永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(75)の2

2015年10月20日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (75)の2  2015.10.20

「はべらざらん世にさへ、うとうとしくもてなし給ふ人あらば、つらくなんおぼゆべき。としごろ御覧じ果つまじくおぼえながら、かはりも果てざりける御心を見たまふれば、それ、いとよくかへりみさせ給へ。ゆづり置きてなど思ひたまへるもしるく、かくなりぬべかめれば、いと長くなん思ひきこゆる。」
◆◆私がこの世に居なくなってまで、わが子道綱を粗略にお扱いになるようでしたら、私は本当に辛く思うでしょう。ここ数年来、私共を最後までずっとお世話してはくださらないと感じながら、でも結局、お見捨てにならなかった御心を拝見しておりますので、どうぞこの子をお世話くださるように。子どものことをお任せ申しておりまして、かねがねご存知のように、いよいよ今わの際になってしまったようでございますから、なにとぞ末長くよろしくお願い申し上げます。◆◆


「人にも言はぬことの、をかしなどきこえつるも、忘れずやあらんとすらん。折しもあれ、対面にきこゆべきほどにもあらざりきれば、
<露しげき道とかいとど死出の山かつがつ濡るる袖いかにせん>
と書きて、はしに、『あとには、とひなども、塵のことをなむ誤たざなるさへよくならへとなん、きこえおきたる、とのたまはせよ』と書きて、封じて、上に、『忌みなど果てなんに、御覧ぜさすべし』と書きて、かたはらなる唐櫃に、ゐざりよりて入れつ。見る人あやしと思ふべけれど、久しくしならば、かくだにものせざらんことの、いと胸いたかるべければなむ。」
◆◆誰にも漏らさず、睦言にあなたに申し上げた秘密のあのことも、いつまでも忘れないでいてくださるでしょうか。折り悪くお目にかかって申し上げられる時でもありませんので、
(道綱母の歌)「死出の山道は一段と露の多い道と聞いていますが、早くも涙に濡れるわが袖をどういたしましょう」
と書いて、はしに、「私の亡きあとに、『わずかなことも間違えないように、学才を充分身につけなさい、と母が言い残しておいた』とあの子に仰せくださいますように」としたためて、封をして、その上に、「四十九日がが終わってから、殿に御覧に入れるように」と書いて、傍の唐櫃に、にじり寄って入れました。見ている人は妙なことをすると思うかも知れませんが、病が長引けば、こうして手紙を書いておくことすらしなかったとしたら、きっと胸をいためることになるに違いないので。◆◆