永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(64)(65)その1

2018年06月27日 | 枕草子を読んできて
五一  七月ばかりに、風の  (64) 2018.6.27

 七月ばかりに、風のいたう吹き、雨などのさわがしき日、おほかたいと涼しければ、扇もうち忘れたるに、汗の香すこしかかへたる衣の薄きを引きかづきて、昼寝したるこそをかしけれ。
◆◆七月ごろに、風がひどく吹いて、雨などがさわがしく降る日、おおかたそんな日はたいへん涼しいので、扇もすっかり忘れているときに、汗の匂いを少し残してしる着物の薄いのを、頭から引っかぶって、昼寝をしているのこそ、おもしろいものである。◆◆

■七月=初秋



五二  にげなきもの  (65)その1  2018.6.27

 にげなきもの 髪悪しき人の、白き綾の衣着たる。しじかみたる髪に葵つけたる。あしき手を赤き紙に書きたる。下衆の家に雪の降りたる。また、月のさし入りたるも、いとくちをし。月のいと明かきに、屋形なき車にあめ牛かけたる。老いたる者の、腹高くてあへぎありく。また、若き男持ちたる、いと見苦しきに、こと人のもとに行くとて妬みたる。老いたる男のねこよびたる。また、さやうに髭がちなる男の椎つみたる。歯もなき女の梅食ひて、すがりたる。下衆の、紅の袴着たる。このごろは、それのみこそあンめれ。
◆◆似つかわしくないもの 髪の毛の良くない人が、白い綾の着物を着ているの。ちぢれた髪に四月の葵祭りの葵を付けたの。下手な字を赤い紙に書いたの。いやしい者の家に雪の降ってるの。また、月が差し込んでいるのも、たいへんもったいない感じだ。月のとても明るいときに、屋形のない車(荷車か)に高貴で上等な牛として尊ばれたあめ色をした牛をつけているの。年をとった女が、お腹が大きく突き出てふうふう言って歩きまわるの。また、そうした女が、若い男を持っているのは、とってもみっともないのに、他の女のところに行ったといって焼きもちをやいてるの。年老いた男が猫撫で声を出しているの。そんな風に年老いて髭だらけの男が、椎の実をつまんで食べてるの。歯がない女が梅の実を食べて、酢っぱがっているの。身分のいやしい女が、紅の袴をはいているの。このごろはそんな連中ばかりのようだ。◆◆


■にげなきもの=不相応だったり、不釣合いだったりすることからくる不快な感じをもつものを主としてあげている。
■しじかみたる髪=ちぢれている髪
■ねこよびたる=不詳。猫呼ぶで、ねこなで声か