竹とんぼ

先達の秀句を味わいながら
自得の一句を求めて多作多捨です
古希すぎの晩学で楽しみながらの遅々緩歩です

手花火を命継ぐ如燃やすなり 波郷

2017年08月04日 | 波郷鑑賞
手花火を命継ぐ如燃やすなり




流伴鑑賞
当時は不治とされた肺結核を病んでいた波郷

この手花火の句はあまりにも正直すぎていて切ない
鑑賞するに説明は不要だ
「命を継ぐ」
その後のはかなく消えるきまり

波郷の夏の句を選んでみた

くらがりの合歓を知りゐる端居かな

ほととぎすすでに遺児めく二人子よ

七夕竹借命の文字隠れなし

六月の女すわれる荒筵

冷奴隣に灯先んじて

坂の上たそがれ長き五月憂し

女来と帯纒き出づる百日紅

弥撒の庭蚯蚓が砂にまみれ這ふ

悉く遠し一油蟬鳴きやめば

手花火を命継ぐ如燃やすなり

 
 
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春遅し泉の末の倒れ木も

2017年03月25日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(16)

春遅し泉の末の倒れ木も




雪嶺に覗く苗代かぐろしや

春の飛雪鉄路が踊り集まりゆく

わが肺も三色菫の鉢も寧し

風搏つや辛夷もろとも雑木山

馬車馬を春の驟雨が荘厳す

春逝くと冷き厚き苜蓿

はこべらや春二重なす妻の顎

蒲公英や懶惰の朝の裾さむし

鳰見つつ肩ぬくもりぬ彼岸過



10句の中で表題句を採った
泉の末の倒木
この表現に波郷ならではの心象を感じてならない
遅い春ではない 
永遠に春はこの倒木に巡り来ないのだとの思い


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肋切りし日ははや遠し蝌蚪見れば  波郷

2017年03月22日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(15)

肋切りし日ははや遠し蝌蚪見れば






麺麭屑を蝌蚪にやる他の生もなし

あかあかと雛栄ゆれども咳地獄

春嵐鉄路に墓を吹き寄せぬ

春嵐鳴りとよもすも病家族

一樹無き小学校に吾子入れぬ

捨菜の花墓群見ゆるばかりなり

松の蕊赤きとき又菌を出す

墓への道春の荷馬車に後れつつ

子の髪の春の捲毛や墓地の中


10句の中で表題句を採った
表題句の凄さに驚嘆する
ここまで自分を詠み切る精神の強さはどこに残っているのだろう
心は決して折れていない 病んでもいない

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天地に妻が薪割る春の暮

2017年03月20日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(14)


天地に妻が薪割る春の暮




死なざりしかば相逢ふも実朝忌

春昼の墓こゑもなし手鏡に


胸の上に雁ゆきし空残りけり

苜蓿の焼跡蔽ふことをせず

春夕べ襖に手かけ母来給ふ

蝶燕母も来給ふ死に得んや

蠶豆の花の吹降り母来て居り

月食の春夜を母も寝並べり

きらきらと八十八夜の雨墓に


10句の中で表題句を採った
今回の掲句はなんとも哀しいものばかり
採った句にすくわれた
私も療養の体験があるが
隣の寝台が空いた時の心の悲惨さは残酷だったのを忘れられない

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降る雪や傘にあまりて供華の枝  波郷

2017年03月15日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(13)

降る雪や傘にあまりて供華の枝





榛の青楊に幾日後れけむ

寝返りをうたんとするや春の雁

春立つや白衣の袖に小買物

消えがての雪や月夜を重ねけり

立春の米こぼれをり葛西橋

早春や道の左右に潮満ちて

風塵に羽搏ち連れたり春の雁

三月の産屋障子を継貼りす

春の夜の子を踏むまじく疲れけり


10句の中で表題句を採った
春の雪のやさしい静けさ
そして傘からはみ出しているいる大ぶりの花枝
療養中の波郷には
こんな心象風景も読んでいる
この供花の届け先は読者に委ねている

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最上川嶺もろともに霞みけり  波郷

2017年03月13日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(12)

最上川嶺もろともに霞みけり





遠足や出羽の童に出羽の山

山下りてもんぺ鮮し春祭

栃の芽や古雪を抽き捧げらる

縁談を措き来し旅の春惜しむ

こけし買ふ数の恋しき四月尽

手に足に蟻や国原霞みけり

国原や雪解の山のなだれあひ

花冷の簷を雲ゆく別れかな

花冷の顔ばかりなり雲の中


10句の中で表題句を採った
最上川といえば芭蕉の
「五月雨を 集めて速し 最上川」が浮かぶ
おそらく波郷もこの句を念頭に芭蕉に挑んだのではないだろうか

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散るさくら空には夜の雲愁ふ  波状

2017年03月12日 | 波郷鑑賞

石田波郷の春の句10句を鑑賞(11)

散るさくら空には夜の雲愁ふ




嗽霞を見つつ冷たかりき

春暁のまだ人ごゑをきかずゐる

自動車の深夜疾走し散るさくら


花の下双猫夜の翳におぼれ

春日染まり自動車あふれゆき昏れぬ

花の路地老婆唄うたひ暁けはじむ

新聞をいらち断れば散るさくら

朝飯をわづかに食へり散るさくら

花の路地をとびだせり童女を見送れり

10句の中で表題句を採った
夜の雲愁ふ が難解だ
散るさくらを雲が愁うという「だけではあるまい
波郷自身の療養の日常をも愁うのでは浅い

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梅の香や吸う前に息は深く吐け

2017年03月10日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(10)


梅の香や吸う前に息は深く吐け





春の雪点滴注射ゆるやかに

アネモネのむらさき面会謝絶中

立春より仰臥ひたぶるにつづけける

生き得たりいくたびも降る春の雪

箸通ふ春の人参仰臥食

白粥のこの頃うまし梅の花

草餅や石田氏水分摂取量

病む手もて腕撫でをり遊蝶花

芽苞散る白粥まじるものもなし



10句の中で表題句を採った
ほとんどが療養生活の句の「なかで
掲句は療養者でなくも実感できるものだ
しかしながらやはり結核療養中の波郷にとっての
梅香は格別の味わいだったのだと分かってくる

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春曙林来る灯のひとつ見ゆ  波郷

2017年03月08日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(9)

春曙林来る灯のひとつ見ゆ





立春の巨き鴉に驚きぬ

雪降るか立春の暁昏うして

はるかなる地上を駈けぬ猫の恋

夜は熱の無ければ起きて雛あられ

木移りをしきりに鳩や西行忌

鳩尾長総出の日なり彼岸前

師を仰ぎ春の彼岸の入盈ちぬ

師のかげに夫人は菫そと賜ふ

老師来ませしよりの日数よ菫籠



10句の中で表題句を採った
林の中の灯は最愛の奥様のことだろう
療養中の波郷にとって
奥様は全てなのだと知らされる
病を除けば波郷は幸せな男だったと思えてくる

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釣堀に水輪あふれぬ花の雨 波郷

2017年03月07日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(8)

釣堀に水輪あふれぬ花の雨






澎湃と富士の前山芽ぶくなり

水底にある水草や西行忌

ひとつ咲く酒中花はわが恋椿

病経てやや気弱にて椿市

臀並べたる女流らよ金鳳華

枝重りして咲ける椿や実朝忌

田螺和彼我死にゆきし者ばかり

彼岸の日朴の幹にも傷多し

三鬼忌の雹の水輪の大粒に


10句の中で表題句を採った
療養中の苦悩の句の多い中で
この句にはほっとさせられる
波郷自身も
この時はいっとき病を忘れていた
花の雨がなんとも良い

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芝焼く火ひろがりて妻隔てけり 波郷

2017年03月06日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(7)

芝焼く火ひろがりて妻隔てけり




墓の間に彼岸の猫のやつれけり

春もはや乙女らを焼く艇庫の日

行春や吾がくれなゐの結核菌

葛飾に歳時記を閉づ野火煙

紙漉の額のしろさよ梅日和

祝婚やミモザのもとに咳こぼし

とまり木に隠れごころや西行忌

春立つて十日の酒をこぼし合ふ

壁の絵の濤みどりなり春嵐


10句の中で表題句を採った
最愛の妻との距離を不安に思う
波郷の療養の心細い心境が分かりすぎるほどに分かります

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ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下  波郷

2017年03月02日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(6)

ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下





焼工場日矢群がりて萌ゆるらし

草木瓜や故郷のごとき療養所

貨車長し春の三日月光り出す

草餅を子と食ひ弱くなりしかな

ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下

妻のみが働く如し薔薇芽立つ

春驟雨木馬小暗く廻り出す

山越の鴉こゑなし花辛夷

おほらかに山臥す紫雲英田の牛も

朝鳥や菫繞らす切株に



10句の中で表題句を採った
妻への感謝と少しの羨望、そして愛情
たくさんの波郷の感情が溢れています
ゆるぎなく に万感があります

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つばくらめ父を忘れて吾子伸びよ 波郷

2017年03月01日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(5)


つばくらめ父を忘れて吾子伸びよ




早春や胸高に出づ予後の月

梅も一枝死者の仰臥の正しさよ

三月風胸の火吹かれ打臥すも

遠き木の元に猫居り春雷す

花しどみ五十の草田男若々し

緋桃菜の花遺残空洞胸に抱く

春日残照病室同じ色に灯す

病室に巣箱作れど燕来ず

創痛や春の山鳩応へつつ


10句の中で表題句を採った
病む父情の無念さに胸をつかれました
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手鏡や二月は墓の粧ひ初む

2017年02月28日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(4)


手鏡や二月は墓の粧ひ初む




豆腐得て田楽となすにためらふな

田楽に舌焼く宵のシュトラウス

擁くや夜蛙の咽喉うちひびき

茗荷竹百姓の目のいつまでも

早春やラヂオドラマに友のこゑ

夜半の雛肋剖きても吾死なじ

地蟲出づひそみつ焦土起き伏しぬ

三月風焼跡の馬の臀を搏つ

燕待つ病室人を通さずて


10句の中で表題句を採った
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がうがうと欅芽ぶけり風の中 波郷

2017年02月27日 | 波郷鑑賞
石田波郷の春の句10句を鑑賞(3)

がうがうと欅芽ぶけり風の中




欅(けやき)の大木が、あちらこちらで芽吹き始めている。大木になるために、小さな家の庭は勿論、小さな公園でも、又街路樹としても余り歓迎されない。「困」るという字には、元々、屋敷「□」の「木」が大きくなって「困」るという意味があるようである。狭い土地を更に分割して庇を寄せあって暮らしている人間を尻目に超然と、欅は、今年も、風を相手に蘇ってきている。(板津森秋)


松籟の武蔵ぶりかな実朝忌

日洩れ来し谷を急ぎて実朝忌

古葎美しかりし春の泥

冴返るわれらが上や二仏

多羅の芽の十や二十や何峠

飯盒の飯のつめたき霞かな

負へるものみな磐石や夕霞

放鳩やうすうす帰る雁の列

三月の鳩や栗羽を先づ翔ばす
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