落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

いいな。いいな。いいな。

2013年08月13日 | movie
『舟を編む』
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玄武書房で「大渡海」という辞書をつくることになり、新しく編集部員に抜擢された馬締(松田龍平)。
大学院で言語学を学んだものの、他人とのコミュニケーションが苦手で、無口で無表情で変わり者の彼だったが、10年以上の歳月をかけて辞書をつくりあげていく仕事に使命を見いだし、そんな彼に触発されるように営業の西岡(オダギリジョー)も辞書づくりにのめりこんでいく。
2012年本屋大賞に選ばれた三浦しをんの同名小説の映画化。

すばらしい。本好きにとって究極の癒し映画。
小さいころ、いったん本を読み始めたらそれこそ寝食も何もかも忘れて没頭してしまうくらいの活字中毒だったぐり。ふだんは愛想のない無口な子どもなのに、本のこととなるといくらでも話せる一方で、テレビも見ず、ゲームもなかったせいで周りの子どもたちとは共通の話題がなくて、どこにいっても変わり者扱いだったぐり。大きくなったら出版社で働いて、ゆくゆくは物書きになって、言葉を道具に仕事をするのが夢だったぐり。
主人公の馬締くんは見るからにオタクでぶっちゃけちょっとキモイけど、正直、ぐりから見ると完全に同類だし、何年もかけて言葉を集めて磨いていくという天職にめぐりあった彼が、鉄仮面なのになぜか心底幸せそうで、ものすごく羨ましかった。観てる間中、心の中でずっと「いいなあ」「いいなあ」連呼しまくってました。
仕事だけじゃない。彼の住んでる下宿もいい。すっごいレトロな、昭和っぽい日本家屋で、本がやたらめったらいっぱいあって、お月様が見える物干し台があって、猫がいる下宿。大家さん(渡辺美佐子)に孫のように可愛がられてるだけじゃなく、綺麗なリアル孫娘(宮崎あおい)までいる。しかも彼女の職業が板前ときた。完璧である。

しかし何が幸せってやっぱり職場の人全員が、辞書をつくるという仕事を愛し、静かに情熱をあたためあい、長い年月をかけて丁寧にしっかりとプロセスを積み上げていくことだけに必死に努力する、その団結がいちばん幸せにもみえる。
もちろん辞書づくりにも障害はある。時間ばっかりかかって儲からないなんて批判にもさらされる。それでも、いっしょに困難を乗り越えようという仲間がいて、互いに信頼しあい支えあえるというのはやはり幸せだと思う。
そういう幸せな物語を、これだけの豪華キャストと一流のスタッフで、美術にも音響設計にもどのディテールにもまったくの妥協もなく、ワンカットワンカット隅から隅まで緻密に繊細に、まさしくどこまでも日本映画らしく仕上げてある。ここまでくれば職人芸、最高級の伝統工芸品のような映画でもある。
そりゃ観てて幸せにもなります。公開時に観れなかったけど、今回やっと観れてほんとうによかった。

キャストは本当にどの役もハマり役で、どの人がとくに際立ってもいない。そんなところにまで完全な調和がとれてる映画ってなかなかない。
強いて惜しいところを挙げれば、ヒロインは宮崎あおいじゃなくてもよかった気がする。設定では美人だということになってたけど、彼女はいわゆる美人ではないし、一番のチャームポイントである笑顔がないのが非常にもったいなかった。それなら笑顔でなくてもきりっと美人な、黒木メイサとか香椎由宇なんかの方がしっくりくる。
映画を観ていてふと気づいたのだが、ぐりの記憶が正しければ、主役の松田龍平と宮崎あおいは確か2000年のカンヌ国際映画祭に別々の作品で参加していたはずだと思う。龍平くんはデビュー作の『御法度』で、あおいちゃんは国際批評家連名賞を受賞した『EUREKA』に出ていた。あのころはまだ十代で存在感と透明感だけが取り柄で、芝居も技術もへったくれもなかったふたりがもうカップル役で、ここまで完成度の高い作品で共演してると思うとなんだか感慨深いを通り越してムチャクチャなキモチになってくる。

観ていてとにかく幸せで、ずっと観ていたくて、終わってほしくないなんて思う映画はなかなかない。
またどこかで、馬締くんたちに会いたい。できたら、辞書編集部にまぜてほしい。ああいうちまちました地道な作業、大好きだから。
次回の改訂版がでるときはスタッフに応募しちゃいたいくらい。
いいな。いいな。いいな。

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