事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

青山文平でいこうPART8 「かけおちる」 文春文庫

2017-10-14 | 本と雑誌


PART7「鬼はもとより」はこちら

現代の「駆け落ち」は男女の逃避行だけれど、この作品における「かけおち」は(逃避行はもちろん描かれるが)集団から脱落する、という意味合いだそうだ。有能な主人公は妻が駆け落ちしてしまい、妻敵討ち(めがたきうち)として間男と妻を斬る。それから幾星霜……

彼に欠けていたものはなにか、と懊悩させて、最後にひっくり返す芸は、ちょっとやりすぎかな(笑)とも思いますが、いやーおみごと。

PART9「遠縁の女」につづく

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「dele (ディーリー)」 本多孝好著 角川書店

2017-10-12 | 本と雑誌

自分が死んだら、パソコンのデータはどうなるんだろう。いやそれどころか、毎日毎日メルマガを送信しているわけだから、拡散した“自分”はどのように消えていくのだろうか。

子どもが中学生だったころの、その学校のPTA会長が、まもなく病気で亡くなったとか。元上司はその学校にいて、同時に教え子だったので

「あいつはブログをやってたんだけど、最後の記事は病室からの風景写真だった……」

と悲しんでいた。

死後に残るものがあったほうがいいのか、むしろ遺された人々に悲しみを与えるだけなのか、そのあたりは微妙だ。とても、むずかしい。

本多孝好の「dele(ディーリー)」は、その微妙なところを題材にしている。主人公の若者は、依頼人の

「自分が死んだら、(デバイスの)デジタルデータを誰にも知られないように消去してほしい」

というリクエストに応える会社につとめている。会社、といっても車椅子に乗る社長と彼のふたりだけの組織なのだが。

社長はその依頼にクールに応えようとするのに、主人公(けっこういいやつなのである)は、それは死者が本当に望んだことなのかと常に疑問を抱いている。消去を依頼されたからこそ、死者の存在を全否定するかのような行為に及び腰になるあたりの設定はうまい。

かつて「MISSING」「MOMENT」などで泣かせてくれた本多孝好の本領発揮。無機質なデジタルデータにも、だからこそ多くの感情がこめられていることを証明してくれる。痛風で弱っているときに読んだのでなおさら感動。タイトルはDeleteキーに由来しています。

今日は、長年の友の通夜。あいつの記憶はわたしの頭の中に存在し続けるが、いつかはわたしというデバイスも消えるのだ……

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青山文平でいこうPART7 「鬼はもとより」徳間書店

2017-10-09 | 本と雑誌

PART6「約定」はこちら

藩札(はんさつ)、のお話。経済記者出身の青山文平得意の分野だろう。藩札というのは、基本的にその藩内のみで通用する紙幣。どれだけ発行するかで経済をコントロールする目的と、窮乏したためにしかたなく、という側面もあったらしい。

主人公は浪人。万年青(おもと)の栽培で生計を立てているのは表向き。実際には藩札制度のコンサルタントのような仕事がメイン。

彼は出身の小藩で藩札掛としてつとめ、藩の経済の立て直しに成功した。しかし、家老から実態からかけ離れた多量の藩札を刷るように命ぜられ、拒否して藩札の版木を持って出奔した過去があった。経済官僚としての誇りが許さなかったわけだ。どこかの中央銀行のように、政権のリクエストにお応えして異次元緩和を行うなどとんでもないと。

彼はある藩から依頼を受け、藩札の発行について指南する。依頼したのは若き家老。自分は鬼になっても藩経済を立て直さねばとの使命感をもった人物だった。このふたりの奮闘が基本線。はたして藩の行く末は、そして“鬼”はどうなったか。

経済小説の読者の多くは経営者やサラリーマン。生き方指南をこのジャンルに求めている人も多い。読み方として邪道だとは思うけれど(笑)、これこそ多くの経済人たちに読んでほしい作品。

PART8「かけおちる」につづく

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たましいのふたりごとアゲイン

2017-10-07 | 本と雑誌

PART1はこちら

意外なふたりによる金言対談はつづく。

【失敗】

川上:失敗の価値が下がってきた気がしています。失敗しても、明日生きていかなければいけないから、特に落ちこんだりもせず、次行こ、次って感じですね。

穂村:場数が増えると、一回あたりの成功の重みも失敗の痛みも軽くなっていくよね。それは基本いいことだと思う。若いとき、失敗を恐れてなにもできなかった。やらなきゃいけないんだけど、やっぱり怖いっていう。戦績が0勝3敗とかって3回チャレンジして全敗ってことだから、次のチャレンジがすごく恐くなる。そこから0勝1000敗の可能性もあるわけだから。それがぼろぼろに場数を踏んで960勝1028敗とかになって、一勝も一敗も軽くなるのはいいことだと思う。

……言えてますよね。ちなみに、わたしは27才のときに32才の女性と結婚したんだけど、及び腰の彼女に、「これが91才と96才になったら誰も年の差なんて気にしないんじゃない?」と言ったのをおぼえています。これと同じことだよね。違うか。

【依存】

川上:日常的に人を頼るときって、そもそもどういう気持ちなのかが実感がないのでわからないんです。

穂村:なにかしようってときに、まずちょっと待ってみるわけ。

川上:なにかしなきゃいけないのがわかってるのに、なんでそこで待つんですか?面倒だから?

穂村:面倒だし誰かにやってもらったほうが楽だし……。

川上:えっ……(笑)。それをやることでなにか学べるとか自分の経験値が上がるという欲望はないんですか?

……この、埋めようがないギャップがこの対談のキモですかね。穂村ののび太くん体質については「野良猫を尊敬した日」につづきます

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青山文平でいこうPART6 「約定」 新潮社

2017-10-07 | 本と雑誌

PART5「つまをめとらば」はこちら

「半席」のオリジナルバージョンも所収の短編集。こちらには剣豪小説の味わいが深い作品が並ぶ。つまり、青山作品のなかではめずらしく普通の時代小説っぽい。

彼は江戸中期のお話しか書かないのだが、それは世が“成熟している”からだそうだ。成熟しているからこそ、人間のありようを描く甲斐があると。だからこそ、冷静な主人公と、彼を圧する強靱な女性というルーティンが活きてくるわけだ。

PART7「鬼はもとより」につづく

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「たましいのふたりごと」穂村弘・川上未映子 筑摩書房

2017-10-06 | 本と雑誌

村上春樹に果敢に攻撃した(笑)川上未映子が、インテリのび太くんとでも言うべき穂村弘と対談するとどうなるか。いやもうこれが金言至言のオンパレード。ちょっと紹介します。

川上:不思議なのは、親子だと子どもが成長したら家を出ていくわけですけど、夫婦はなんでずっと一緒に住んでいるんだろう。

穂村:かなりラディカルなところに踏み込んでるね(笑)。

川上:最近、卒婚って流行ってますけど、これってすごく理にかなってる。

穂村:たしかに、周囲で五十代とかの離婚は増えてる。

川上:子どもが成長して家を出てくと、もう二人でいる理由がなくなるんです。

……旦那の阿部和重はハラハラしているかも。

穂村:老化について思うのは、あるひとの表情のうちのひとつがまず老いたと気づくんだよね。100個表情があったとしたら1/100だけど、それが2/100になり3/100になり、半分くらいになると、誰が見てもはっきり老けたって印象になる。

……うわあこれは確かに。

川上:「昭和」と言えば、「昭和体型」(笑)。平成生まれの子はみんな足が長くて、同じ日本人って思えない。でもたまに足の短い子どももいて、ちゃんと昭和が生き延びてるなと、思っちゃいます(笑)

穂村:昭和までは元号で考えたけど、終わったら西暦になったよね。子どものころ、祖父母は明治生まれで、明治・大正・昭和と三代生きたから年寄りなんだと思っていたけど、このまま行くとぼくらも昭和・平成・その次と三代生きるわけだよね。そのとき、明治生まれ=年寄り、みたいな感じで、昭和生まれ=年寄りって思われるんだろうね。

……膝を打ちました。実際には打たないけど。なるほど次の元号生まれの人間にとって、昭和生まれはわたしが爺ちゃんに対して抱いていたイメージをもつのか。まあ、昭和が64年までつづいたのが異例だとしても、改元はまもなく。考えちゃうな。以下次号

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青山文平でいこうPART5 「つまをめとらば」 文藝春秋

2017-10-06 | 本と雑誌

 

PART4「伊賀の残光」はこちら

直木賞受賞作。6つの短篇が収められています。そのなかの「逢対(あいたい)」はこんなお話。

主人公の泰郎は、役に就くために必死になるという覚悟もなく、日々算学を教えて暮らしている。近所の煮売屋を切り盛りする里という女性といい仲になるけれど、里は泰郎とは身分違いだからいっしょになるつもりはないとそっけない。彼女は妾として暮らした過去をもっていた。

泰郎の友人の北島は、就活に明け暮れている。毎日のように有力者の家を訪れ、顔を覚えてもらうのに懸命だ。冷たくあしらう権力者が多いなか、ある人物だけは厚遇してくれる。しかし、その理由は……

泰郎が武士を捨てる覚悟をするのは、武家というものへの幻滅と、里に代表される女性の強さに感化されたから。この短篇だけでなく、この作品集に収められた作品に登場する女性たちはみんなキャラが立っていてすばらしい。男社会である武士への有形無形の批判になっているのね。直木賞納得

PART6「約定」につづく

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青山文平でいこうPART4 伊賀の残光 新潮文庫

2017-10-05 | 本と雑誌

PART3「白樫の木の下で」はこちら

「流水浮木 最後の太刀」が文庫化されるときに改題された様子。わたしは単行本のバージョンで読みました。

こちらは、「白樫」と同様、幼なじみたちが時代に翻弄されていく展開ですが、違うのは彼らがすでに隠居の身であることだ。しかも伊賀者。つまりは忍びの家系として御用をつとめていた……のは戦国のころまで。

八代将軍吉宗は紀州から側近の忍びを連れてきていたため、伊賀者の出る幕はなく、日々を静かに暮らしている……はずだった。しかし、友人が惨殺されたことで主人公の静かな生活は破られていく。

武士の居場所がない時代に、ましてや忍者など。こんなに気勢の上がらない忍者小説もめずらしい(笑)。しかし新旧のタイトルが示すように、彼らも最後に矜持を示すのだ。

PART5「つまをめとらば」につづく

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青山文平でいこうPART3 「白樫の樹の下で」 文春文庫

2017-09-30 | 本と雑誌

PART2「励み場」はこちら

三人のまだ若い武士たち。彼らは日々の屈託を剣の腕を磨くことで雲散させている。時代は江戸幕府が開かれてから百八十年。身分制度はほぼ固定され(「半席」「名子」のような例外もあるとはいえ)、戦など遠い彼方だ。ということは、武士というものの存在価値が問われる時代でもある。そんな時代なのに、三人が通う道場の主は武者修行の旅に出ている。弟子たちも、竹刀での打ち合いが主流の時代に木剣で打ち合っている……

時代錯誤の男たちに、一本の刀と辻斬り事件が提供され、彼らの運命を急転させて行く。商家の跡取りが金で侍の身分を買い、辻斬り犯人として主人公を疑うあたりの展開は、武家社会への批判として有効。松本清張賞受賞作。

PART4「伊賀の残光」につづく

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青山文平でいこうPART2 「励み場」 角川春樹事務所

2017-09-29 | 本と雑誌

半席」という立場も初耳だったけれど、今度は「名子(なご)」。知りませんでした。

さまざまな解釈があるようだけれど、この作品においては

「主家に隷属する、百姓からすら蔑視される存在」

として描かれる。元は武士であった経緯もあって、主人公は名子から武士に“成り上がる”ことをめざす……どこか「半席」と同じような匂いがします。そして、主人公はやはり仕事を完遂するなかで違った価値観を見つけていく。これも、「半席」といっしょ。自分の人生をどこで燃焼させるかを必死に探す主人公と、寄り添う妻。泣けます。

PART3「白樫の樹の下で」につづく

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