はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 034:シャンプー

2006年09月18日 08時40分24秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
葉の裏で私はシャンプーあわだてて今日だけは傷つきたくなかった
                       (西宮えり) (aglio-e-olio)

 非常に小さなちいさな自分。葉っぱに雨風から守ってもらい、その
裏で頭に泡をたてている。
 身をかがめてちょこんと座っている姿が見えるようです。
「今日は傷つきたくなかったの。だから守ってもらったの」
と読みたいところですが、
「今日だけは傷つきたくなかったのに。だから守ってもらったのに…」
という情景がどうしても浮かんでしまいます。
 四句と五句の句またがりによる破調が、そんな諦念を伝えている
ような気がします。

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ハミングもされなくなってひとり湯に忘れられゆくシャンプーの歌
                      (斉藤そよ) (つれづれつづり)

 大人と、あるいは兄弟といっしょにお風呂に入っていたとき、よ
く歌った歌。

 おー目めをつぶって あーたまを下げて 
 おー耳をふさいで  ゆーすぎーましょ (適当に作詞)

 ひとりで入るようになっても、時々口ずさんでいたのに。
 そうした様々な「シャンプーの歌」を口にしなくなることが、
〈自立する〉ということなのかもしれません。
 そんな歌があったことも忘れたある日、自分でも思いがけず
にふと口を衝いて出る。
 それが、自分の子の頭を洗っている時だったら、にっこりす
るほどいい情景なのでしょうけれども。

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シャンプーをしている君のくちびるがドナルドみたいで また好きになる
                         (彼方) (心を種として)

 好きな人とお風呂に入る機会というのは、実はそんなに数多
くありません(人によるのかな?)。
 当然、ある程度緊張しているのでしょう。
 でも、頭を洗っている時はなぜか例外。
 目を閉じて触覚のみで作業をしているぶん、周りへ注意が行
きにくいのかもしれません。
 それを見ている人も当然緊張していたのだけれど、相手の顔
が(作業に集中するあまり)ゆがんでいるのを見て、吹き出す
と同時にリラックスする。
 相手自身も知らないことを発見したような気がして、その人
をもっと身近に感じる。
 一字あけが、笑いの意味の変化(可笑しさの笑み→慈愛の
笑み)を伝えています。

鑑賞サイト 033:鍵

2006年09月15日 20時48分11秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
泥濘の肌吸い尽くす熱帯夜シーツに巻かれた君は鍵っ子
                    (紫女) (クロッカスの歌)

 正直に言って、読み切れませんでした。申し訳ありません。
 体が泥のように感じるほど暑い夜でも、鍵っ子はシーツに
くるまって寂しく眠る…
 そんな風にも読んだのですが、この歌の持つ、ねっとりと
した中に埋もれた静けさには届きません。
 ただ、ひとつ。
 熱風吹く大地では、水筒に、泥に浸した布を巻いておくと、
数時間でキンキンに冷えているとか。気化熱の作用だそうで
す。
 この歌とは関係ないように思いますが、なぜかそんなエピ
ソードを思い出しました。

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まよいこむとかげのかげの鍵穴にあわない鍵を持ったまま、春
           (小軌みつき) (小軌みつき-つれづれ日和-)

 とかげのそばに鍵穴があって、そのそばに鍵を持った主体
がいる。
 意味を考えればこういうことでしょうが、この歌の場合、
意味を考えても余り意味がないように思います。
 「カ」音の連続に身をまかせて、最後に「、春」の不安定
さに浸る、そんな愉しみ方が合う歌ではないでしょうか。
 とかげは鍵穴から迷い込んできて、そのとかげは鍵を持っ
た主体でもある。
 そんな輪廻的構造が見えてくるようです。

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もうなにも覚えてません 鍵盤が浅く沈んだそのあたりから
                     (笹井宏之) (【些細】)

 一読して、うっとりしてしまいました。
 下手な読み込みは不要ですね。おそらく、最初の一音
(限りなく透きとおったピアニシモ)で、主体は別の世界
へ行ってしまったのでしょう。
 セクシュアルな雰囲気も感じ取れて、非常に官能的で
す。
 あくまで個人的な好みですが、第五句の「その」は、
他の語からも類推できるので、外してもいいのではない
かと感じました。