竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

右脳に人語左脳に猫語秋深む 大西雅子

2021-10-30 | 今日の季語


右脳に人語左脳に猫語秋深む 大西雅子

唐突な上五からの措辞に驚く
深む秋を人語と猫語の対比で表意するよころがユニーク
奇異に感じさせて深い叙情が香る
(小林たけし)


【秋深し】 あきふかし
◇「秋闌ける」(あきたける) ◇「深秋」(しんしゅう) ◇「秋深む」 ◇「秋寂び」(あきさび) ◇「秋さぶ」
秋たけなわの候。すべてのものが冬へ移ろうとする晩秋の静けさの中で、見るもの、聞くもの、思うこと、すべてはかない感じが強い。

例句 作者

下駄の音ころんと一つ秋ふかし 富安風生
海二日見て三日目の秋深し 長谷川双魚
人影をよぎり行く鯉秋深む 高木敏子
化野は風の遊び場秋深む 石口榮

合掌を背にこきりこの深む秋 越野雹子
回転椅子ぐるっと廻って秋深む 鈴木照子
坐す牛にそれぞれの顔秋深む 桂信子
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翻訳の筆を休めず葡萄くふ 佐藤一村

2021-10-29 | 今日の季語


翻訳の筆を休めず葡萄くふ 佐藤一村

よほど大切な翻訳なのだろうか
あるいは面白くて手を休めないのか
休めないのか休められないのか
俳句はどう鑑賞しても自由なのがありがたい
(小林たけし)


【葡萄】 ぶどう(・・ダウ)
◇「黒葡萄」 ◇「葡萄園」 ◇「葡萄棚」 ◇「マスカット」
葡萄棚に房をなして垂れ下がる。実を食用にし、葡萄酒の原料にする。アメリカ種のデラウェアや日本で作られた巨峰などが有名。山梨、岡山、長野などが主産地。

例句 作者

葡萄食ふ一語一語の如くにて 中村草田男
雨に剪つて一と葉つけたる葡萄かな 飯田蛇笏
日の渡るときは紅透く黒葡萄 廣瀬直人
葡萄垂れさがる如くに教へたし 平畑静塔
かたまりて星雲をなす葡萄の実 高橋修宏
ぶどう棚右手とどかずラリルレロ 杉原信子
ほろにがき恋の記憶や黒葡萄 中山秀子
バルト海閉ぢ込めてゐし黒葡萄 吉本宣子
一房の巨峰の重さ掌にとりて 中澤一紅
一房の葡萄の重み子に頒つ 森田智子
一粒の葡萄のなかに地中海 坂本宮尾
力山を抜き葡萄新酒の栓抜けず 原子公平
口皺のさびし葡萄の甘かりし 前田美智子
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残菊に佇ちて返せる歩なりけり 木下夕爾

2021-10-28 | 今日の季語


残菊に佇ちて返せる歩なりけり 木下夕爾

咲いている残菊にしばらく時を忘れて見入ってしまった
作者はふと思いついたように歩を返したという
歩の用向きを変えたのか、あきらめたのか
作者はそこは読み手に任せていて上手い
(小林たけし)


【残菊】 ざんぎく
◇「残る菊」 ◇「菊残る」 ◇「十日の菊」
秋の末まで咲き残った菊。9月9日の重陽の日は「菊の節句」ともいい、重陽過ぎての菊ということから、盛りを過ぎたあるいは季節はずれの意味を含む。

例句 作者

地に臥してなほ残菊の蕾かな 浅野白山
残菊や日翳りやすきをんな部屋 木下妙子
父の忌の庭を掃くなり残る菊 井本農一
十日の菊なれどと届きみづみづし 能村登四郎
残菊に丸薬を干す小縁かな 巌谷小波
残り菊腹式呼吸するが勝ち 木戸渥子
残菊といふ残菊とおもはねど 片野順子
残菊の波浴びる時青くなる 吉村毬子
残菊や焰灯していつかパリに 上原祥子
残菊や空の奥まで日のさして 櫻井ゆか
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青すだれ紙表札の新世帯 たけし

2021-10-27 | 入選句


青すだれ紙表札の新世帯 たけし



角川俳句11月号 令和俳壇に井上康明先生の選をいただきました

兼題部門の夏井いつき先生と合わせて今月は2句の佳作を得ました



青すだれ 紙表札 新世帯

ちょっと盛たくさんのきらいがあるのですがどれも省けませんでした



昭和初期の新世帯のノスタルジックな様子です
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箱庭に原発という墓標置く たけし 

2021-10-26 | 入選句



箱庭に原発という墓標置く たけし 


角川俳句令和俳壇11月号の兼題「箱」部門

夏井いつく先生の選をいただきました



3ヶ月も前の投句なので季節は夏になっています

発表の季節感にそぐうような季節を先取りしたような句はなかなか出来ません



初案は「箱庭に置く原発という墓標」でしたが

掲句におちつきました



五七五にぴたっと収まると余韻が損なわれるように最近は感じています
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小鳥くる空に小さな穴あけて 津根元潮

2021-10-25 | 今日の季語


小鳥くる空に小さな穴あけて 津根元潮

なんという詩因だろう
年齢にかかわらずこうした詩心は持っていたい
空の穴から突然に降りて来たような小鳥
小鳥来る

この季語にはおどろきの余情が含まれている
(小林たけし)

【小鳥】 ことり
◇「小鳥来る」 ◇「小鳥渡る」
秋にはいろいろの小鳥が渡ってきたり、山地からふもとの方へ移って来るのを総称していう。大集団の渡りではなく、少数の渡りか2、3羽の渡り鳥を示す語。

例句 作者

ミシン踏む小鳥来しこと気づかずに 山根紀美子
天気図の端にバイカル小鳥来る 近藤栄治
小鳥来て午後の紅茶のほしきころ 富安風生
白髪の乾く早さよ小鳥来る 飯島晴子
踊子の金色の靴小鳥来る 伴場とく子


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秋灯や夫婦互に無き如く 高浜虚子

2021-10-23 | 今日の季語


秋灯や夫婦互に無き如く 高浜虚子

熟年夫婦の秋夜の景がスーット浮かぶ
互いに無き如く
の措辞は安心あひきりの夫婦の空気を感じさせる
(小林たけし)



【秋の灯】 あきのひ
◇「秋の燈」 ◇「秋燈」(しゅうとう) ◇「秋燈」(あきともし)
秋の夜は大気が澄んでおり、灯も清明な感じが強い。静けさ、人懐かしさがある。秋の灯に照らされるのは花の淡いは、枯芝生などでわびしさが漂う。

例句 作者

あたふたと何捜しゐる秋灯 神崎 忠
秋の燈に母老いしかば吾も老ゆ 相馬遷子
夫旅にある夜秋燈をひきよせて 山口波津女
秋灯下新刊書より正誤表 新津むつみ
秋の燈のいつものひとつともりたる 木下夕爾
秋灯のくるしきまでに明るきに 京極杞陽
秋の灯にひらがなばかり母の文 倉田紘文
一つ濃く一つはあはれ秋燈 山口青邨
燈も秋と思ひ入る夜の竹の影 臼田亞浪
急行通過駅の秋灯に石蹴りを 菊地龍三
五十八階全階の秋灯 辻桃子
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猛る鵙この身このまま老いゆくか 桂 信子

2021-10-21 | 今日の季語


猛る鵙この身このまま老いゆくか 桂 信子

声高の鵙は作者自身の心の声だろう
歳々老いる身を身に染みながらの日常
これで終わる身なのかとの焦燥感が滲んでいて哀しい
(小林たけし)


【鵙】 もず
◇「百舌鳥」(もず) ◇「鵙の高音」 ◇「鵙の贄」(もずのにえ) ◇「鵙日和」 ◇「鵙の声」
モズ科の鳥で、山野、平野、人家付近にも繁殖し、高い木の頂や電柱に止まって、キーッ、キーッと鋭い声で鳴く。縄張りの確保のためといわれる。肉食どん欲である。「百舌鳥」とも書く。また、鵙は昆虫、蛙、蜥蜴、鼠などを捕獲し、それを尖った木の枝や有刺鉄線などに刺して蓄えるので「鵙の贄」という季語もある。

例句 作者

鵙日和手話の二人が通りけり 角川春樹
鵙の贅叫喚の口開きしまゝ 佐野青陽人
朝鵙に鑿を置きたる仏師かな 小澤 實
鵙日和床机を足して陶を干す 岩城久美
かなしめば鵙金色の日を負ひ来 加藤楸邨
初鵙や血判黒き起請文 安達光宏
鵙鳴くや寝ころぶ胸へ子が寝ころぶ 古沢太穂
声高にくらす山家や鵙日和 嶋田摩耶子
鵙啼くや医師に見らるる妻の肌 猿山木魂
フライパン重なり鵙の贄(にえ)増えた 金原まさ子
天網の疎にして疎なり鵙の贄 伊藤政美
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うしろより声あるごとし花野ゆく 森 澄雄

2021-10-19 | 今日の季語


うしろより声あるごとし花野ゆく 森 澄雄

一人行く花野である
花野は人生の旅路の終章の景か
ふとかけられぬはずの声を聴いたように感じている
心情が見事にあらわな表意だ
(小林たけし)


【花野】 はなの
◇「花野原」 ◇「花野道」 ◇「花野風」
美しい秋の草花が咲き乱れた野原。華やかな反面、淋しさもともない、昼の虫の音も聞こえるなど哀れ深い。吹く風はしっとりとして日差しも柔らかい。

例句 作者

花野行く男に群れのなかりけり 大森輝男
日陰ればたちまち遠き花野かな 相馬遷子
花野みなゆれ初めたる通り雨 高木晴子
あの世ってどんなとこかな花野行く 河黄人
あの雲に乗れば補陀落花野発 宇田篤子
うしろ手に花野夕山旅を閉じ 澁谷道
えんとつに雌雄のありし花野末 澁谷道
おでん啖べゐて花野へ逃げ戻る 文挾夫佐恵
おのずから岐れ道あり大花野 竪阿彌放心
ここまでと踵返せり大花野 鈴木俊子
つらなれば花野に疼く尾てい骨 福本弘明
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愛咬のまま陸前の月夜茸 高野ムツオ

2021-10-17 | 今日の季語


愛咬のまま陸前の月夜茸 高野ムツオ

月夜茸の折り重なっているところを
愛咬との表意の大胆な断定に驚く
陸前に行けばそんな茸に遭遇するような期待が浮かんでくる
(小林たけし)


【茸】 きのこ
◇「菌」(きのこ) ◇「茸」(たけ) ◇「茸山」 ◇「栗茸」 ◇「初茸」 ◇「岩茸」 ◇「平茸」 ◇「舞茸」(まいたけ) ◇「占地」(しめじ) ◇「湿地」(しめじ)
晩秋、山林の湿地などに生える大型の菌類の総称。多くは傘状をしている。種類が多く、食用になるものから、美しい色を持つ毒茸もある。「舞茸」は栗、楢などの朽木に生える。多数の扁平な菌体が重なり合って大きな塊状となる。表面は灰白色又は暗褐色で、裏面は白い、味がよい。「占地」はシメジ科の食用茸。広葉樹林内に群生又は単独に生える。茎は白く、傘は鼠色で、味は淡白。

例句 作者

初茸や若き松より日のもるる 奥寺田 守
爛々と昼の星見え菌生え 高浜虚子
けむり茸踏んでは子らのよろこべり 千葉 仁
大舞茸半分売れたる白さかな 蓬田紀枝子
茸山やあらぬ処に京の見ゆ 安田木母庵
紅茸の開ける傘に昨夜の雨 伊藤きよし
くらやみ帰る女まじへししめじ狩 赤尾兜子
岩茸を鉱泉宿の土間に売る 皆川盤水
貂啼いて雨に崩るゝ月夜茸 小林黒石礁
紅茸を恐れてわれを恐れずや 西東三鬼
月夜茸へ体温の雨がどしゃぶり 金原まさ子

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がんばるわなんて言うなよ草の花 坪内稔典

2021-10-16 | 今日の季語


がんばるわなんて言うなよ草の花 坪内稔典

捻典さんらしい平易な言葉だが奥は深い
頑張れよ 頑張るよ
無責任な声掛け
理由の無い自己暗示
野に咲く草の花はなすがままに咲いて萎れる
放っておいて下さいと
(小林たけし)


【草の花】 くさのはな
◇「千草の花」 ◇「百草の花」(ももくさのはな)
秋草の花。秋には野山と言わず路傍と言わず、多くの草が花をつける。名のある花も、名もない野草の花も含めて言う。

例句 作者

ここからは鳥獣保護区草の花 薮田慧舟
すねてゐる子は忘れられ草の花 千原叡子
どこにでもメモを取る癖 草の花 玉置浩子
やすらかやどの花となく草の花 森澄雄
人形のだれにも抱かれ草の花 大木あまり
今昔のまはりこんだる草の花 松澤昭
幸せと言へばしあはせ草の花 吉田成子
散るまでを頷くばかり草の花 白岩絹子


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勾玉の中に醒めたる秋の雨 高野ムツオ

2021-10-15 | 今日の季語


勾玉の中に醒めたる秋の雨 高野ムツオ

勾玉は古墳時代のコンマ型の装飾品のこと
雨粒のかたちも伺えるが
句意の勾玉は、その時代の象徴のことだろう
作者は時空を超えて海女の中にゐた
(小林たけし)

【秋の雨】 あきのあめ
◇「秋雨」(あきさめ) ◇「秋霖」(しゅうりん) ◇「秋霖雨」(しゅうりんう) ◇「秋黴雨」(あきついり)
秋季の雨の総称。秋の雨はどこかうそ寒く、沈んだ気分を誘う。冷え冷えとして、なかなかあがらず火鉢が欲しくもなる。9月中旬から10月半ばまでの秋の長雨を「秋霖(しゅうりん)」というが、じとじとと降り続きうっとうしい感じである。

例句 作者

口中の暗き甲冑秋ついり 宮坂市子
待ちぼうけ少年秋の雨に濡れ 宇野泉
暑くもなし寒くもなくて秋の雨 末広鞠子
棗はや痣をおきそめ秋の雨 富安風生
江東区は存して秋の雨波紋 古沢太穂
灯の隈に秋雨ひそめり深く降る 鈴木詮子
烏賊舟の数珠(じゆず)火かき消す秋驟雨 文挾夫佐恵
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まうしろの刈田の晴れに鍵かける 清水伶

2021-10-07 | 今日の季語


まうしろの刈田の晴れに鍵かける 清水伶

刈田の晴れ
第一等の得難い晴れのことだろう
真後ろというのだから作者は刈田を背にしている
とっておきの「晴れ」である
鍵をかけて大切にしたい
(小林たけし)


【刈田】 かりた
◇「刈田道」 ◇「刈田風」
稲を刈り取ったあとの田。切り株ばかり並んだ寂しい眺めとなる。晴天が続けば田にひび割れが走り、ひろびろとして淋しげである。

例句 作者

一望の刈田故郷の景となり 齊藤美規
分散する足型の死後刈田の灯 杉本雷造
刈田とう個室に銃声が届く 安西篤
刈田にて殉死している巨石なり 佃悦夫
刈田の烏死んで無罪放免さる 前田吐実男
刈田ゆく袖を四角に紺絣 桂信子
刈田より株式会社生えてくる 秋谷菊野
刈田をのぞく狂者おのおの孤立して 隈治人
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チボー家のジャックが泣いていた夜長 篠原信久

2021-10-06 | 今日の季語


チボー家のジャックが泣いていた夜長 篠原信久

高校生の時に一気に読了の「チボー家の人々」
灰色のノートを真似て
クラスメートと「赤色のノート」を交換したことがあった
ジャックの涙のシーン 秋の夜に読みふける景にふさわしい
(小林たけし)


【夜長】 よなが
◇「長き夜」 ◇「夜長し」
一年中でもっとも夜が長いのは冬至前後だが、夏の短い夜のあとなので、秋の夜はめっきり長くなったことが感じられる。まだ寒さには間があり、読書や創作活動に最適の時季である。

例句 作者

かの窓のかの夜長星ひかりいづ 芝不器男
それぞれの部屋にこもりて夜の長き 片山由美子
つまずきもあり晩学の夜長かな 久保絹枝
にせものときまりし壺の夜長かな 木下夕爾
みちのくの頭良くなる湯に夜長 大野林火
ゆくゆくも今も一人の夜の長さ 越野雹子
ジョーカーの捨て時逸す夜長かな 田中悦子
テーブルがただ大きくて夜の長し 杉浦圭祐
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