落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ホテルヴェルサイユの羅生門

2005年12月23日 | movie
『秘密のかけら』
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面白かったですうー!
でもアトム・エゴヤンの映画っていっつも、「これはこういう映画で、感想はこれこれ」と簡単にまとめられなくて困る。テーマも複雑だし、構成も複雑だからだ。時制が何度も前後するのは常套手段、エピソードのひとつひとつが互いに入れ子になっていたり、登場人物も多重人格者のように多面的に描かれる。
毎回なにより圧巻なのはラストシーンだ。エゴヤンの作品は多くが一種の謎解き、サスペンスなのだが、結果として導きだされた回答はいつも観客が期待していたような結末とはまったく違った種類のもので、しかもそれが一概に不可解ともいえないような終わり方をする。
こういうのは途中までエンターテインメントに見せかけた文芸映画、とでもいえばいいのだろうか?

『秘密のかけら』はまさにアメリカ版「羅生門」ともいえる物語だ。
ぐりが芥川龍之介の『藪の中』(「羅生門」は黒澤明による映画タイトル)を読んだのは20年くらい前のことなので記憶は甚だ曖昧だし、細部に至ってはまったく覚えてはいない。しかし舞台も時代背景も違うとはいえ、ある事件が起こり、それに関係した人物がそれぞれに秘密を守ろうとして互いを欺いたり陥れたりするというモチーフは『羅生門』によく似ている。
ストーリーそのものは大して珍しい話でもない。50年代に絶大な人気を誇ったボードビリアンのコンビ─ラニー(ケヴィン・ベーコン)とヴィンス(コリン・ファース)─があるスキャンダルに巻きこまれて解散する。15年後、彼らに特別な思いを抱く若い女性がジャーナリストとして近づいてくるのをきっかけに、当時の関係者が闇から闇へ葬り去ったはずの残酷な傷痕が、ずるずると白日の下へ引きずり出されていく。
まとめてしまえばたったこれだけの話だ。だが映画のストーリーはダイナミックかつ繊細なタッチで右へ左へ過去へ現在へと観客を縦横無尽にふりまわす。ここでは過去とは事件当時の50年代─アメリカの絶好調時代─、現在とはジャーナリスト・カレン(アリソン・ローマン)がラニー&ヴィンスの前に現れる1972年であり、舞台は事件の被害者モーリーン(レイチェル・ブランチャード)とラニー&ヴィンスが出会ったマイアミであったり、事件が発覚したニュージャージーだったり、NYだったりハリウッドだったりする。
そうしてふりまわされていくうち、観客はこのスキャンダルの真相よりももっと奥深い‘謎’が、登場人物たちの素顔に潜んでいることをうっすらと感じ始めるのだ。

ぐりの中ではその謎とは、「人はなぜ秘密を喋りたがるのか?」「人はどうしていちばん大事なものを自ら壊したがるのか?」というふたつになる。
この映画の登場人物はみな、秘密を隠そう隠そうとしながらなぜか逆の行動をしてしまう。そしてそれと同じように、長い間大切に守って来たはずのものを自分の手で台無しにしてしまう。
理屈の上では説明のつかないこのふたつの謎だが、気分としてはわからなくはない。秘密は人間という矮小な生き物が守り抜くには重すぎる場合があるし、宝物もまた同じだ。人はいつも、自分の置かれた現実から逃げたいと無意識に夢想する。
その行為は傍目には破滅的/自虐的にみえるかもしれないけど、誰だって「ああこれを放り出せば楽になれるのに」とふと思わずにはいられない重荷のひとつやふたつ、後生大事に抱えていたりするものだ。
そうではありませんか?
またこの映画では、人は幸運なときほどその「運」に気づかず、世の中何でも思い通りになるものだと勘違いしやすいという面も繰り返し描かれている。

あとカンヌ映画祭時なんかでちょっと話題になったセックス描写ですが、正直大したことなかったです(爆)。韓国映画なんかに比べればぜーんぜんあっさりしたもんです(滝汗)。フツーよフツー。
それにしてもアリソン・ローマンってめちゃめちゃ普通の女の子だよね?美人ではないよね?なんでこんなに人気あるのかな?わからない。まあでもこの役にはその普通具合がすごくあってました。ハイ。
ゴージャスできらびやかな50年代と、ミッドセンチュリーモダン全盛期の70年代の情景描写が印象的な、大人のオシャレを感じる映画でもありました。音楽がまたよかったです。サントラあったらほしいなあ。