主に海外向け国産自動車の補修部品の加工・組み立てをする「川合製作所」(湖南市)は、従業員14人のうち、5人が知的障害のある人たちだ。長い人は40年以上、ここで働いている。県内でも最も早い時期から複数の障害者の雇用に取り組んできた中小企業の一つ。請け負った加工・組み立てで長年、不良品を出していないのが、社長の川合充彦さん(59)の自慢だ。「障害者も、健常者も、ともに会社の信用を支える、欠かせない人材です」と話す。
「よし!」。稼働する機械の音に交じって、気合のこもった声が聞こえてくる。加工した自動車部品の一つ、クロスロッドの強度検査をする装置のそばで、障害のある男性(53)は、声をあげる。検査終了後、装置からこの細長い棒状の部品を取り出し、ひび割れやゆがみなど不良箇所がないかを目で点検し、白のマーカーでチェックを入れる。かけ声は「確認済み」を示す。1本、1本に声をあげる。
傍らで見守っていた川合さんは、かけ声にすかさず応じた。「ありがとう」。きちんと、作業手順を守っている。「これからも、その調子で」との気持ちを込めている。彼の場合、そのコミュニケーションが仕事へのモチベーションを引き出すと思っている。操業中、川合さんは各工程をまわり、常に従業員の姿を見つめている。
クロスロッドは車の重要な足回りの部品。その加工が川合製作所の主力となっている。規格外の部品は1本たりとも納品できない。だから、チェックに気が抜けない。
男性は20歳で入社。近くにある、障害者同士が共同生活しているグループホームから通う。「暑いのは苦手。しかし、仕事に来るのは楽しい」と話す。川合さんは「1本ずつ念入りに確認してくれる。それが彼の持ち味です」と語る。
男性は、クロスロッドの検査を1人で担当する。ただ、この作業が終わると、他の部品加工の応援に入る。川合さんによると、障害者5人を含むすべての従業員が複数の作業をこなすことができる。
県内の部品メーカーから川合製作所が加工などを請け負う部品は約100種類ある。既にメーカーが生産していないものも含まれるが、アジアや中東などにも輸出されるため、悪路に耐える頑丈さなどが求められる。「品質の確かさが当社の生命線です」と、川合さんは言う。「不良品を絶対に出さないことで信用を築き、事業がここまで続けることができた」
創業は1967年。川合さんの父、末次郎さん(88)が鍛造製品の下請け加工の仕事を始めた。初期の頃、主に加工過程でできる、製品のへりなどにはみ出したバリを削る仕事を請け負った。高度成長期、自動車が花形産業として急成長した時代。自動車部品の加工の注文が大量に届くようになった。
現在の本社の隣にあった工場が手狭になり、75年に現在地に移転した。しかし、当時数人だった従業員では仕事をこなせない。人手不足に直面した。悩んだ末次郎さんの目にとまったのが、近所にある県立近江学園の障害のある生徒たちだった。
学園に卒業生の雇用を申し入れた。共同作業所や授産施設など障害者の働き場所が不十分だった70年代半ば、障害者と健常者がともに働く会社がスタートした。末次郎さんは県内の他の施設にも声をかけ、働く障害者は増えていった。
川合さんが「専務」として製作所に入ったのは86年だった。その5年前、サラリーマンをやめ、約3カ月間、手伝ったことがある。しかし、なじめなかったという。大阪に働きに出た。再び家業を手伝いはじめ、数カ月で末次郎さんから経営を任された。
決心したことがある。「従業員全員の雇用を維持する。そのために、みんなの力を結集する。従業員一人一人が最大のパフォーマンスを発揮できるよう努力する」。それは、障害者も、それぞれの範囲内で事業に責任をもってもらうことだった。その人の適性を見極め、仕事を割り振る。決して補助的な仕事ではない。
工場には多数の工作機械がある。扱いを間違うと事故につながりかねない。作業手順を守る、分からないことがあれば相談する、報告や連絡を徹底する--。口が酸っぱくなるほど従業員に話した。ミスをした際には、厳しくしかったこともあった。
川合さんは今、数年前までのそんな姿を反省する。「人は、誰もが成長する」。そのことを実感したからだという。「ほめるだけでも、しかるだけでもだめ。ひたむきに働いている人には伸びしろがある」と話す。
発注を受ける部品加工の内容は時代とともに変化する。それに対応しないと生き残りはない、と川合さんは言う。「うちの従業員はみんな、その変化にできると思っている」
◆加工した部品は世界各国に
株式会社川合製作所
本社所在地・湖南市正福寺1271。工場は同市東寺1の6の28。資本金3000万円。創業1967年、法人設立75年。県中小企業家同友会から、2009年度の「滋賀でいちばん大切にしたい会社」の認定を受けた。
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自動車の部品は1台で数万点に及ぶ。うち、川合製作所が加工・組み立てを請け負う部品は操舵(そうだ)やサスペンションの関連部品。車の安全性に関わる「重要保安部品」だ。主に海外に輸出される国産車の補修用で、川合製作所は現在、加工・組み立ての中盤から最終の工程を担う。部品の輸出先は、東南アジアや中東、アフリカ、中米など世界各国に広がっているという。
毎日新聞 2018年7月23日