竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

冷まじや鏡に我といふ虚像   細川洋子

2018-09-18 | 


冷まじや鏡に我といふ虚像   細川洋子

冷まじは「すさまじ」。具体的な冷気とともに、その語感から不安や心細さなどを引き連れてくる。「涼しい」より荒々しく、「寒い」より頼りない季節の隙間には、この時期だけそっと鏡に映ってしまう何かがあるのではないかと思わせる。鏡は見る者の位置、微妙な凹凸などによって、真実の姿であるにもかかわらず、さまざまな像を結ぶ。鏡(ミラー)と不思議(ミラクル)とが密接な関係を持つといわれているように、この目も鼻も本当の顔とはまったく別のものが映っているように思えてくる。掲句の作者もまた、鏡に映し出された姿を漠然とよそよそしく感じながら、我が身を見つめているのだろう。右手を上げれば向かい合う左手が上がり、右目をつぶれば向かい合う左目がウインクする。それはまるで動作を真似るゲームのなかで、向こう側の人が慌てて動かしているように見えてくる。人間でもこんがらがってくるこの現象に動物は一体どう対処するのだろう。イソップ物語に登場する肉をくわえた犬の話しを思い出し、飼い猫に鏡を見せてみると、においを嗅いだり、引っ掻いたり、しきりに裏側に行きたがる。目の前にいる動くものが、まさか自分だとはまったく思っていないようだが、手出しせずすぐに引っ込む相手に勝ち誇った様子であった。猫にとっては、鏡の向こう側に住む無害の生き物として認知したのかもしれない。『半球体』(2005)所収。(土肥あき子)

【冷まじ】 すさまじ
◇「秋すさぶ」
秋の深まる頃の寒さ。ものすごい、心細い、荒涼としているなどの意があり、秋気凄冷の感じがある。 「すさまじ」と読む語感に荒涼が込められている。

例句   作者

冷まじやひとりの酒に酔ひつぶれ 草間時彦
冷まじく愚かなるものに仕へをり 清水基吉
山畑に月すさまじくなりにけり 原 石鼎
冷まじき青一天に明けにけり 上田五千石
冷まじや軍艦のそば下駄流れゆき 納漠の夢
冷まじや一葉遺品に頭痛薬 館 容子

冷まじや東京駅に凶弾痕  たけし

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