礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

信用は貨幣である(フランクリンとウェーバー)

2014-01-02 04:44:35 | 日記

◎信用は貨幣である(フランクリンとウェーバー)

 昨日の続きである。マックス・ウェーバーが、その論文や著書の中で引いている事例や文章は、彼の難解な論理を理解しようとする際に、たいへん役に立つ。昨日は、その例として、ウェーバーが、著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の最後のほうで引用しているジョン・ウェスレーの文章を紹介した。
 本日は、ウェーバーが同書の最初のほうで引用している、ベンジャミン・フランクリン(一七〇六~一七九〇)の文章を紹介してみよう。ただし、ウェーバーは、フランクリンの文章をかなり長々と引用しているので、ここで紹介するのは、その前半のみ。なお、引用は、岩波文庫の旧訳(梶山力・大塚久雄訳)からおこなった。

「時は貨幣であるということを忘れてはいけない。一日の労働で一〇シリングをもうけられる者が、散歩のためだとか、室内で懶惰〈ランダ〉にすごすために半日を費すとすれば、たとい娯楽のためには六ペンスしか支払わなかったとしても、それだけを勘定に入れるべきではなく、そのほかにもなお五シリングの貨幣を支出、というよりは、抛棄したのだということを考えねばならない。
 信用は貨幣であることを忘れてはいけない。ある一人の人が、支払期日の過ぎてからもその貨幣を私の手もとに残しておく場合には、私はその貨幣の利息を、或いはその貨幣でその期間中にできるものを彼から与えられたことになる。もし信用が善且つ大で充分に利用されるとすれば、それが少なからぬ額に達することは明らかである。
 貨幣は生来繁殖力と結実力とをもつものであることを忘れてはいけない。貨幣は貨幣を生むことができ、またその生まれた貨幣は一層多くの貨幣を生むことができ、さらに次々に同じことがおこなわれる。五シリングを運用すれば六シリングとなり、さらにそれを運用すれば七シリング三ペンスとなり、そのようにして遂に一〇〇ポンドともなる。貨幣の量が多ければ多いほど、その運用から生まれる貨幣は多く、利益の増大もますます速かになってくる。一頭の親豚を殺すものは、それから生まれる一千頭もの豚を殺しつくすものだ。五シリングの貨幣を死滅させるものは、それによって生みえたはずの一切のもの――幾百千ポンドの貨幣を殺害し(!)つくすものだ。
 支払のよい者は万人の財布の主人である――という諺がある――ことを忘れてはいけない。約束の時期に正確に支払うことが評判になっている者は、友人がさしあたって必要としていない貨幣をすべて何時でも借りることができる。
 これは往々大きな利盆となる。勤勉と質素とを別にすれば、すべての仕事で時間の正確と公平を守ることほど、青年が世の中で成功するために必要なものはない。それゆえ、借りた貨幣の支払いは約束の時間より一刻も遅れないようにしたまえ。友人が怒ってそれ以後一切君の前では財布を閉じることのないように。
 信用に影響を及ぼすなら、どんなに些細な行いにも注意しなければいけない。午前五時か夜の八時に君の槌の音が債権者の耳に聞えるならば、彼はあと六ヵ月構わないでおくだろう。それどころか、労働していなければならぬ時刻に君を玉突場で見かけたり、料理屋で君の声を聞いたりすると、彼は翌朝になれば君に返却せよと、準備もできぬうちにその貨幣を請求してくるだろう。【以下略】」

 ウェーバーはこの文章を、フランクリンの『若い商人への忠告』(一七四八)から引いている。そして、上記の約二倍の量の引用を終えたのち、こう言っている。

 彼〔フランクリン〕の口から特徴のある言葉で語られているものが「資本主義の精神」であるということは、この「資本主義の精神」という語の一切の意味がそこに含まれているとは必ずしも云いえないにしても、やはり誰人もそこに疑いを挟まないであろう。

 まさにその通りである。文章の書き手が、みずからの論理を展開してゆく際には、その論理を補強するにふさわしい材料を選び、その材料を適切なタイミングで提示する必要がある。それにしても、さすがはウェーバーというか、こういったテクニックには、常に抜群の冴えを見せる。
 ちなみに、ウェーバーが、「エートス」というキーワードを持ち出したのは、上記引用部分のすぐあとであった。

 実際この説教〔フランクリンの説教〕の内容をなすものは単純に処世の技術ではなく、独自な「倫理」であって、これを犯すものは愚鈍であるに止まらず、一種の義務忘却を犯すものとされているのである。このことは何にもまして事柄の本質をなしている。そこでは、「事業の才智」が教えられているだけではない。そうしたものだけなら他にも勿論しばしば見出される。そこには一つのエートスが表明されているのであって、このエートスという性格こそがわれわれの関心をよびおこすのである。

今日の名言 2014・1・2

◎信用は貨幣である

 ベンジャミン・フランクリンの言葉。『若い商人への忠告』(一七四八)に出てくる。その前で「時は貨幣である」(時は金なり)という格言を引いているので、それをもとした言葉だと思われる。

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