事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察 その90「パイルドライバー」長崎尚志著 角川書店

2017-08-11 | 日本の警察

その89「慈雨」はこちら

長崎尚志の名に、反応しない漫画ファンはいないはず。

編集者として浦沢直樹とコンビを組んで「MASTERキートン」「プルートゥ」「20世紀少年」などの傑作を連発し、同時によくわからないスキャンダルで小学館を退社し……毀誉褒貶の激しい人物ではあるようだ。

漫画よりも個人的作業の色が濃い小説というメディアでどうなのか、とても興味があったのでこのミステリを読んでみた。

前半は、漫画的色彩を排除したように地味な捜査がつづき、おー、これはなかなか読ませるじゃないのとうれしくなる。惜しむらくは後半の展開が大風呂敷を広げすぎたのではないかと……世田谷の一家惨殺事件を下敷きにしている、一種のモデル小説。この人の作品を次も手に取るかは、うーん微妙なところです。

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日本の警察 その89 「慈雨」 柚木裕子著

2017-05-26 | 日本の警察

その88「教場2」はこちら

群馬県警を定年退職した元刑事、神場(じんば)は、妻とともに四国八十八カ所を巡るお遍路の旅に出る。彼は在職中にひとつの屈託をかかえていて、その後悔が巡礼につながる。妻も、うっすらとその事情は察している。

寺をめぐるうちに、群馬で幼女の死体が発見される。そのニュースは神場に16年前の同じような事件を否応なしに思い出させた。当時、彼らが逮捕した人物は、無実だったのではないか……

日本の警察において、退職した人間が現在進行形の捜査にどれだけコミットできるかはよくわからない。しかし16年間かかえた後悔が(かなりひねった形ではあるけれど)現実の捜査の方向性を決めていく。神場夫妻はお遍路の過程でこれまでの生活をふりかえり、そしてお遍路に“出なければならなかった”人たちとの出会いから、事件の真相に(はるかに遠い四国から)気づいていく。

要所要所で読者を泣かせる仕掛けが施してあり、これがかなり有効。実はわたしも泣きました。夫妻の娘の出自のくだりなど、わかっていてもなお、涙がこらえきれない。

しかし、「孤狼の血」でも感じたのだけれど、どうもその仕掛けがわかりやすすぎないだろうか。お遍路探偵という魅力的な設定が、あふれるほどの人情噺のためにくどくなっている気がする。

たとえば神場は、もしも16年前の事件が冤罪だとすれば、自分の財産をすべて投げだそうとまで考える。それは立派だけれども、日本の警察らしく、ここはもっとダークな解決法を模索すべきだと思ったし、それでこそ警察小説としてもう一段味わい深くなるところだとつくづく。

2016年の「本の雑誌」ベストワン。確かに、はまる人ははまると思う。まあ、わたしとて地元在住の美人作家だからめちゃめちゃ応援はしているんですが。

その90「パイルドライバー」につづく

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日本の警察 その88 「教場2」 長岡弘樹著 小学館

2016-12-10 | 日本の警察

その87「孤狼の血」はこちら

いつも通っていた本屋が閉店して半年。やはりさみしい。いやそれ以上に、久しぶりに山形市の大きな書店(八文字屋ですけど)に入ったときに、逆に何を買っていいのかわからなくなってしまった。むかしは夢のような時間を過ごせたものだが。書店通いも、ひとつのスキルなんでしょう。勘がはたらかなくなってしまったのだ。わたし向きの本を探す勘が。

ということでおなじみの作家の新作につい手が伸びる。えーと米澤穂信の古典部シリーズの新作(「いまさら翼といわれても」)が出たんだよな……ありゃ、もう売り切れちゃったのか!ジェフリー・ディーヴァーのキャサリン・ダンスものの新作(「煽動者」)はある!どわ、相変わらず高いよ文春(2592円)。

ということで山形県出身&美男(ここまでわたしと共通しているとは)作家の長岡弘樹の新作「教場2」に落ち着きました。警察学校を舞台にするという異色シリーズ二作目。

今回も教官の風間は神のごとく、同時に悪魔のように生徒たち(すでに給料をもらっていて、それぞれ「巡査」と呼ばれている)の上に君臨する。隻眼であるハンデを、心眼で見通す。

しかし前作にくらべて、ちょっと優しくもなっている。しかもなんと彼にあこがれる女生徒まで出現して……あああちょっとネタバレになってしまう。特にラストの短編「奉職」では、警察を誰よりも恨んでいるはずの風間が、なぜ教官でありつづけるのかの回答が明かされ、感動させられる。

前作につづいて「警察」であると同時に「学校」の物語。

あいかわらず、日本の警察がどのようなポリシーで事件捜査にあたるかが、指導という形で開陳されていてうれしい。これってミステリの種明かしを正々堂々とやっていいということだもんね。

例によって、この作品を映画化したらのキャスティングを夢想してみよう。風間の役は…………常識的には佐藤浩市か役所広司なんだろうけど、またしてもわたしはここに木村拓哉はどうなんだと主張してしまう。読んだ人なら納得してもらえるはずだ。

その89「慈雨」につづく

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日本の警察 その87 「孤狼の血」 柚月裕子著 KADOKAWA

2016-08-25 | 日本の警察

その86「法医昆虫学捜査官シリーズ」はこちら

文壇で一、二を争う美貌の作家(山形在住)が放つ、破天荒な刑事と暴力団の抗争の物語。

もちろん背景には現実の広島抗争があって、緻密に取材されているのがわかる。ただ、笠原和夫がねっとりと「仁義なき戦い」で描いたような、男のだらしなさ、嫉妬というような側面よりも、パワーバランスこそが肝要だと開きなおる刑事のヒーローぶりが前面に。

この、パワーバランス云々とくればやはり笠原=深作の「県警対組織暴力」が思い浮かぶし、映画化するとすれば菅原文太しか主役はありえない。

あの映画の主人公の末路を柚月が意識していなかったはずはないが、まさかそこに「新宿鮫」パターンまで持ちこむとは。もうちょっと主人公ふたりに人間味(こく)があるとうれしかったかも。最後の年表はさすが。

その88「教場2」につづく

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日本の警察 その86 法医昆虫学捜査官シリーズ

2016-06-20 | 日本の警察

 

その85「64(ロクヨン)後編」はこちら

「よろずのことに気をつけよ」で江戸川乱歩賞を受賞した川瀬七緒の作品。これはもう、法医昆虫学という題材が圧倒的だ。

みなさん不思議に思わないだろうか。なぜ、死体にはウジがわくのだろう。いったいどの時点でハエがやってきて卵を産みつけるのだ。ひょっとしたらわたしたちの身体には常にハエの卵があって、死んで抵抗力がなくなった途端に孵化するのかと怖いことまで考えてしまいました。

違った(よかった)。

人間であっても動物であっても、死臭を察知して死亡してからわずか10分後にある種のハエがやってきて卵を産みつけるのだそうだ。これはしかし凄い話ではないだろうか。いったい世の中にはどれだけハエが飛んでるの?

これもおそるべきことに、昆虫は、個体数でみれば哺乳類よりも二桁は違うほど多く存在しているらしい。地球は虫の星だったのである。

死体の話にもどろう。産みつけられた卵が孵ってウジとなり、脱皮し、成虫となる。そしてまた卵を産みつけてウジとなり……このように、狭い環境のなかでも昆虫は完結した生態系をつくる。

そのため、どの時点で犯罪が行われたかの検証は、なまじっかの検死よりも昆虫を観察した方が正確に類推できる……話半分にしてもたいしたものだ。

主人公の法医昆虫学走査管の赤堀涼子は、ナウシカなどに代表される虫愛(め)ずる姫君の正統な後継。ミステリとしてはいかがか、という部分もあるけれど、とにかく面白い!

ご想像のとおりグロい描写が多く、およそドラマ化、映画化は望めないけれど(いや、油断はできない)、腐敗、ウジ、血だまりなどの単語にひるまない方なら、お楽しみいただけると思います。まあ、万人向けじゃなくても、十人向けにはなってるはず。

その87「孤狼の血」につづく

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日本の警察 その85「64(ロクヨン)後編」 (2016 東宝=TBS)

2016-06-11 | 日本の警察

その84「64(ロクヨン)前編」の特集はこちら

原作の特集はこちら

初日の1回目で見る。前編のボルテージがそのまま維持できれば、確かに“映画史に残”ったかもしれない。佐藤浩市の、記者たち相手の大芝居や、ポツンと立つ公衆電話が、ある人物の孤独を象徴したりもしていたので。

見終わって、うーんそうきたかと思う。前編で広げた大風呂敷を、妙にお行儀よく小さく折りたたんだなあという印象。ミステリが原作なので紹介がむずかしいのだけれど、64のストーリーの核は

・被害者が加害者になる

・加害者が被害者となり、なおかつ邪悪な瞬間を垣間見せる

これでしょう。誘拐犯を見つけ出すためにある人物がとった行動で読者はみな度肝を抜かれ、この驚きで感動した。ピエール瀧が主演したNHKのドラマも、瀧の地味ぃが演技もあって泣かせてくれたものだった。

でもこの後編はちょっと意外な展開を。まず、ミステリのキモとなる部分を、最初っから明かしてしまうのである。おいおいこれからどうするんだろうと思ったら、主人公が広報官らしくない行動をとる改変が行われている。

確かに、あの行動によって感動は生み出せたかもしれない。しかし三上(佐藤)自らがセリフで説明したように、自分の娘だけでなく、同じように別の人物たちも傷つける結果となってしまったのはなんともしんどい。そのあたり、計算が狂ったのではないでしょうか。

ラストの、公衆電話からの電話で救われた思いをするにしても、わたしは最後まで三上には広報官としての矜持を守ってほしかったと思う。

地方マスコミと中央の大新聞が根っこのところで反目し合っているとか、いやみな警務部長(滝藤賢一)の落胆が気持ちいいとか(笑)、確かに見せはする。

ただ、横山秀夫原作ものではおなじみの二渡(仲村トオル)の行動は不確実にすぎるとか、なぜ嫌味であると同時に魅力的だった県警本部長(椎名桔平)が登場しなかったのかとか、やはり不満は残る。

別に烏丸せつこの登場シーンが少なかったから怒っているわけではございませんよ。ええ、わたしはそんな小さい人物ではございませんよ!(笑)

それにしても、三浦友和はどこまで演技者としてすばらしいんでしょうかね。受けの芝居なのに、同時に攻撃的な刑事であることを納得させるあたり、渋い。

その86 法医昆虫学捜査官シリーズにつづく

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日本の警察 その84 「64(ロクヨン) 前編」(2016 東宝=TBS)

2016-05-21 | 日本の警察

その83「松谷警部と三ノ輪の鏡」はこちら

原作の、あの謎がすばらしかったのは、わずか7日間しか存在しなかった昭和64年の世相と分かちがたく結びついていたことだ。

現代のわたしたちにとってすっかりおなじみの“あれ”がまだ一般的ではなかったことと、天皇崩御という一大イベントのために、他の事件がほとんど報道されなかったこと。

読み終えて感動。多くのミステリベストでトップをとったのもうなずける。よく考えてみれば、娘を失い、あるいは失いそうになっている二人の(実は三人の)父親のお話なので、図式的すぎるという指摘があってもよさそうだったが、横山秀夫の筆力がすべてをなぎ倒した。

このすばらしい原作が、まずはテレビでドラマ化。NHKで横山秀夫原作とくればあの「クライマーズ・ハイ」だけれども「64」も脚本大森寿美男。主人公のピエール瀧がとにかくすばらしくて、妻と呆然としながら見ていたものでした。

そして今度は東宝で映画化。長大な物語(長大であることも小説的目くらまし)なので、前後編の二部作。監督は瀬々敬久。あの「ヘヴンズストーリー」で4時間38分という、わたしが見た映画のなかでいちばん長い上映時間の作品を構築した人。64をどう料理するのかしら。

昭和64年正月。ひとりの少女が誘拐され、身代金が要求される。犯人は少女の父親をさんざん公衆電話で移動させ、スーツケースに入った金の奪取に成功する。少女は死体で発見される。警察にとって屈辱の事態。しかしこのとき、警察はある事実を隠蔽していた……

ついていけるかな、と思うぐらいの暗いオープニング。しかし、県警内部の権力抗争が露わになったあたりからむやみに面白くなる。

主人公の三上(佐藤浩市)の娘は家出中。原作とドラマは“いかつい顔をした刑事がミス県警と結婚し、その娘は容貌にコンプレックスをもっていた”という、これまたきつい設定。ピエール瀧だと納得できても(笑)、佐藤浩市ではそうもいかない。そのあたりのアレンジも妙味ですかね。

瀬々の人脈からか、バーの従業員に山崎ハコ、ある事情でひきこもりになった青年の母親に烏丸せつこ。中年男が後編を見ずに死ねないと誓う、必殺のキャスティングでした。もちろん後編につづく

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日本の警察 その83 「松谷警部と三ノ輪の鏡」 平石貴樹著 創元推理文庫

2016-04-28 | 日本の警察

その82「警視庁文書捜査官」はこちら

これまた初めて読む作家。本業は英文学研究で東大の名誉教授ですって。

ほのぼのとした装丁に騙されてはいけない。行われているのはかなり邪悪な事件。しかし、人間として冷静であたたかい(新左翼だったある登場人物への彼のスタンスがいい。警察とは体制の最右翼であるにもかかわらず)松谷警部の人柄と、実質的に名探偵を演ずる部下の白石巡査部長とのからみがいいので、気持ちよく読み終えることができる。確かに、英文学っぽいです。

これだけの連続殺人だと、日本の警察ならもっと殺伐とするはず(笑)。おそらく松谷警部のモデルはP.D.ジェイムズのダルグリッシュあたりでしょう。あ、ついにあのおばあちゃんも亡くなってたんだね。もう新作読めないのかあ。合掌。

これがシリーズ3作目とか。こうなったら日本のアダム・ダルグリッシュ(勝手に断定)の前作も読まなきゃ。舞台が都会でも田舎でもないあたりが絶妙です。

その84「64(ロクヨン) 前編」につづく

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日本の警察 その82 「警視庁文書捜査官」 麻見和史著 角川書店

2016-04-26 | 日本の警察

その81「犬の掟」はこちら

警視庁の捜査一課に文書解析班が存在していて、そのトップは(人間としてはかなり欠格しているが)文字オタクの女性刑事だった……まあ、実際にはこういうセクションはないんでしょうが(むしろ法医学のエリアにありそうだ)、なかなか面白かったです。

初めて読む作家だったけれど、ジェフリー・ディーヴァーの「悪魔の涙」(筆跡鑑定士が主人公)の向こうをはる設定はうれしい。にしても、事件そのものはかなり無理筋って気もしますが(笑)。

その83「松谷警部と三ノ輪の鏡」につづく

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日本の警察 その81 「犬の掟」 佐々木譲著 新潮社

2016-02-08 | 日本の警察

その80「機龍警察 火宅」はこちら

たとえば「太陽にほえろ!」的な刑事ドラマなら、セリフなしの音楽だけで処理されそうな聞きこみの場面。この小説はまさにそこにこそ面白さがつまっている。

有能かつ一癖もふた癖もある刑事たちが、それぞれの職業的スキルを全開にして犯人を追う。実は途中で真犯人は想像がつくけれど、捜査の細部がていねいに描かれているものだから(タクシーの領収書でアリバイを確認するなど)、まったく退屈しない。

道警シリーズが活劇に走りすぎたことで生まれたのが「地層捜査」「代官山コールドケース」だと思う。その味わいを衝撃的な事件に当てはめるとこの作品になるわけだ。すばらしい。

その82「警視庁文書捜査官」につづく

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