この繁殖雌馬は、現役競走馬のとき他の施設で小腸閉塞で開腹手術を受けている。
繁殖雌馬になって疝痛で開腹手術したら、結腸の腸間膜が裂けていて結腸がメビウスの帯のように捻れたことによる結腸閉塞のようだった。
結腸の腸間膜を縫合したのだが・・・・・
1年以上経って再発した。
3度目の開腹手術をしたら、また結腸の腸間膜に孔が開いていた。
(写真)
癒合しなかったのか、また裂けたのか・・・・
今度は非吸収性のモノフィラメント縫合糸(プロリーン)で縫合した。
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そして、翌年分娩したが、その翌日またまた疝痛。
4度目の開腹手術。
非吸収性モノフィラメントの糸は癒合した腸間膜の中に残っている。
裂けたと思われる部分は、癒合したあとがあり、
それがまた裂けたようだ。
結腸壁の漿膜に縫い付けたと思われる部分では、漿膜が剥がされたように薄くなっている箇所もあった。
どうやら、この馬の結腸腸間膜は、癒合してもまた裂けてしまうようだ。
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仕方がないので大結腸亜全摘を行うことにした。
結腸捻転と違い、結腸は血行障害を起こしていないので、結腸動脈はものすごい血流量で波打つほどに拍動している。
それを何重にか縫合止血して、腹側結腸と背側結腸を切断し、2層縫合で吻合した。
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手術を終えたのが午後3時。
夜、前掻きするようになった。
夜中、前掻きし、横臥した。
心拍数は60と術後としては多くはないが、口粘膜は貧血気味。
フルニキシンとブトルファノールを投与するが、1時間もしないでさらに疝痛を示す。
超音波で検査すると、腹腔に腹水が多い。
術創から血様漿液が滴下している。
4度目の開腹手術で腹壁が薄く、結合織化しているので閉腹には気を使ったが密着させられなかったのだろう。
結腸動脈から出血しているか??
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再開腹を決断した。
腹腔内には血様腹水があり、3リットルほど吸引できたが、新たな出血はなかった。
止血してあった結腸動脈も見た目は異常なし。
これは吻合部で腸内へ出血したのだろう。
それももう既に止まっているようで鮮血便ではない。
昼間の手術では触っていない小腸壁にかなりの点状出血がある部分が数箇所あった。
術後のDIC???
小腸内容を盲腸へ推送し、盲腸をガス抜きし、結腸吻合部の通過を確かめ、小結腸の血便を推送し、閉腹した。
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供血馬を連れてきてもらって、5?採血し輸血する。
心配したが、麻酔中も覚醒もさほど問題なかった。
入院厩舎へ戻ったのが朝5時。
術後は、疝痛もなく食欲も出た。
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しかし、退院してからも不調が続いたようだ。
それでも、回復した。
私たちは魔法使いではない。
簡単に治せたり、救えたりできるわけではない。
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どうしたの
可愛く、おとなしくなっちゃって~
綺麗腸間膜というのはそもそも破れやすいものなのではないかという錯覚を覚えます。
ここまで何回も破れちゃうなら人工膜ではいけないのでしょうか?とも思ってしまいますし、DICだったとすれば、回復したのはもう奇跡とか魔法とか奇術とかに限りなく近いのではないかと思うのですが。
供血馬さん、いてくれてよかったですね。この患馬さんは治療の機会を得る幸運と、生命力とか強運とかをもち合わせているように思いました。
ちちんぷいぷい・・で治せれば良いのですが、そうはいかず悪戦苦闘の結果なんとか救える馬がいるということです。こちらも思い悩んだあげくですし、肉体的にもへとへとになります。
結腸の腸間膜にどのような力が加わるのか、考えさせられる症例です。一度癒合したところが確かに破れた痕がありました。人工膜を縫い付けても、たぶん剥がれるのではないかと思います。微妙な構造なんですね。
ちょっと見ぬ間に おら君 変わった!
毛が普通・小ぶり・大人しめ になってる(笑)
画像のオラ君は、さしずめ食欲廃絶、カタレプシーといったところでしょか?きっと回復するでしょう。
お帰りなさい。
これブリーダーさんは吉徳さんで、タイ生まれです;笑。北欧生まれ?のイケちゃんより毛は短いかも!
危なくて対面させられません。
まさに ゴールデン うぃーく ですね。
こんなに開腹された症例があることが驚きです、回復するまで気が気でないと思います、どうプレッシャーに耐えていらっしゃるのか。。。@。@;
>結腸動脈はものすごい血流量で波打つほどに拍動している。
生きた動脈の結紮止血は、どのような糸と手技でされているのでしょうか?
…こういう腹部手術は無いですがーー;、以前の喉嚢真菌症の緊急処置で頸動脈をしばるという記事
http://drhig.blogzine.jp/equine/2012/01/post_8d79.html
で、その時!緊急で具体的にどうすればよいのかと思い、太さは、絹糸でもよいでしょうか?
・・・こういうことに遭遇しないことを切に祈っていますが…ーー;
(かつて鼻血目の前にして祈るしかなかった患馬は術後治って25才くらいまで北の地で元気だったということです^^;)
よろしくおねがいします<(_ _)>。
プレッシャーの受け方とか、対応の仕方とかは若いときとずいぶん変わったかもしれません。歳のせいか、数をこなしてきたせいか・・・・忘れっぽくもなりました;笑。
それでも、再手術する決断ができるようにもなりました。
動脈の結紮は、動脈が単に1本の血管なら難しくはありません。結紮の強さに耐えられる太さの糸で解けないように縛れば良いだけです。
結腸動脈は太く、脂肪で覆われていて、おまけにそこからいっぱい横へ枝が出ています。動脈をくぐらせようと糸を回すだけでも枝からかなりの出血をします。私は0の糸を使って3重に縛ります。
そして、止血した部位と切除する部位の関係も重要です。止血した部位の遠位は壊死するでしょうし、止血した部位より近位で切除すると当然出血します。
再開腹はいやなものと思いますが、決断できるのがご経験の蓄積なのでしょう。プライスレスですね(ー人ー)☆