自宅を「仮想工房」に1年障害者ら技術生かす
重度の身体障害者たちがパソコン技術を生かして名刺やホームページ(HP)作成などを請け負うNPO法人「バーチャル工房やまなし」(事務局・甲府市)が発足して1年が過ぎた。パソコン機能をフル活用して、自宅を「仮想工房」にして作業する障害者たちは生き生きと働いている。(山田佳代)
メンバーは、県が2005年度から4年間にわたり重度障害者を対象に実施した在宅就労支援講座で、コンピューター技術を学んだ障害者12人と、講師など4人。講座終了後の昨年6月、参加した障害者らが「身に着けた技術を生かせる組織を作ろう」とバーチャル工房を発足させた。
「皆さん、この日程でどうですか」。事務局長の渡辺和久さん(51)は甲府市の自宅で車いすに座り、パソコンに取り付けた小型カメラに向かって話しかけた。パソコンを使ったテレビ電話「スカイプ」で、ほかのメンバーに会合の日取りを打診したのだ。こうしてメンバーは自宅にいながらコミュニケーションができる。
渡辺さんは会社勤めをしていた20年前、高さ約7メートルの柱で作業中に転落し、頸椎(けいつい)を損傷して下半身が動かなくなった。
その後、退職を余儀なくされ、自宅療養してリハビリする日々が続いた。幼かった長男から「いつになったら治って仕事するの」と聞かれた。仕事を持って子どもに胸を張れる父親でいたい――と強く思った。
06年度から3年、県の在宅就労支援講座で勉強した。研修で笛吹市の福祉施設のパンフレットを作成し、1万円を受け取った。「きょうはトンカツだ」と思いついた。事故に遭う前、給料日に自宅近くのトンカツ屋でよくトンカツを家族に買って帰った。かつての給料日のように家族でトンカツを囲んで食べた。「ごちそうさま」。食後の家族の一言がいまも心に残っている。
バーチャル工房では、メンバー全員が営業を担い、発足後の1年間に名刺、パンフレット、HPの作成など300件以上を受注し、計400万円ほどを売り上げた。渡辺さんは「働く喜びを分かち合いたい」と受注した仕事を12人の障害者に振り分けている。
運営委員長の矢崎繁さん(57)は、甲府市などで月1回開く法人の運営委員会に、甲州市の自宅からバスと電車を乗り継いで出席する。付き添うのはオスのラブラドルレトリバーの盲導犬「オーディン」だ。
矢崎さんは20歳代で視力が低下する「網膜色素変性症」と診断され、約20年前、視力を失った。
矢崎さんは自宅で、オーディンが座る横でパソコンに向かって仕事をする。得意とするのは、名刺の点字打ち。パソコン画面の文字を読み上げる音声ソフトを使ってHPも作る。仕上げ段階で背景の色合いなどに不備がないかは別のメンバーに確認してもらっている。
「それぞれの障害の特性を理解し、ほかの障害を持つ人と協力していくことが大切だ」と矢崎さん。
現在は、障害者に理解のある行政や福祉施設からの注文が多いが、理事長の小野智弘さん(70)は「将来的には、企業などいろいろな組織から注文を請け負えるようになりたい」と話している。
(2010年7月29日 読売新聞)
重度の身体障害者たちがパソコン技術を生かして名刺やホームページ(HP)作成などを請け負うNPO法人「バーチャル工房やまなし」(事務局・甲府市)が発足して1年が過ぎた。パソコン機能をフル活用して、自宅を「仮想工房」にして作業する障害者たちは生き生きと働いている。(山田佳代)
メンバーは、県が2005年度から4年間にわたり重度障害者を対象に実施した在宅就労支援講座で、コンピューター技術を学んだ障害者12人と、講師など4人。講座終了後の昨年6月、参加した障害者らが「身に着けた技術を生かせる組織を作ろう」とバーチャル工房を発足させた。
「皆さん、この日程でどうですか」。事務局長の渡辺和久さん(51)は甲府市の自宅で車いすに座り、パソコンに取り付けた小型カメラに向かって話しかけた。パソコンを使ったテレビ電話「スカイプ」で、ほかのメンバーに会合の日取りを打診したのだ。こうしてメンバーは自宅にいながらコミュニケーションができる。
渡辺さんは会社勤めをしていた20年前、高さ約7メートルの柱で作業中に転落し、頸椎(けいつい)を損傷して下半身が動かなくなった。
その後、退職を余儀なくされ、自宅療養してリハビリする日々が続いた。幼かった長男から「いつになったら治って仕事するの」と聞かれた。仕事を持って子どもに胸を張れる父親でいたい――と強く思った。
06年度から3年、県の在宅就労支援講座で勉強した。研修で笛吹市の福祉施設のパンフレットを作成し、1万円を受け取った。「きょうはトンカツだ」と思いついた。事故に遭う前、給料日に自宅近くのトンカツ屋でよくトンカツを家族に買って帰った。かつての給料日のように家族でトンカツを囲んで食べた。「ごちそうさま」。食後の家族の一言がいまも心に残っている。
バーチャル工房では、メンバー全員が営業を担い、発足後の1年間に名刺、パンフレット、HPの作成など300件以上を受注し、計400万円ほどを売り上げた。渡辺さんは「働く喜びを分かち合いたい」と受注した仕事を12人の障害者に振り分けている。
運営委員長の矢崎繁さん(57)は、甲府市などで月1回開く法人の運営委員会に、甲州市の自宅からバスと電車を乗り継いで出席する。付き添うのはオスのラブラドルレトリバーの盲導犬「オーディン」だ。
矢崎さんは20歳代で視力が低下する「網膜色素変性症」と診断され、約20年前、視力を失った。
矢崎さんは自宅で、オーディンが座る横でパソコンに向かって仕事をする。得意とするのは、名刺の点字打ち。パソコン画面の文字を読み上げる音声ソフトを使ってHPも作る。仕上げ段階で背景の色合いなどに不備がないかは別のメンバーに確認してもらっている。
「それぞれの障害の特性を理解し、ほかの障害を持つ人と協力していくことが大切だ」と矢崎さん。
現在は、障害者に理解のある行政や福祉施設からの注文が多いが、理事長の小野智弘さん(70)は「将来的には、企業などいろいろな組織から注文を請け負えるようになりたい」と話している。
(2010年7月29日 読売新聞)