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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

別れのときにできること

2013年03月10日 | movie
『遺体 明日への十日間』

岩手県釜石市。東日本大震災で亡くなった犠牲者の遺体安置所の十日間を、ボランティアの老人の視点で描く。ジャーナリスト石井光太のルポルタージュを原作とするドラマ。

『踊る大捜査線』チームなのでどうかなあー?と思ってたけど、ウン、よくできてました。噂に違わず。
原作はまだ読んでる途中だけど、たぶん脚色なんかは必要最低限、物語らしい物語はない。誰も体験したことのない悲劇、混乱、絶望の中で翻弄され、やがてそれぞれに道を見いだしていく市民の姿を、ただただ淡々と描いている。
弱く、もろく、不完全だが、それでも生きているから前を向ける、そんな人々の姿がいじらしい。

葬儀社を辞めて引退し、地域の民生委員をしていた相葉(西田敏行)はたしかに非常な人格者として表現されている。
職歴を活かして自ら遺体安置所のボランティアを買って出て、何の経験もなくただ手をつかねている市職員にアドバイスをし、機能しない火葬場を動かし、葬儀社との折衝もこなす。支援物資はボランティアにはわたらないので、飲まず食わずでひたすら朝から晩から働き続ける。
ちょっと見た感じでは現実離れしているように思えるほどの相葉のキャラクターだが、実際に被災地にいった体験からすると、こういう人は何人もいた。というか、もともとはそんな人じゃなくても、あの場所では、誰もが自分を捨てて、求められたことをやるべきという気持ちになってしまうのだ。おなかもすかない。トイレも忘れる。要はその反射神経の高いか低いかの差でしかない。
だから、初めは何もできなかった職員たちもみな各々に役割を見つけ、使命を果たすようになっていく。

自身福島県出身の西田さんのキャラがたち過ぎていて、被災地の話というより西田さんの話みたいに見えちゃってたのが惜しい点といえばいえるけど、全体的にはすごく完成度の高い、いい映画だと思います。
劇中、西田さんが何度も何度もご遺体に話しかける場面が出てくるのだが、その理由がいい。あえてここでは伏せるが、この心持ちは個人的にも覚えておきたいと思った。
この気持ちがあればこそ、数えきれないほどの死と別れを乗り越えていけるのかもしれない。

これからまた東北いくので、今日はこの辺でー。


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