『ラーベの日記』
1937年、日本軍は中国の首都南京に侵攻。
現地でドイツの電気会社ジーメンス社の南京支社長を務めていたジョン・ラーベ(ウルリッヒ・トゥクール)は、他の在中欧米人と協力して難民安全区を設置、20万人の民間人の保護に奔走する。
戦後に発見されたラーベの日記を下敷きに、人命保護という使命に翻弄される人々の苦悩を描いた2009年の独中仏合作映画。原題『John Rabe』。
ドイツのアカデミー賞といわれるローラ賞で最優秀金賞、最優秀主演男優賞、最優秀衣装デザイン賞、最優秀美術賞を獲得した。
なんやかんやすったもんだで結局日本では公開されなかった『ジョン・ラーベ』ですけれども。ちょっと不完全ながら一応観れました。日本語字幕で。
描かれた史実の信憑性はとりあえずおいとくとして、いい映画です。すんごいよく出来てる。普通におもしろいし、感動的です。
戦争映画である以前に娯楽映画としてちゃんとしてるんだよね。意外なことに。だから結構脚色されてる部分もあるんだけど、まあ許容範囲内じゃないでしょーかね。
だってホントのラーベの日記ってめちゃめちゃ淡々としてるからね。これそのまま映画にしても相当しんどいです。
誤解のないように断っておくけど、この映画は厳密にいえば南京事件/南京大虐殺の映画ではないです。
あくまでも、そのとき南京市内に設けられた安全区を守ろうとした人たちの物語。たとえば、安全区が出来るまでに映画の前半3分の1が割かれているし、南京安全区国際委員会のメンバー同士の葛藤もかなり細かく丁寧に表現されている。逆に役名のある中国人はほとんど出てこない。ラーベを含めた委員会メンバーは勇敢ではあるが階級意識や偏見や差別意識もしっかり持っている、当時としてはごく普通の人として描かれている。なので中国人のパーソナリティはストーリーにさして重要ではなく、ただ無力なだけの無名の市民にしておいた方がよかったらしい。日本軍の残虐行為も、委員会メンバーの使命感をかきたてるための“装置”として用いられていることになる。そういう意味ではかなり一方的な映画ではある。
このため登場人物の名前が大幅に改変されていて、実在の人物名で登場するのはラーベとアメリカ人医師ロバート・ウィルソン(スティーブ・ブシェミ)、アメリカ人宣教師ジョン・マギー(ショーン・ロートン)、南京大学のルイス・スマイス教授(クリスチャン・ロドスカ)、上海派遣軍司令官で事件の首謀者とされる朝香宮鳩彦王(香川照之)に留まっている(ちなみに朝香宮以外の面子は自ら事件についてなんらかの発表をしたことが知られている人物)。
つーことはいってみれば、誰もが「こんなのホントじゃない」「ノンフィクションじゃない」なんて目をつりあげる必要なんかないってことよね。映画だもん。
繰返しになるけど、この映画の本当のテーマは悲惨な戦争でも虐殺事件でもなくて、極限状態の中で助け合うことの大切さなんじゃないかと思う。
委員会のメンバーにはドイツ人だけでなくアメリカ人もイギリス人もいた。医師や教育者・宗教家もいたが一般市民もいた。国籍も違えば立場も思想も政治志向も違う。ぶつかって当たり前の、寄せ集めの烏合の衆だったわずか20人足らずの平凡な人たちが、実に20万人もの中国人を救おうとしたのだ。どれほど大変なことだったか、物理的な負担だけではない、彼らに課せられた精神的なプレッシャーがどれほど大きかったことか、とても想像すらつかない。
この映画には、恐れ、戸惑い、迷いながらそんな重荷と必死に戦う人々の姿が実に人間味豊かに、かつドラマチックに表現されている。たった3ヶ月間あまりの話とは思えないくらい濃かったです。
一般公開されなかったのが本当に残念。せめて映画祭などのイベントでの上映だけでもないかなあ。DVDだけでも出せんもんか。もったいない。
それにしても、ここまでひどい悪役に果敢にも挑戦した日本人キャストの皆さんの役者魂は尊敬に値する。香川照之はこの映画への出演を評してラーベ平和賞にも選ばれている。海外では彼らの姿勢が評価されるのに、国内ではこんな映画が公開すらされないって、日本てホントにヘンな国だよね。
しかしダニエル・ブリュールと張静初(チャン・ジンチュー)のなんかええカンジのシーン、あれはなんやったんやろ?超意味不明でしたん。
まーこのふたりはどー考えても完璧100%「客寄せパンダ」要員でしたけど…。あり得んくらい見事な浮きっぷりでむしろ気の毒だった。む、酷いわあ。
関連レビュー:
『南京の真実』 ジョン・ラーベ著
『南京事件の日々―ミニー・ヴォートリンの日記』 ミニー・ヴォートリン著
『ザ・レイプ・オブ・南京―第二次世界大戦の忘れられたホロコースト』 アイリス・チャン著
『「ザ・レイプ・オブ・南京」を読む』 巫召鴻著
『Nanking』
『アイリス・チャン』
『南京・引き裂かれた記憶』
『チルドレン・オブ・ホァンシー 遥かなる希望の道』
1937年、日本軍は中国の首都南京に侵攻。
現地でドイツの電気会社ジーメンス社の南京支社長を務めていたジョン・ラーベ(ウルリッヒ・トゥクール)は、他の在中欧米人と協力して難民安全区を設置、20万人の民間人の保護に奔走する。
戦後に発見されたラーベの日記を下敷きに、人命保護という使命に翻弄される人々の苦悩を描いた2009年の独中仏合作映画。原題『John Rabe』。
ドイツのアカデミー賞といわれるローラ賞で最優秀金賞、最優秀主演男優賞、最優秀衣装デザイン賞、最優秀美術賞を獲得した。
なんやかんやすったもんだで結局日本では公開されなかった『ジョン・ラーベ』ですけれども。ちょっと不完全ながら一応観れました。日本語字幕で。
描かれた史実の信憑性はとりあえずおいとくとして、いい映画です。すんごいよく出来てる。普通におもしろいし、感動的です。
戦争映画である以前に娯楽映画としてちゃんとしてるんだよね。意外なことに。だから結構脚色されてる部分もあるんだけど、まあ許容範囲内じゃないでしょーかね。
だってホントのラーベの日記ってめちゃめちゃ淡々としてるからね。これそのまま映画にしても相当しんどいです。
誤解のないように断っておくけど、この映画は厳密にいえば南京事件/南京大虐殺の映画ではないです。
あくまでも、そのとき南京市内に設けられた安全区を守ろうとした人たちの物語。たとえば、安全区が出来るまでに映画の前半3分の1が割かれているし、南京安全区国際委員会のメンバー同士の葛藤もかなり細かく丁寧に表現されている。逆に役名のある中国人はほとんど出てこない。ラーベを含めた委員会メンバーは勇敢ではあるが階級意識や偏見や差別意識もしっかり持っている、当時としてはごく普通の人として描かれている。なので中国人のパーソナリティはストーリーにさして重要ではなく、ただ無力なだけの無名の市民にしておいた方がよかったらしい。日本軍の残虐行為も、委員会メンバーの使命感をかきたてるための“装置”として用いられていることになる。そういう意味ではかなり一方的な映画ではある。
このため登場人物の名前が大幅に改変されていて、実在の人物名で登場するのはラーベとアメリカ人医師ロバート・ウィルソン(スティーブ・ブシェミ)、アメリカ人宣教師ジョン・マギー(ショーン・ロートン)、南京大学のルイス・スマイス教授(クリスチャン・ロドスカ)、上海派遣軍司令官で事件の首謀者とされる朝香宮鳩彦王(香川照之)に留まっている(ちなみに朝香宮以外の面子は自ら事件についてなんらかの発表をしたことが知られている人物)。
つーことはいってみれば、誰もが「こんなのホントじゃない」「ノンフィクションじゃない」なんて目をつりあげる必要なんかないってことよね。映画だもん。
繰返しになるけど、この映画の本当のテーマは悲惨な戦争でも虐殺事件でもなくて、極限状態の中で助け合うことの大切さなんじゃないかと思う。
委員会のメンバーにはドイツ人だけでなくアメリカ人もイギリス人もいた。医師や教育者・宗教家もいたが一般市民もいた。国籍も違えば立場も思想も政治志向も違う。ぶつかって当たり前の、寄せ集めの烏合の衆だったわずか20人足らずの平凡な人たちが、実に20万人もの中国人を救おうとしたのだ。どれほど大変なことだったか、物理的な負担だけではない、彼らに課せられた精神的なプレッシャーがどれほど大きかったことか、とても想像すらつかない。
この映画には、恐れ、戸惑い、迷いながらそんな重荷と必死に戦う人々の姿が実に人間味豊かに、かつドラマチックに表現されている。たった3ヶ月間あまりの話とは思えないくらい濃かったです。
一般公開されなかったのが本当に残念。せめて映画祭などのイベントでの上映だけでもないかなあ。DVDだけでも出せんもんか。もったいない。
それにしても、ここまでひどい悪役に果敢にも挑戦した日本人キャストの皆さんの役者魂は尊敬に値する。香川照之はこの映画への出演を評してラーベ平和賞にも選ばれている。海外では彼らの姿勢が評価されるのに、国内ではこんな映画が公開すらされないって、日本てホントにヘンな国だよね。
しかしダニエル・ブリュールと張静初(チャン・ジンチュー)のなんかええカンジのシーン、あれはなんやったんやろ?超意味不明でしたん。
まーこのふたりはどー考えても完璧100%「客寄せパンダ」要員でしたけど…。あり得んくらい見事な浮きっぷりでむしろ気の毒だった。む、酷いわあ。
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『南京の真実』 ジョン・ラーベ著
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