礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

日産・スバル「新車無資格審査」問題のツボ

2017-11-12 04:38:07 | コラムと名言

◎日産・スバル「新車無資格審査」問題のツボ

 今月一〇日の東京新聞「視点」欄に、「相次ぐ製造業の不正/現場の疲弊直視を」と題する論説が載った。筆者は、木村留美氏である。その最初と最後の部分を引用してみる。

 神戸製鋼所の製品データ改ざんや日産自動車とSUBARU(スバル)の新車の無資格審査と、製造業の不正が相次いで発覚している。その中身はそれぞれ異なるが、日本のお家芸であるはずのものづくりの現場で起きた不正は「偶然」では済まされない。
 自動車や航空機のアルミ・銅製品の性能データを改ざんしていたと説明した神戸製鋼の十月八日の記者会見は、納入先が五百社以上に及ぶ途方もない不正の連鎖の序章にすぎなかった。改ざんの理由を梅原尚人〈うめはら・なおと〉副社長は「納期や生産目標に対するプレッシャーがあつた」と明かした。
【中略】
 今回の不正で神戸製鋼は築いてきた製品の品質への信頼を一瞬で失った。そればかりか、他の企業の不正と相まって日本製品への信頼性まで揺らぎ始めている。経営者は「ものづくり」の将来を見据えるならば、限界に達している現場の疲弊に正面から向き合う必要があるだろう。 (木村留美)

 この論説は、その冒頭で、神戸製鋼所における製品データ改ざん、日産自動車・スバルにおける新車の無資格審査に触れている。しかし、それ以降は、もっぱら神戸製鋼にデータ改ざん問題についての論評である。
 木村氏は、神戸製鋼にデータ改ざん問題の背景に、深刻な現場の疲弊があると指摘している。まさに、その通りだと思う。しかし氏が、神戸製鋼所における製品データ改ざん問題と、日産自動車・スバルにおける新車の無資格審査問題とを、ひと括りの問題として捉えていることには異議がある。
 神戸製鋼所における製品データ改ざん問題は、その影響が深刻であり、影響が及ぶ範囲も広い。一方で、日産自動車やスバルが、新車の無資格審査を続けてきたことで、日産やスバルの欠陥車が市場に出回ったという話を聞かない。新車の無資格審査は、「製造業の不正」と言われれば、たしかにその通りである。しかし、そもそも新車に対し、なぜ「資格」を持った審査員(正規検査員)による審査が必要なのか。無資格の審査員が新車を審査しても、何ら問題は起きていないというのが、現状ではないのか。新車の審査そのものの意味が、すでに失われているということではないのか。
 ネットで、新車の無資格審査問題を論じている文章を検索してみたところ、【池原照雄の単眼複眼】「検査不正で想い起こした喜一郎氏の黒ずんだ指先」(2017/11/8)というコラムが見つかった。そこで、池原照雄氏は、次のように指摘している。

 今回の完成車検査の場合、型式指定制度によって1台ごとの保安基準への適合検査は自動車メーカーに委ねられており、大量生産を支える合理的な運用といえる。このため、監督官庁である国土交通省は、燃費不正の時と同様に「制度の根幹を揺るがすもの」(石井啓一国交相)と非難する。だが、民間に委ねた後の同省の監視機能は、不全状態だったということだ。

 これによって、今回、問題になっている「新車の審査」は、国土交通省が「民間」に委ねた「完成車検査」という位置づけであることがわかる。
 つまり、「新車の審査」というのは、車検制度の一種であって(池原氏は、「初回車検」という言葉も使っている)、本来であれば、これは、国土交通省が、みずからの職員によっておこなうべき手続きなのである。その手続きを、国土交通省は、「民間」つまり自動車会社にゆだね、審査員(正規検査員)を養成することまで、自動車会社にゆだねている。これが、自動車会社にとって、大きな負担をもたらしていることは言うまでもない。しかも自動車会社は、無資格の審査員が新車を審査しても何ら問題がないことを、よく知っている。だからこそ、こういう「不正」が生ずるのである。
 前掲の池原氏のコラムによれば、今回の「不正」問題について、トヨタ自動車の豊田章男社長は、「ルールというものは、絶えず(取り巻く)状況も変わる。国土交通省や自工会などで、より安心、安全を守る方法を探っていくべきではないか」とコメントしたという。婉曲な言い方ではあるが、豊田章男社長は、現行の「初回車検」制度について、見直しの必要があることを示唆したのではないだろうか。

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