竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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秋の海町の画家来て塗りつぶす  森田透石

2018-09-22 | 



秋の海町の画家来て塗りつぶす  森田透石

作者の気持ちは、とてもよくわかる。秋晴れの日ともなると、我が家の近所の井の頭公園にも、何人もの「画家」たちがやってきて描いてゆく。絵に関心はあるほうだから、描いている人の背後から、よくのぞき見をする。たいがいの人はとても巧いのだけど、巧いだけであって、物足りなさの残る人のほうが多い。でも、なかには写実的でない絵を描く人もいて、巧いのかどうかはわからないが、大胆なタッチの人が多いようだ。作者が見かけたのも、そんな「町の画家」なのだろう。海の繊細な表情などはお構いなしに、あっという間に一色で塗りつぶしてしまった。ぜんぜん違うじゃないか。愛する地元の海が、こんなふうに描かれるとは。いや、こんな乱暴に描かれるのには納得がいかない。さながら自宅に土足で踏み込まれたような、いやーな感じになってしまった。この海のことなどなんにも知らない「町場」の他所者めがと、しばし怒りが収まらなかったに相違ない。まっこと、ゲージュツは難しいですなあ。『現代俳句歳時記・秋』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)

【秋の海】 あきのうみ
◇「秋の波」 ◇「秋濤」(しゅうとう) ◇「秋の浪」 ◇「秋の浜」(あきのはま)
台風期を過ぎると海も急速に秋らしく深い色となる。寄せる波も波音も夏に比べて清澄である。海水浴客でにぎわった浜辺も人影が絶え、浜辺には静けさと寂しさが広がる。夏の喧騒の後だけに、より一層その感が強い。
例句 作者
群来村といふ一二軒秋の浜 遠山壺中
秋の波身を広げては引きにけり 藤木倶子
秋の浪見て来し下駄を脱ぎちらし 安住 敦
少年一人秋浜に空気銃打込む 金子兜太
ひとりになるため秋浜を遠く踏む 杉野炭子
秋の海見えて温泉の町坂多き 近藤咲木男
秋の海航くのみなるに旗汚る 津田清子

秋の波片方だけのハイヒール  たけし

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