落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

間違い探し

2005年12月17日 | book
『芸妓峰子の花いくさ』岩崎峰子著
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ぐりはよく知らなかったんだけど、映画『SAYURI』の原作小説『Memoirs of a Geisha』(邦題:さゆり)には元になった自伝があるらしい。
その本のタイトルは『Geisha of Gion』(ソースによって『Geisha, a Life』となってたりするんですがどっちでしょー)、著者は祇園の元名妓で岩崎峰子氏という。
彼女の自伝を下敷きに描かれたのが『Memoirs of a Geisha』なのだが、著者のアーサー・ゴールデンは取材先の岩崎氏との契約に違反していたために裁判沙汰になってしまった。それはそうだ。国賓をももてなすほど格式高い祇園に出入りする顧客たちのプライバシーが、海外の小説とはいえひろく世界中で読まれる娯楽文学で暴かれてしまったのだ。岩崎氏の訴えは至極尤もというところだろう。
この裁判は2003年に示談というかたちで決着したが、岩崎氏の受けた屈辱はいかばかりであったろう。この結末も、おそらくはことを荒立ててこれ以上傷つく人を増やしたくないという職業的な配慮から導かれたものだったのではないだろうか。

彼女はこの自伝の他にも何冊か本を書いていて、公演活動なども行っているそーです。今回読んだのもそのうちの一冊。
ぐりは映画も観たし小説も読んだし、それが事実とどう違っているとかそういうことには全然興味はないけど、小説や映画はフィクションだとして、じゃあ事実はどうだったのか?ってとこは当然気になります。
大体ぐりが花柳界について知ってたことといえば、
*帯を前で結んでるのが花魁さん(いわゆる高位の遊女・女郎)、後ろで結んでるのが芸者さん(関西では芸妓)
*花魁さんは遊廓の所属で、芸者さんは置屋の所属
*芸妓さんの見習いは舞妓さん、芸者さんの見習いは半玉もしくはお酌ちゃん
*各地の花街にはお茶屋からのオーダーを仕切っている検番というものがあり、芸者さんや幇間はみんなここに登録している
*基本的に花魁さんは遊びにくるお客さんを待っていて、自分からは出かけない
*芸者さんはよばれた宴席=お茶屋・料亭に自分から出かける
*花魁さんは踊らないけど芸者さんは歌ったり踊ったりするプロ
*芸者さんは基本的にパトロン以外のお客さんとは同衾しない
*花魁さんはパトロンがつけばお仕事しないが、芸者さんはパトロンがついてもお仕事してもよい
*地域によって花柳界のしきたりやなりたちが全然ちがうために、よけいに芸者と花魁が混同されやすい
*衣装やさし物(髪飾り)が財産
てなことくらいでした。

まぁこの本を読んでも正直「祇園ってなに?」ってとこまではやっぱりよくわからないです。複雑だし、ちいさいころから置屋のおかあさんに見込まれて跡取りとして大事に育てられた峰子氏の境遇は‘一般的な芸妓’のそれとは似てはいても同じとはいえなかったろうし、多くの有力者たちのプライバシーを知る彼女には本に書けないこともたくさんあっただろう。
それでも、祇園という伝統文化が多くの人の誤解を受けたまま人知れず廃れていくのは忍びないという、彼女の祇園に対する愛情と情熱はとてもよくわかります。とにかくやさしい本なので。
今も昔も宴席に侍る女性に対する世間の目は厳しいもので、花魁さんと芸者さんを混同した捉え方はなにも今に始まったことではないらしい。それを当事者たちがいくら説明したところで、ややこしいしきたりや伝統的な概念を第三者に理解してもらうのは並み大抵のことではないだろう。
だが峰子氏は誰に対しても決して媚びへつらわないという敢然とした態度でもってそれを示そうとしている。そのまっすぐなところが読んでいて爽やかでした。

芸者は職業的芸術家でありまして娼婦などではない。女なら誰でもなれるというわけでもなく、選ばれた人間にしかその世界にはいるチャンスさえない、芸術的姫君なのだ。
富と名声の両者を得た人間だけにゆるされた夢の世界の生き物、芸妓。ミステリアスすぎて日本人にさえなかなか理解されない厳しい職業。
峰子氏の思いが熱いだけに、やっぱり、一生に一度でいいからお茶屋遊びがしてみたいなー、というキモチを強くするぐりでした。

んで、しきたりづくめの厳格なこの世界、なんかに似てるな・・・ふと思ったんだけど、アレですよ。宝塚ですよ。
現役の間は休むことの出来ない厳しい稽古、完全な年功序列、立方と地方にきっちり分かれる芸、男子禁制、タニマチに支えられた生活。
宝塚のあの異様な空気はどっから来たんか?とかねがね疑問だったけど、もしかしたら花柳界だったのかも〜。