礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

今や日本は国家存亡の重大岐路にある(1948)

2014-01-21 07:14:36 | 日記

◎今や日本は国家存亡の重大岐路にある(1948)

 光藤直人『賭博犯検挙要説』(警察時報社)には、戦中版(一九四二)と戦後版(一九四八)とがある。本文の内容は、基本的に変わっていない(章立てで、若干の変更あり)。しかし、「序」と「はしがき」については、明確な変化がある。
 戦中版には、著者・光藤直人による「序」があって「はしがき」はない。これに対して、戦後版には、警視庁刑事部捜査第一課長・堀崎繁喜による「序」と著者による「はしがき」とがある。
本日は、戦後版の「はしがき」を紹介してみよう。

 は し が き
 賭博の取締に関する著作は絶無ではない。それに拘らず敢て禿筆〈トクヒツ〉を揮つたのは「一本を座右に備うれば先づ足りる」と謂うべき冊子が時節柄〈ジセツガラ〉必要であると痛感せられたからである。
 本書の特長は内外勤、制私服員、監督者たると巡査たるの何れを問わず、警察官として夫々〈ソレゾレ〉の立場から見て賭博取締上の必要事項を網羅したことである。
 素より著者は学究の徒ではないので、法律的の難かしい条文の説明は避け、十数年来の実務経験に基いて実際的に平易なる解説を試みた次第である。
 幸に本書が賭博犯取締の参考として、警察官諸賢の座右に備えられ活用される事あれば、望外の欣び〈ヨロコビ〉とするところである。
 昭和二十年八月十五日、大東亜戦争に終止符が打たれ敗戦と云う現実に当面して歴史的大変換があつてからはや三度目の新年を迎えたのである。その間に於て、民主主義に立却〔ママ〕した新憲法の実施、戦争放棄による軍隊の廃止が宣言せらるゝ等の重大変革があり、一方に於ては思想の動揺、経済界の不安定、悪性インフレーに因る〈ヨル〉物価の高騰、食糧危機、闇ブロカー〔ママ〕の横行、強窃盗殺人等、凶悪犯罪の激増等血醒き〈チナマグサキ〉世相の中にあつて、之が治安維持に任じて来た警察官の労苦は筆舌に尽し難いものがあつた事を痛感せらるゝのである。
 今や日本は容易ならざる難局に直面し、国家存亡の重大岐路にある事を国民の一人々々が認識して、平和国家建設の為、粉骨砕身努力すべきであつて、一人たりとも無為安逸は許されざる秋〈トキ〉である。
 戦後新に警察に課せられた任務は重大である。是等時局要務と在来の責務と、更に是に代るべき重大任務と併せ荷うて完全に国内の治安維持に任ずる事は、現在の警察陣容を以つてして決して容易な事ではない。
 而も吾々は万難を排して之が完遂を図り国家の付託に応うる〈コタウル〉処がなければならぬ。吾々は啻に全力を挙ぐるを以て足れりとせず、時局を認識し全力を最有効に用うるの方途を真剣に考慮し平和国家建設の為に身命を捧ぐべきである。
 故にこの心構えを以て凶悪犯罪を撲滅し、目に見えずして国家再建の傷害を為す賭博に就ても万全の取締を為し、治安の回復と平和国家建設に不安なからしむ様、努力して戴きたいと希う。
 昭和二十三年二月        著 者 識

今日の名言 2014・1・21

◎戦後新に警察に課せられた任務は重大である

 光藤直人の言葉。『賭博犯検挙要説』(警察時報社、1948)の「はしがき」に出てくる。当時は、警察官の資質が劣化していたともいう。そうした中で吐かれた悲壮な言葉であると受けとめる必要がある。

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