ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

キリシマミドリシジミ

2016-07-25 23:14:41 | チョウ/ゼフィルス

 キリシマミドリシジミ Thermozephyrus ataxus (Westwood, [1851]) は、シジミチョウ科ミドリシジミ族キリシマミドリシジミ属(Thermozephyrus属)で以下に分類されるゼフィルスである。

  1. キリシマミドリシジミ 日本・朝鮮半島亜種
    Thermozephyrus ataxus kirishimaensis (Okajima, 1922)
  2. キリシマミドリシジミ 屋久島亜種
    Thermozephyrus ataxus yakushimaensis (Yazaki, [1924])

 キリシマミドリシジミは、1921年(大正10年)7月に鹿児島県霧島山で発見された個体が新種と認定されたため「霧島」の地名が和名に付けられた。(このチョウは霧島山での発見以前に、既に四日市の山内甚太郎氏によって菰野町の湯の山で採集されていた。)関東では神奈川県、東海では静岡県に、近畿地方では鈴鹿山脈、そして四国・九州・屋久島に分布し、標高300m~800mの照葉樹林帯に生息し、常緑広葉樹のブナ科の仲間であるアカガシを主な食樹としている。
 オスの翅表はエメラルドグリーンで、アイノミドリシジミやメスアカミドリシジミ等のクリソゼフィルスを凌ぐ輝きをもっている。その輝きの強さ、美しさは、日本のミドリシジミの仲間のなかでは一番であろう。また、雌雄で翅裏の斑紋が異なるのも、日本産ミドリシジミの仲間では本種のみである。

 キリシマミドリシジミを撮り続けて4年目。今回の記事は、今年撮影した写真とこれまでに撮影した写真を掲載し、実際に観察した結果をまとめた。

 2016年7月24日。早朝の5時から、いつものポイントで待機する。朝日が、谷の上部を照らしはじめ、それがゆっくりと降りてくる。谷底付近から生えるアカガシの大木の樹冠に朝日が当たると、谷の西側上部の木々からキリシマミドリシジミがアカガシに降りてきた。(7時半頃)ねぐらは、食樹とは違う場所のようである。次第に数が増え、この日は全部で6頭のオスを確認。かなりの高速でアカガシの梢を飛びまわる。ただし、日が当たらないと飛び出すことはない。また他のゼフィルスと違って、早朝に長竿で梢を叩いても、一切、下に降りてくることはない。
 この生息地における撮影ポイントは何ケ所かあり、一ケ所だけは、4~5mほど先の梢に止まるので、翅裏の写真は比較的高画質で撮影できるが、生憎、光線が逆光気味のトップライトであるため、開翅してもキリシマミドリシジミ特有の輝きが見られない。(写真1~3)この場所以外は、キリシマミドリシジミとの距離が20m以上もあるため、600mm(35mm換算で960mm)のレンズで狙うことになる。20m先で高速で飛び回るキリシマミドリシジミを目で追い、止まった所にレンズを向ける。超望遠は画角が狭いのでフレーム・インさせるまでに時間がかかる。その後、モニターを拡大表示させてマニュアルでのピント合わせ、ブレないようにレリーズでシャッターを切る。それでも、画面の一部に小さくしか写らない。仕方なくトリミングするが、画質は悪い。(写真4~9)

 この生息地では、オスが飛び回りテリトリーを見張る行動を見せるのは、7月中旬から8月上旬頃である。ゼフィルスでは、かなり遅い。羽化が遅いのであろうか?
 調べてみると、飼育では孵化から羽化までは一ヵ月半ほどである。孵化は、アカガシの冬芽が展開する少し前で、幼虫の生育は、アカガシの新芽の伸び具合と比例するから、どんなに遅くとも生息地において5月上旬までには孵化していると考えられる。それならば、6月中旬頃までには成虫が羽化していることになる。キリシマミドリシジミは、ヒサマツミドリシジミ同様に、成虫が飛び回る時期よりもかなり前に羽化し、羽化後は、一ヵ月以上も不活性な時期を過ごすのではないだろうか。
 この仮説が正しければ、撮影に新たな道が開ける。つまり、不活性時期において吸水現場を狙えば良いのである。朝日の当たる西側の湿った岩の斜面で吸水後に翅を開くというイメージが浮かぶ。この生息地における今の時期の撮影は、掲載した写真が限界であるため、来年は、仮説を信じて6月の梅雨の晴れ間にこの地を訪れ、北陸のヒサマツミドリシジミとの連戦に勝利したい。

追記:この生息地は採集者も多く、皆、竿の長い網を振り回しているが、10m以上もあるアカガシの大木の樹冠付近を高速で飛び回るため、捕獲率はかなり低い。(網を持った輩は、早々に諦めて帰って頂きたい。)

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/500秒 ISO 3200 -2/3V(2013.8.3 10:01)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/640秒 ISO 3200 -2/3V(2013.8.3 10:02)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/640秒 ISO 3200(2013.8.3 9:50)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F9.0 1/800秒 ISO 3200V(2016.7.24 7:46)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F12 1/250秒 ISO 3200 -1/3V(2013.7.27 7:16)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/40秒 ISO 3200 -2/3V(2013.7.27 10:24)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/640秒 ISO 200(2013.8.3 7:51)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/400秒 ISO 3200(2013.8.3 7:54)

キリシマミドリシジミ

キリシマミドリシジミ
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 + Kenko TELEPLUS 2X
絞り優先AE F10 1/800秒 ISO 2000(2016.8.3 7:49)

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