ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態や生息環境を研究し保全活動をしていますが、様々な昆虫や美しい日本の四季
自然風景の写真も撮っています。

ムカシトンボの羽化(まとめ)

2017-04-23 18:41:14 | トンボ/ムカシトンボ科

 ムカシトンボの羽化を撮影するために、東京都多摩西部の山中を訪れた。ムカシトンボの羽化の撮影は、2つ前の記事で紹介したように一週間前の4月16日に撮影済であるが、今回は上陸ヤゴを撮影した標高の高い別の生息地であり、羽化までの有効積算温度の検証が大きな目的である。また羽化が行われているならば、前回は時間がなく、飛び立つまで見届けることができなかったので、体が色づいて飛び立つまでの観察もしたい。
 現地には、上陸ヤゴと羽化を一緒に観察した知人S氏と待ち合わせて、午前8時に到着。気温は9℃。なかなか見つけることができなかったが、上陸ヤゴを見つけた川原に日が当たり始めた10時、前日に羽化したオスの個体を発見。前日は午後から雨が降ったために飛ばずにそのまま止まっていたのだろう。羽化場所は、流れから約5mの距離で地上からは15cmほどの高さであった。
 11時を過ぎた頃、目の前を飛びながら通りずぎていったムカシトンボを発見。どこでいつ羽化したかは不明。更に、すこし離れた所で羽化したメスの個体も発見。羽化殻につかまっており、しばらくすると飛び立った。最初に発見したオスの個体も11時25分に飛び立ち、杉林の中へと消えていった。これら飛び立ったムカシトンボは、およそ2~3週間後から繁殖行動を始める。

 さて、「ムカシトンボの羽化までの有効積算温度」は、様々な地域における羽化日とその一ヶ月前の気象データに基づいて計算すると、有効積算温度(成長零点2℃)は230日度という値になった。そして、本年の各地の羽化状況と実際に観察した結果から、有効積算温度に達した後、最高気温が連続して20℃を超えた後に羽化することが分かった。
 そこで、有効積算温度から逆算して3月15日前後に上陸するという仮説をたてて、今回の観察地における有効積算温度を実際に計算してみると、230日度を超えたのは4月21日(230.8)で、昨日は238.9日度であり、実際に本日、羽化が確認できた。

 以上のことから、東京地方における「ムカシトンボの羽化」についてまとめてみると、以下のようになる。あくまでも、東京の多摩西部における観察と机上計算によるものである。

  1. ムカシトンボのヤゴは、気温・水温に関係なく、日長時間が概ね12時間になると上陸をする。
  2. 上陸後の有効積算温度(成長零点2℃)は、230日度である。
  3. 有効積算温度に達した後、最高気温が連続して20℃を超えた後に羽化する。
  4. 羽化時の気温は概ね10℃以上で、風が弱い日である。
  5. 日当たりの良い場所で、地上から15cm程の高さに定位し羽化する。
  6. 流れからの距離は、数十センチから数メートルと、個体によってまちまちである。

参照

お願い:写真は、正確にお伝えすべく、すべて1024*683 Pixelsで掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ムカシトンボの羽化(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/800秒 ISO 200(2017.4.23 10:25)

ムカシトンボの羽化(オス)
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F11 1/100秒 ISO 200 -2/3EV(2017.4.23 10:23)

ムカシトンボの羽化(オス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO 200 +1/3EV(2017.4.23 10:40)

ムカシトンボ / メス(羽化場所とは違う所で撮影)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F10 1/250秒 ISO 500 +1EV(2017.4.23 11:13)

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ムカシトンボの羽化

2017-04-16 17:58:49 | トンボ/ムカシトンボ科

 ムカシトンボの羽化を撮影することができた。今回の撮影は、4月2日に「ムカシトンボの上陸ヤゴ」を観察した場所とは同じ地域であるが、標高が低い生息地においてである。
 この場所には、前日も知人S氏と訪れ探索したが、ムカシトンボの羽化は見られなかった。今日は知人S氏とT氏と共に訪れ、8時頃より手分けをして探索。9時過ぎにT氏が既に羽化を開始しているヤゴ2頭を発見。どちらも日当たりが良い岸辺で、流れからはおよそ1mしか離れておらず、地上からは15cmほどの位置。2頭間の距離は1.5mほどで、1頭は枯れ枝(写真1~5)に、もう1頭は、落ちたスギの枯葉(写真6~10)につかまっての羽化である。おそらく9時頃に定位したものと思われる。
 午後から愛車の定期点検とタイヤ交換の予定があったため、11時で現地を引き上げなければならず、最後まで見届けることができなかったが、この後、昼過ぎ、遅くとも15時までには翅も固まって飛び立っていくとのことである。
 ムカシトンボの撮影においては、若齢ヤゴ、上陸ヤゴ、羽化、静止、飛翔、産卵と撮影できた。(参照:ムカシトンボ)残すは、交尾態の撮影である。

 さて、前回、「ムカシトンボの羽化までの有効積算温度について」記事にし、机上計算から有効積算温度は230日度であると記述した。今回の撮影地においては、ヤゴがいつ上陸したかは定かではないが、仮に一か月前の3月15日に上陸したと仮定して、昨日までの有効積算温度を気象データから計算すると、234.5日度であった。そして、連続して最高気温が20℃を超えて3日目であった。
 知人の観察では、昨年の羽化は一週間ほど早かったとのことであるので、昨年も同じ3月15日に上陸したと仮定して有効積算温度を計算すると、230日度を超えたのは4月9日であり、やはり最高気温が連続して20℃を超えて3日目であった。有効積算温度に達し、最高気温が連続して20℃を超えた数日後が羽化のポイントになるのかも知れない。
 では、4月2日に上陸ヤゴを観察した場所の羽化はいつのなるのか?前回の記事では、上陸日を3月20日、4月1日、4月10日と仮定して、過去の平均気温から計算したが、今回の生息地と同じ3月15日に上陸したと仮定して、本年の生息地の平均気温から実際に計算してみると、昨日での有効積算温度は、まだ184.4日度しかない。今後、昨日と同じ平均気温が推移したと過程して計算すると、230日度を超えるのは4月23日になる。仕事柄、毎日通って確かめることはできないが、次に週末には、できれば検証のために現地を訪れたいと思う。

参照:オヤヂのご近所仲間日記「ムカシトンボ羽化」 / フィールドワーク撮影記「2017/4/16(日)のフィールドワーク

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ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/100秒 ISO 3200(撮影地:東京都 2017.4.16 9:18)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1200秒 ISO 3200 -2/3EV(撮影地:東京都 2017.4.16 9:35)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 3200 -2/3EV(撮影地:東京都 2017.4.16 9:36)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F7.1 1/320秒 ISO 200 -1EV(撮影地:東京都 2017.4.16 9:47)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/4003秒 ISO 200(撮影地:東京都 2017.4.16 10:25)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F3.5 1/640秒 ISO 200 -1/3EV(撮影地:東京都 2017.4.16 10:02)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F9.0 1/125秒 ISO 200 -1/3EV(撮影地:東京都 2017.4.16 10:17)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO 200 -1/3EV(撮影地:東京都 2017.4.16 10:39)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/320秒 ISO 200 -1/3EV(撮影地:東京都 2017.4.16 10:42)

ムカシトンボの羽化の写真

ムカシトンボの羽化
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F4.5 1/500秒 ISO 200 -2/3EV(撮影地:東京都 2017.4.16 10:47)

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ムカシトンボの羽化までの有効積算温度について

2017-04-05 16:17:22 | トンボ/ムカシトンボ科

 先日、観察したムカシトンボの上陸ヤゴが、いつ羽化するのかを予想するために有効積算温度を算出してみた。

 変温動物である昆虫の発育速度は、生息している環境温度に比例し、温度が低いと長く、高いと短くなるが、発育には有効な一定の温度(有効な温度の時間積分)が必要である。発育に最低必要な温度の限界点(発育が進まなくなる温度)は発育零点と呼ばれており、発育零点以下では発育が進まないことになる。この発育零点を差し引いた温度を積算したものが有効積算温度と呼ばれ、発育に有効な温度として(日度)で表されるが、発育零点と有効積算温度は、各種昆虫の種類や個体群ごとに固有の値を持つので、これらの値と平均気温の季節変化から、ある土地における成虫の出現時期などを推定することができるのである。
 ゲンジボタルの幼虫は、蛹になるために水中から陸に上がることが知られているが、前蛹を経て蛹化し羽化するまでの発育には、やはり温度が関係しており、筆者の研究では、発育零点8.02℃、有効積算温度408.4日度という結果が出ている。では、ムカシトンボについては、どうなのだろうか。

 まず、ムカシトンボのヤゴが上陸してから羽化するまでの期間と気温について、東京都内の生息地における過去のデータを集め、羽化までの期間の逆数を求めて発育速度を計算し、これと期間中の平均気温との関係を図にすると、グラフ1.のような関係が得られる。このデータに回帰直線を当てはめて横軸との交点の気温を求めると、それは気温の低下によって発育が遅くなり、ついに発育速度がゼロ、つまり発育できなくなる限界の気温(発育零点)を推定できる。これをもとに回帰直線分析を行い、発育零点と有効積算温度を得た。

ムカシトンボの上陸ヤゴにおける発育速度と平均気温の関係

グラフ1.ムカシトンボの上陸ヤゴにおける発育速度と平均気温の関係

①ムカシトンボのヤゴの上陸後から羽化までの日数と温度との間には、相関係数(r)が0.99であることから、高い相関関係が認められる。
②回帰直線式 y=0.0037x-0.0074(r=0.9954)  x=気温、y=発育速度(発育日数の逆数)
③この回帰直線式から、発育零点が2℃であることが求められる。(ただし、あくまでも現地の平均気温から算出した机上での計算である。)

有効積算温度は一般に次式で表される。
(T - t0) D = K
T :発育期間中の平均温度
t0 :発育零点
D :経過日数
K :有効積算温度

 この式に基づいて東京都内におけるムカシトンボの生息地の過去データから、上陸後から羽化までの有効積算温度を計算すると、有効積算温度は230日度となった。 上陸後からの日々の平均気温から発育零点である2℃を差し引き、その値を毎日足していった温度が230℃を超えると羽化が始まるということになる。
 そこで先日観察したムカシトンボの上陸ヤゴが3月20日、4月1日、4月10日に上陸した場合において、平均気温の推移が2016年、2014年、2012年と同様の場合を想定して、有効積算温度が230日度を超える日を計算し、グラフにした。赤い が羽化日である。(グラフ2~3)ちなみに、2014年は、5月11日~17日にオスの飛翔とメスの産卵を観察しており、2012年は、ここ数年で4月の平均気温が最も低くかった年である。

ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移

グラフ2.ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移(平均気温が2016年と同様の場合)

ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移

グラフ3.ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移(平均気温が2014年と同様の場合)

ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移

グラフ4.ムカシトンボの上陸から羽化日までの推移(平均気温が2012年と同様の場合)

 グラフからは、3月20日頃に上陸していれば、4月19日から25日の間に、4月1日に上陸した場合は、4月19日から29日の間に、4月10日にに上陸した場合は、 5月1日から3日の間に羽化するという結果が得られた。ただし、実際の過去の羽化観察では、最高気温が20℃を越えていなければ羽化は行われないようであるから、これらを参考に本年のムカシトンボの羽化の 観察と撮影を進めたいと思う。
 尚、発育零点と有効積算温度は地域差や個体群ごとに違った値をもっているとも思われるので、すべてにおいて本記事の値が当てはまるものではい。

追記

ヤゴの上陸時期についても検討する必要があるが、ゲンジボタルの幼虫と同様と考えるのであれば、日長時間が一番大きく関与していると思われる。これについても地域や個体群ごとに、体内時計の設定時間が決まっていると思われる。

参考資料及び文献

  1. ホタルの発生に及ぼす温暖化の影響について(ホタルの羽化と積算温度について -発育零点と有効積算温度について)/古河義仁
  2. 卵と幼虫の発育ゼロ点と有効積算温度を用いた アキアカネ保全に有効な中干し実施日の検討
    齋藤四海智 先崎悠介 米澤千夏 千葉克己 神宮字寛/農業農村工学会論文集 IDRE Journal No. 304 (85-1), pp.Ⅰ_37-Ⅰ_46 (2017.6)
  3. 日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数/桐谷 圭治/農環研報31,1-74(2012)

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ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(終齢幼虫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 400 -1/3EV ストロボ使用(撮影地:東京都内 2017.4.2)

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ムカシトンボの上陸ヤゴ

2017-04-02 19:52:28 | トンボ/ムカシトンボ科

 ムカシトンボの上陸ヤゴ・・・ほとんどのトンボ類のヤゴ(終齢幼虫)は、水中から草木につかまりながら水上に出て、数十分から数時間後には羽化を始めるが、生きた化石と言われるムカシトンボ Epiophlebia superstes (Selys, 1889)のヤゴ(終齢幼虫)は、羽化の前およそ一ヵ月の間、陸上で過ごすという特異な生活をしている。今回、知人のS氏と都内の生息地を訪れて、その生態の不思議に迫った。尚、生息地を示す情報や上陸した場所の周囲の状況写真等の掲載は控えたいと思う。

 ムカシトンボは、日本固有種で北海道、本州(千葉県以外)、四国、九州に分布しているが、日本以外ではヒマラヤムカシトンボ (Epiophlebia laidlawi Tillyard,1921)がヒマラヤ山脈周辺に(Epiophlebia sinensis Li&Nel,2012)が中国黒竜江省に、また2012年に新種として報告された(Epiophlebia diana sp.n.)が四川省西部の山岳地帯に分布するのみで、他の国や地域には分布していない、トンボ目の中でもたいへん特異なグループである。
 その生態も他のトンボ類とは違っている。生息域は主に山地の渓流だが、ヤゴ(幼虫)の期間が長く、5~8年を要すると考えられている。また特筆すべきことは、羽化の1ヶ月ほど前に上陸し、湿った落ち葉や石の下などで生活するのである。この間に鰓呼吸から気門、つまり空気呼吸への切り替えを行っていると考えられている。
 これまで、成虫の写真では、オスのホバリングやメスの産卵の撮影を行い、水中の若齢幼虫の写真は撮っていたが、上陸ヤゴと羽化の様子は未撮影であった。そこで、いつも撮影を行ってきた生息地へ行ってみることにした。

 東京都内のある支流の源流部は、比較的生息密度が高く、生育ポイントも分かっているのだが、岸辺の石を1つ1つどかしても、なかなかムカシトンボの上陸ヤゴは見つからない。次に、そこから離れた別のポイントで探してみることにした。最初のポイントに比べて、ひじょうに日当たりが良く、平坦な岸辺が広い。流れから3mくらい離れたところの、拳二つ分の浮石をひっくり返したところ、その下にムカシトンボの上陸ヤゴが1頭、土の上にいるのを発見。その場から1m先の別の浮石でも発見した。こちらは、握り拳より少し大きめで、石の裏にへばり付いていた。
 (撮影しやすいようにしたが、撮影後は、元の環境に戻したのは言うまでもない。)

 目的は達成したが、このヤゴが、いつ上陸したのかが分からない。成熟した成虫が飛び回り、産卵が行われるのが5月の中旬頃であるから、逆算すれば上陸したばかりであると考えられるが、本日撮影した上陸ヤゴの写真では、翅の付け根部分である前胸部に白い筋が入っているのが分かる。これは、翅芽が発達してきていることを示している。つまり、上陸してからある程度、日数が経過していることさす。産卵が観察できる日当たりの悪い場所においては、上陸ヤゴが発見できなかったことからも、同じ生息地においても、日当たり(気温)の条件によって、上陸時期に差があるのかもしれない。
 また、興味深いのは、冷たい水の中で7年ほどを過ごしたヤゴが、上陸の時期をどうやって見極めているのかということである。ゲンジボタルの幼虫の上陸には日長時間が関与しているので、 ムカシトンボのヤゴも体内時計で計っているのかもしれない。ある日長時間になったら上陸すると決められていて、その時期は、上陸後の気温によって日本各地の生息地毎に差があるのではないかと思われる。今回、訪れた場所は標高が高く、麓においても、まだ梅が満開という状況であり、当然ながら気温が低かった。ただし、日当たりによっては、その差も大きい。今後、検証する必要がある課題だ。

 上陸後から羽化までの日数は、ホタル同様に有効積算温度で決定されるということであるから、今度は、未撮影である「羽化」のシーンを狙って訪ねてみたい。

参照:ムカシトンボ

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ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(終齢幼虫)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/60秒 ISO 400 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(終齢幼虫)
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F6.3 1/20秒 ISO 500 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(石の裏にへばり付いていた個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/125秒 ISO 500 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

ムカシトンボの上陸ヤゴの写真

ムカシトンボの上陸ヤゴ(石の裏にへばり付いていた個体)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 500 -1/3EV(撮影地:東京都内 2017.4.2)

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ムカシトンボ

2016-05-10 21:52:37 | トンボ/ムカシトンボ科

 ムカシトンボ Epiophlebia superstes (Selys, 1889)は、トンボ目(Odonata)均翅不均翅亜目(Anisozygoptera) ムカシトンボ科(Epiophlebiidae)ムカシトンボ属(Epiophlebia)に分類されるトンボである。
 トンボは、系統上から大きく3つのグループに分類されている。1つは、イトトンボやカワトンボ等の4枚の翅の形がほぼ同じ均翅亜目で、2つ目は、アキアカネやヤンマ等の前後の翅の形が異なる不均翅亜目、そして3つ目が、ムカシトンボの均翅不均翅亜目である。ムカシトンボは、均翅亜目でも不均翅亜目でもなく両方の特徴を持っていて、2つの亜目のつながりを示している。同じ特徴をもつ化石が1億5千万年前~2億年のジュラ紀や三畳紀の地層から出土することから、本種は「生きた化石」と呼ばれ、ムカシトンボという名前がついている。
 ムカシトンボは、日本固有種で北海道、本州(千葉県以外)、四国、九州に分布しているが、日本以外ではヒマラヤムカシトンボ(Epiophlebia laidlawi Tillyard,1921)がヒマラヤ山脈周辺に(Epiophlebia sinensis Li&Nel,2012)が中国黒竜江省に、また2012年に新種として報告された(Epiophlebia diana sp.n.)が四川省西部の山岳地帯に分布するのみで、他の国や地域には分布していない、トンボ目の中でもたいへん特異なグループである。

 ムカシトンボは体長は5cmほどで、水温15℃以下の山間部の源流域に生息している。幼虫の期間は6~7年とも言われ、羽化前の1ヶ月ほどは、渓流の中ではなく、川岸の湿った落ち葉の下で過ごすというたいへん希な生態の持ち主で、成虫は、草木に止まる時は、写真のように翅を閉じるのが特徴でもある。
 若い個体は、晴れで気温も高いと、午前8時前からカゲロウ等の虫を捕食するため、川上10mくらいの高さを高速で飛びまわり、捕らえると杉の高い梢に止まって食べるという行動を 繰り返す。その後、成熟したオスは川面に降りてきて、本流に流れ込む細流に移動し、メスが産卵に訪れそうな場所を水面から30cmくらいの所で時折り短いホバリングを行いながら忙しなく上流へと飛ぶ。曇っていたり湿度の高い日は、川面には降りてはこない。
 成熟度が進んだオスは、およそ15分間隔くらいで、同じ場所に現れる。また、数頭のオスが遭遇しても、どちらかが追い払うこともない。ムカシトンボは、自分のなわばりを持たないようである。メスは、下流からゆっくりと上流に移動しながら産卵に適した植物(茎の柔らかいフキやゼニゴケ等)があると産卵する。産卵に集中すると、至近距離で撮影しても、まったく動じない。メスは、オスが頻繁に飛来しない、午前中早い時間や夕方近く、または曇りの日の方が、落ち着いて産卵するようである。

 ムカシトンボは、環境省RDBや東京都RDBに記載はないが、22道府県のRDBに絶滅危惧種として記載されている。東京都においては、多摩川水系、秋川水系、浅川水系の各支流源流域に生息し、4月下旬~5月下旬に観察することができるが、多摩川水系では場所によっては減少傾向にあり、かつて、たくさん生息していた高尾山周辺では、ハイキング、キャンプ、乱獲などの影響で激減している。ムカシトンボは幼虫期が長いので、自然環境が長期間安定していなければ生息できない。エコ・ツーリズムとは何かということを考えて欲しいと思う。

参考文献

  1. The thorax morphology of Epiophlebia (Insecta: Odonata) nymphs - including remarks on ontogenesis and evolution
    Sebastian Busse1 , Benjamin Helmker2 & Thomas Hornschemeyer Scientific Reports 5, Article number: 12835 (2015)
  2. A new Epiophlebia (Odonata: Epiophlebioidea) from China with a review of epiophlebian taxonomy,life history, and biogeography
    Frank Louis Carle Arthropod Systematics & Phylogeny 70(2) 75-83

注釈:本記事は、過去に様々な地域や場所において撮影し個別に公開していた写真を、時節柄の話題として提供するために再現像し編纂したものです。

お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。

ムカシトンボ

ムカシトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 200(2010.5.5)

ムカシトンボ

ムカシトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/1250秒 ISO 640 +1 2/3EV(2010.5.5)

ムカシトンボ

ムカシトンボ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F2.8 1/2000秒 ISO 200V(2010.5.5)

ムカシトンボ(飛翔)

ムカシトンボ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 200(2014.5.11)

ムカシトンボ(飛翔)

ムカシトンボ(飛翔)
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4
絞り優先AE F4.0 1/500秒 ISO 1600(2014.5.17)

ムカシトンボ(産卵)

ムカシトンボ(産卵)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/80秒 ISO 3200(2014.5.17)

ムカシトンボ(ヤゴ)

ムカシトンボ(ヤゴ)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F6.3 1/40秒 ISO 3200(2011.2.26)

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