はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 011:からっぽ

2006年03月21日 07時41分13秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
保育園帰りの幼児二、三してランチボックス振りつつ「からっぽ!」
                      船坂圭之介 (kei's anex room)

  正直、「二、三して」がちょっと読みづらかったです。
  二、三人の幼児という意味でしょうか。時間(拍子)?
  下二句は、雰囲気出まくりです。
  得意満面の笑顔が、目に見えるようです。

  ---------------------------------------------------------------

浅春に風を生みつつからつぽの終バスが夜のぬばたま運ぶ
                     丹羽まゆみ (All my loving ♪)

  「ぬばたま」は黒や夜などにかかる枕詞。
  かかる言葉の後に来るのは珍しいですが、この歌の場合、それが成功
  しています。
  「ぬばたまの夜を運ぶ」より、断然こちらの方がいい。固形物を運ん
  でいるような雰囲気が出ています。
  「浅春」という表現も、すごく伝わってくるものがあります。

  ---------------------------------------------------------------

厳重に仕舞われていた真四角の箱にあふれるほどのからっぽ
                   青野ことり (こ と り の ( 目 ))

  漢字とひらがなの対比が、まず素晴らしいです。特にひらがなの使い方。
  視覚で「からっぽがあふれている」状態を表現しています。
  冷静に読むと、やっとこじ開けた箱に何も入っていなくて「なーんだ」
  なのでしょうが、何回も読むうちに、その瞬間、主体は笑みさえ浮かべ
  たのではないか、と感じました。

  ---------------------------------------------------------------

からっぽになった飴缶に水を入れ甘い色水さし出す兄は
                      島田久輔 (裏庭のきりぎりす)

  「飴缶」というと自動的に〈ほたるの墓〉を思い出してしまう私ですが、
  それはともかく。
  「からっぽ」は、ただからっぽではないということを証明したお兄さん
  に、妹(を連想してしまいます、やはり)が向ける尊敬のまなざし。
  ブリキの缶からちょっとずつちょっとずつ飲む、小さな口を思い浮かべ
  ます。

  ---------------------------------------------------------------

産み終えてからっぽとなり・・・わたくしに満ち満ちてくる獣の母性
                         素人屋 (素人屋雑貨店)

  残念ながら男なので、出産された女性の心理は実感できないのですが。
  でも、そんな僕にも充分に伝わってくる迫力が、この歌にはあります。
  「獣の母性」という言葉からもですが、むしろ「からっぽとなり」とい
  う言葉の喪失、虚脱、空白。「わたくしに」の覚醒、復活、自覚。その
  間の「・・・」が示す変換。
  これらが一体となって、こちらに迫ってくるからではないでしょうか。
  女性は、すごい。