落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

死ぬより難しいこと

2011年02月13日 | movie
『南京!南京!』

舞台は1937年の南京。
12月、国民党軍司令官は首都を捨てて重慶に逃れ、南京市街に残った陸剣雄(劉[火華]リウ・イエ)は仲間とともに侵攻して来た日本軍に必死に抵抗していた。一方ドイツ人のジョン・ラーベ(ジョン・ペイズリー)やアメリカ人のミニー・ヴォートリン(ビバリー・ピコーズ)らは市内に安全区を設置し、一般市民の保護活動を始めるが、秩序を失った日本軍の暴力の前に彼らもまた日々無惨な犠牲を強いられていた。
南京陥落後、日本兵の角川(中泉英雄)は市内の慰安所で出会った百合子(宮本裕子)という慰安婦に淡い恋心を抱くが、ほどなく彼女は姿を消してしまい…。
『ココシリ』で一躍中国の国民的監督になった陸川(ルー・チュアン)監督が4年の歳月をかけて撮りあげた群像劇。


実は陸川て初見なんですけれども。
すごく中国映画らしい、オーソドックスな映画だなあと思ったのがひとつ。
全体に画面が綺麗。アングルとか超バッチリ決まってる。台詞が極端に少なくてワンカットが長くて、展開がなんだか淡々としてる。BGMもほとんど使われてなくて、全編通してとても静かな感じ。だからなんとなくちょっと懐かしいような、一見するといつつくられたのかよくわからないくらい普遍的といえば普遍的。
とくにステディカムを多用して、無名のキャラクターも含め人物ひとりひとりの表情をくっきりとつかみとるようなドキュメンタリータッチのカメラワークが印象的かつ非常に生々しい。リアルです。どことなく姜文(チャン・ウエン)の『鬼が来た!』に雰囲気が似てるなあと思ったけど、後で調べたら監督自身かなり意識はしてたらしい。
とりあえず完成度は充分です。そこはまったく無問題でございます。
なんだけどねえ~この映画好きか?もっかい観たいか?っつーとやっぱねえ~厳しいね~。

監督自身はインタビューで「これは記録映画ではない」「戦時下での人の感情を描きたかった」と述べていて。まあそれもわかるんだけど。実際、この手の映画にありがちな記録映像はいっさい使用されてないしね。
にしても残虐なシーンが多すぎるっつーか。レイプシーンとか慰安所のシーンとか、女性の観客の感覚からすれば、ホントにそこまで表現せにゃいかんもんなんか?って疑問には思っちゃう。マジ容赦ナシですもん。正直観てて結構キツかったです。途中から自分でも「これは何かの修行か?」とかツッコミながら観ちゃったりしてね。南京を扱った映画を自ら観といてキツいも何もないやろが、という。ぐりも一応この手の本とか資料とか一通り目は通してて、だいたいどんなだったかそこそこ知識はある方だとは思うし、映画の中で描かれてることそのものには全然意外性はない。それでもキツいくらいだから、これじゃあ日本で一般公開できないのもしゃあないなと、思っちゃうわけです。
描かれた史実の信憑性がどーとかじゃなくて、商業映画として、ビジネスとしてしんどいってことなのよ。残念ながら。うそっこのスプラッターホラーでさえ遥か昔に廃れたっちゅーのに、ここまで残虐シーンまみれじゃマニアック過ぎてちょっと商売になんないでしょ。当事者の方々にいわせれば、あるいは「何をいうか、現実はこんなもんじゃなかった」なんてお叱りを受けるかもしれないけど、監督がノンフィクションではないと明言している映画に、これほどまでの残虐表現が本当に必要だったとは思えない。中国国内じゃ大ヒットしたけど(興収25億円で2009年度第6位。ちなみに同年公開の『レッドクリフⅡ 未来への最終決戦』は39億円)、それでも残虐すぎるって批判はあったらしいし。

この映画、主要な登場人物が順番にどんどん死んでいくにつれて話が進んでいく、というのがひとつのキーになっている。
ネタバレだけど、クレジットでトップになっている“主演”の劉[火華]なんか驚くなかれ映画が半分も進まないうちに死んでしまう(台詞もひとことふたことしかない)。ラーベは史実通りドイツに帰国して姿を消すが、最後は実質的な主人公・角川も自ら命を絶つ。彼らの死に理由はない。理由もなく言葉もなく、順番に死んでいく。
劇中の台詞で「死んだ方が良い」というようなニュアンスの言葉が繰り返されるけど、南京戦の地獄はまさにこの一言に尽きるということがいいたかったのかもしれない。生きてこんな惨状に怯え続けて暮らすより、死んだ方がよっぽど楽、それほどひどかったのだと。

それにしてもしんどい映画だった。
ほとんどのパートが日本軍側からの視点で描かれてるにもかかわらず(台詞もほとんど日本語である)、なんでこんなことになっちゃったのかいっさい説明がないってとこは潔いとは思ったです。
とりあえず相当真剣につくられた、一見の価値はある作品ってとこだけは間違いないです。ハイ。


関連レビュー:
『南京の真実』 ジョン・ラーベ著
『南京事件の日々―ミニー・ヴォートリンの日記』 ミニー・ヴォートリン著
『ザ・レイプ・オブ・南京―第二次世界大戦の忘れられたホロコースト』 アイリス・チャン著
『「ザ・レイプ・オブ・南京」を読む』 巫召鴻著
『ラーベの日記』
『Nanking』
『アイリス・チャン』
『南京・引き裂かれた記憶』
『チルドレン・オブ・ホァンシー 遥かなる希望の道』