の細長い敷地を巡り、見事な連歌が詠まれていると思います。

しかしこの場合は小田急という一人の地主さんが自分の敷地を歌会の場所に提供して自分のお気に入りの歌人を集めたということでしょう。内川の場合には様々な地主さんや関係者がいらっしゃいます。どういうような場の設定が必要なのでしょうか。そんなことを、今日のパネルディスカッションで考えてみたいと思いました。

上スライドに記入したBIDやエリアマネジメントなどの、いろんな制度もあります。またすでに多様な主体が内川に関係しています。あとはまちの中の素晴らしい自然的環境であり、大きなポテンシャルを持つ「内川という価値」を共有する歌会の場をどのように設えるのかだと思います。後半のディスカッションに期待します。

これで私の報告は終わりです。最後に一言だけ・・・。実は連歌の別名は「かせん」です。つまらないダジャレで失礼します。ご清聴ありがとうございました。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko Takatani

architect/urban designer

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿