神橋にまだ普段着の龍田姫 丈子

日光の神橋は紅葉のナイススポットだが
今年は酷暑が長引いてまだのようだ
龍田姫はまだ普段着

言いかけて秋風鈴の舌足らず 丈子

鳴るか鳴らないかの秋夕の風鈴
垂れ下がる舌がかすかに揺れたような

無頼派に長寿眉とや虫の秋 丈子

無茶ヤンチャ無頼派を気取った青の時代が懐かしい
その私も齢八十
虫の声に耳を澄ます私の顔には太い長寿眉

蓑虫のバンジージャンプ遠筑波 丈子

この季節になると遠い筑波山がよく見える
庭木から蓑虫がするすると
近景遠景の秋どまんなか

小児病棟全開の窓天高し 丈子

大学病院の小児病棟の窓が全開になっている
秋の爽やかな風、澄みきった高い空
病室の子供たちも秋の精気を享受している

秋扇わかればなしの間をつなぐ 丈子

本句は秋風を感じていてふと浮かんだ句

青年期の甘酸っぱい一コマだ

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秋風鈴遠きところに置くこころ 丈子

夏と違う秋の風鈴の音
すずやかだが侘しさと懐かしさがやさしい
ふと幼少期がよみがえったりもする

言訳のように後書蚯蚓鳴く 丈子

臆面なく出した句集の後書き
あらためて読んでみるとなんとも言訳じみていて赤面する

蚯蚓の笑い声が聞こえる

星迎え999（スリーナイン）の発車ベル 丈子

銀河を超えての星迎え
999の発車ベルが鳴りわたる
この日ばかりは手形要らずの結界の門

撃ち合いのように異国語古都の秋 丈子

過剰なインバウンドで古都は人熱れ
多種の異国語が飛び交う
まるで撃ち合いのようだ

船頭の顔に水の輪秋日和 丈子

蔵の街とちぎの渡し船
ゆうらりと操る櫓
船頭の顔には水紋がゆらめいている

霧の中顔の見えない手に引かれ 丈子

この霧は夢の世の霧
暗中模索の来し方だったが
何かに導かれてきたような

蓑虫の二本目のない好奇心 丈子

天空から蓑虫がするすると
好奇心にかられて降りて来る
不運にも天敵にパクリ

朝寒や足裏に尖る土の棘 丈子

毎朝のウオーキングだが
気持ちの良い冷気のなか
舗装の無い田舎道
足の裏が固い土塊に悲鳴をあげる

知りたるを神妙に聴く菊の酒 丈子

＜菊の酒＞は重陽の節句に菊の花を浮かべて飲む酒
祝いの膳での酒でもあえ鵜
この日ばかりは素直に子や孫の言葉を
素直に聴くのが分別というものだ