竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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仲よしの女二人の月見かな  波多野爽波

2018-09-28 | 


仲よしの女二人の月見かな  波多野爽波

女性の読者には、案外難解に写るかもしれない。詠まれている情景ではなく、なぜこんな句を詠むのかという作者の心持ちが……。男同士の「仲よし」だと、こんな具合の句にはならないだろう。ここで爽波は、「仲よしの女二人」の姿に、単に微笑を浮かべているのではない。月見の二人は、作者の家族である姉妹か母娘か。いずれにしても、血の通った女同士だと読める。他人同士と読めなくもないが、そうすると、その場に居合わせている作者との関係に無理が生じる。自宅の庭先での「月見」とみるのが自然だ。作者は二人から少し離れた位置にあり、もちろん微笑はしているが、他方でかすかな疎外感も覚えている。作者は、女たちの「仲よし」ぶりに入っていけない。べつに入りたいわけじゃないし、無視されているのでもないけれど、どこかで「月見」の場が彼女たちに占拠されているような、そんな不思議な気分なのだ。だから、自分もその場に存在するのに、あえて「二人の月見」と詠んだわけである。我が家は私と女三人の家族だから、こういう感じは日常茶飯に起きる。毎度のこと。「つまるところ、女同士は血縁しか信じない」と言った女性(誰だったかは失念)の言葉を、たまに思い出す。「仲よし」の構造が、どうも男とは違うようだ。その意味から言えば、武者小路実篤の「君は君、僕は僕、されど仲よき」なんて言いようは、まさに男ならではの発想であって、これまた女性には、なかなかわからない言葉ではないかと愚考する次第。『鋪道の花』(1956)所収。(清水哲男)

【月見】 つきみ

◇「観月」(かんげつ) ◇「月祭る」 ◇「月を待つ」 ◇「月の宴」 ◇「月の座」 ◇「月見酒」 ◇「月の宿」 ◇「月の友」 ◇「月見舟」

陰暦8月15日と9月13日の月を眺めて賞すること。すすき、団子、里芋、豆、栗などを供えて月を祭る。酒宴を催したり、茶会、句・歌会などを催すことも多い。近江の石山寺や信州の姨捨山(田毎の月)は月見の名所。

例句 作者

岩鼻やここにもひとり月の客 去来
月の座の一人は墨をすりにけり 中村草田男
月見舟くゞりし橋を渡りけり 前田普羅
同門に異派ありてよし月見酒 千田百里
この山の神も一座に月見かな 永方裕子
月見るや相見て妻も世に疎く 山口草堂
米くるゝ友を今宵の月の客 芭蕉
大雨や月見の舟も見えて降る 一茶


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