はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 035:株

2006年09月20日 21時42分27秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
株主の去りたるのちを椅子たたむ音春の音ひびく日の暮れ
                   (春畑 茜) (アールグレイ日和)

 春の風物詩として、株主総会。目の付け所が違います。
 「椅子たたむ音」を「春の音」として聞いているのか、
「椅子たたむ音」に重ねて「春の音」(例えば春何番かの
風音)を聞いているのか、いくつか解釈ができますが、前
者を取った方が素直かな、と僕は思います。
 句またがりの「音春の音」が、片付けのあわただしい雰
囲気を表しています。

  -------------------------------

合併でどこへ行くのか町の名がまた遠くなる雨の切り株
                        (みあ) (言の葉たち)

 町村合併を繰り返し、親しんでいた地名が移り変わり、
消えていく。
 ようやく慣れた地名が、自分達の知らないうちに、また
遠くへ行ってしまう。
 昔からそこにあった切り株は、自分が座っている土地の
名前がどんどん変わっていることに、気づいているのだろ
うか…。
 雨に濡れた切り株を、なにかの比喩と捉えてもいいし、
そのままの意味で読んでも、静かな情感が滲んでくる歌で
す。

  -------------------------------

気がつけば庶務でいちばん古株の九官鳥しか社是を知らない
                 (岩井聡) (North Marine Drive)
 「社是=会社・結社の経営上の方針・主張」(「大辞林」)

 ジョージ・オーウェル『動物農場』のような『動物会社』
を想像しそうですが、ここは「九官鳥」というアダ名の社員、
と考えた方が素直でしょうね。
 「気がつけば」が「古株の」にかかるのか、「九官鳥しか」
にかかるのか、という所で読みにちょっと迷いますが、両方に
かかる、と読むほうがこの歌の楽しさが増すようです。
 庶務課は経営方針など知らなくても仕事はできる、と言えば、
まあそうなのかもしれないけれど、よりによって「九官鳥」し
か知らないってのも、ねえ。大丈夫かこの会社。