はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 033:鍵

2006年09月15日 20時48分11秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
泥濘の肌吸い尽くす熱帯夜シーツに巻かれた君は鍵っ子
                    (紫女) (クロッカスの歌)

 正直に言って、読み切れませんでした。申し訳ありません。
 体が泥のように感じるほど暑い夜でも、鍵っ子はシーツに
くるまって寂しく眠る…
 そんな風にも読んだのですが、この歌の持つ、ねっとりと
した中に埋もれた静けさには届きません。
 ただ、ひとつ。
 熱風吹く大地では、水筒に、泥に浸した布を巻いておくと、
数時間でキンキンに冷えているとか。気化熱の作用だそうで
す。
 この歌とは関係ないように思いますが、なぜかそんなエピ
ソードを思い出しました。

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まよいこむとかげのかげの鍵穴にあわない鍵を持ったまま、春
           (小軌みつき) (小軌みつき-つれづれ日和-)

 とかげのそばに鍵穴があって、そのそばに鍵を持った主体
がいる。
 意味を考えればこういうことでしょうが、この歌の場合、
意味を考えても余り意味がないように思います。
 「カ」音の連続に身をまかせて、最後に「、春」の不安定
さに浸る、そんな愉しみ方が合う歌ではないでしょうか。
 とかげは鍵穴から迷い込んできて、そのとかげは鍵を持っ
た主体でもある。
 そんな輪廻的構造が見えてくるようです。

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もうなにも覚えてません 鍵盤が浅く沈んだそのあたりから
                     (笹井宏之) (【些細】)

 一読して、うっとりしてしまいました。
 下手な読み込みは不要ですね。おそらく、最初の一音
(限りなく透きとおったピアニシモ)で、主体は別の世界
へ行ってしまったのでしょう。
 セクシュアルな雰囲気も感じ取れて、非常に官能的で
す。
 あくまで個人的な好みですが、第五句の「その」は、
他の語からも類推できるので、外してもいいのではない
かと感じました。