●1月11日(水)13-00 築地<松竹本社3F試写室>
M-003『アイヒマンの後継者*ミルグラム博士の恐るべき告発』" Experimenter " (2015) Magnolia Pictures / Bleiberg Entertainment / B.B. Films
監督・脚本・マイケル・アルメレイダ 主演・ピーター・サースガード、ウィノナ・ライダー <98分・ビスタサイズ> 配給・アット・エンターテイメント
あの<ナチスの狂犬>とも言われた、第二次大戦中のユダヤ人捕虜大量虐殺の張本人のアイヒマンに関しては、つい最近も「アイヒマンを追え」という傑作が登場した。
恐らくヒトラーよりも、最近でも映画ネタとして注目されている戦争犯罪人で「アイヒマン・ショウ」という映画までが最近公開されたほど、いまだに<人気もの>だ。
この作品は、なぜ「アイヒマン裁判」などでも暴露された、いかにも小心で個性のない当のアイヒマンが、あれほどの残虐な大量殺人を強行したのか、という異常心理を探ろうとする。
アイヒマン裁判の行われた1961年のこと、まるで二重人格のようにイメージを異にする人間心理の構造の秘密を探ろうと、アメリカのイエール大学では実験が行われていたのだ。
自身がユダヤ人の血を引くアメリカの社会心理学者スタンレー・ミルグラム博士は、どのようにしてあの<ホロコースト>のような地獄が、現実に起こりえたのか、というナゾを究明。
その単純なゲームのような、対人質問実験には、ごく普通の人間同士の、単純な質問に対しての回答の選択で、6つぐらいある回答の中から選択するが、もし間違うと電気ショックが課せられる。
はじめは軽い電気ショックだが、不正解が続くと電流のボルトが上げられてゆき、そのショックは大きくなっていくが、焦り出した回答者は、単純な間違いを連発するようになっていく。
最終的には気絶してしまうのだが、それはあくまで実験なので、人命に関わるものではないにしても、対象者の心理がどんどんと追いつめられて行く焦りは、この実験で見分けられたのだ。
その弱者の、受け身な心理の低下していく経緯については、ハンナ・アーレントが実証して、それも最近映画になったが、この実験では加害者である質問者の躊躇も実証されていく。
つまり、この人証実験で、おそらくアイヒマン本人も、殺人鬼的狂人ではなくて、ごく普通の人間だったのではないか・・・という推察が、ミルグラム博士の<告発>となっていくのだ。
真実とはいっても、これはかなり不思議な映画であって、ドラマというよりはドキュメンタリー映画の感触を持っていて、エンターテイメントとは言いにくい異色な映画。
最近では「荒野の七人」のリメイク・ウェスターンの「マグニフィセント・セブン」にも出ているピーター・サースガードは、例によって無表情で地味な博士を演じていて、暗い。
わたしは苦手だが、会社の社長とか、リーダーのポジションにいる御仁には、人間心理のコントロール術のベンキョーになるかもしれない。
■ストライクはファールして、結局はフォアボール。 ★★★
●2月25日より、新宿シネマカリテなどでロードショー