春光や千年の笑み道祖神 丈子

　笑顔の道祖神

街道の幾年をみてきた道祖神はいつもにこやか
春のやさしい日差しに笑顔がやさしい

かいやぐら登りし人を忘れない 丈子

　富山港　蜃気楼

かいやぐらは蜃気楼のこと
ふと少年期に高所にともに挑んだ
早逝の友を思う

春の鯉水の厚みを確かむる 丈子

　春の鯉

冬の間じっと動かずにいた鯉
ゆっくりと水の厚みをたしかめるように動いている

水温で厚みが変わるのだろうか

堰の水音三月のファンファーレ 丈子

田畑も春の備え
堰の水量も増えてきて
その音はファンファーエｗのようだ

枝垂梅空の真澄を折り返す 丈子

枝垂梅を見上げると

真っ青な空

見事に澄み切った空が

折り返されて近づいてくる

春雷や通夜の遺影の笑いすぎ 丈子

君の笑顔に何度すくわれたことだろう
それにしてもここでその笑顔は辛すぎる

木道に似た者どうし二輪草 丈子

元気なシニア世代

ご夫婦での山歩きも盛んだ

尾瀬や戦場ヶ原など軽やかな服装の

同輩たちとたくさん行き合う

木道に人の縦隊

かたわらには二輪草

こんな発見がなんとも嬉しい

とめどなく螺旋の記憶春の潮 丈子

第一句集「裂帛」自選
春の渦潮を観ていると
次から次へと来し方を遡るように
蘇る記憶が鮮明だ

蕗の薹やっぱり空は青かった 丈子

蕗の薹

世界中が不穏な世情
青い空を見てひっとしているのは人間ばかりではない
蕗の薹のつぶやきを聞いた

樹木葬こころ清しく選る桜 丈子

　樹木葬　サクラ

樹木葬の報道を知る機会が増えている
自分のために機種を選ぶ
そんなときの心根はきっと清々しいに相違ない

春北風やこんな午後ならダージリン 丈子

もう春も盛り
ゆっくりとダージリンを楽しんでみる

慟哭のひとつに足らず青岬 丈子

青春の痕跡　青岬

青春の痕跡はとつと蘇る
慟哭は苦かったり辛かったりときに酸っぱくもあり

問診に要らぬ強がり日雷 丈子

　日雷

持病の定期診療での問診
少々の具合の悪さを隠す強がり
なんにもならないと忸怩　
おりから嘲るような日雷

あめんぼう己が姿に金縛り 丈子

　水馬　あめんぼう

水面に映る己が姿に陶酔か

金縛りのように動かない

大仏の男ぶりなど白子丼 丈子

長谷の大仏は美男の誉れ高い

鎌倉の長谷観音の参詣あとの
白子丼を食しながらの歓談である