「へ」は以下の2回にわたって紹介しています。
2020/3/16から「ペーパー・ムーン」「ペコロスの母に会いに行く」「ヘッドライト」「別離」「ベニスに死す」「HELP!四人はアイドル」「ベルリンファイル」「ベン・ハー」 と
2021/11/13から「ヘアスプレー」「ペイチェック 消された記憶」でした。
今回も少ないです。
「兵隊やくざ」 1965年 日本
監督 増村保造
出演 勝新太郎 田村高廣 北城寿太郎 滝瑛子 淡路恵子 早川雄三
ストーリー
昭和十八年、極寒の地ソ満国境に近い孫呉の丘に、関東軍四万の兵舎があった。
そんなところに、浪曲師の門を追われ、やくざの用心棒をやっていた大宮貴三郎(勝新太郎)が他の新兵といっしょに入隊してきた。
そして、この貴三郎の指導係を命じられたのが、名門生れのインテリで幹候試験をわざとすべった三年兵・有田(田村高廣)であった。
星一つちがえは天地ほどの隔りをもつ軍隊で、貴三郎の倣慢な態度は上等兵達の敵意を買った。
なかでも大学の拳闘選手だった黒金伍長(北城寿太郎)は砲兵隊の権威をかさにきて貴三郎を痛めつけた。
腹のおさまらない貴三郎は、数日後単身、再び黒金と相対した。
しかし相手は多勢で、さすがの貴三郎も血まみれになった。
だが、そこへ有田が駆けつけた。
古兵の出現に事態は逆転し、黒金は指の骨を全部折られたあげく泣き寝入りとなった。
そんなうちに貴三郎と有田の間に力強い男の絆が生れた。
執念深い黒金は、全師団合同大演習の夜、再度貴三郎を襲い、歩兵隊と砲兵隊の喧嘩に発展してしまった。
やがて事件が上官にも知れ、貴三郎は外出禁足令をくらった。
だがその夜貴三郎は兵舎をぬけ出し、将校専用の芸者屋で音丸(淡路恵子)と遊び戯れていた。
身柄を預かる有田は自ら制裁することを誓って、貴三郎を不問に附した。
戦況は切迫し、有田の満期除隊の夢も潰え、貴三郎のところには、南方へ出動命令が下された。
だが、今は有田と離れがたい心情にかられた貴三郎は、故意に無断外出の禁を犯し、営倉入りした。
やがて大隊全員に転進命令が下った。
寸評
勝新太郎は大映映画「悪名」「座頭市」そして「兵隊やくざ」のシリーズで人気が絶頂となった昭和の映画史に名を残す大スターである。
役柄は豪快なアウトローばかりで、彼の風貌も役柄に一役買っていたと思う。
勝新太郎が演じる大宮貴三郎は軍隊と言う非民主的な社会を打破するヒーローとして存在している。
戦争を描いた作品だと軍隊の戦闘を真っ先に想像してしまうが、ここでは戦闘場面はなく、兵営内での班長を頂点とした生活組織である内務班の生活を描いている。
型破りな兵隊である大宮貴三郎が、インテリ上等兵の有田とともに上官の横暴などと闘う内容となっている。
内容的には相手が違うものの上官による大宮貴三郎への制裁と彼の反撃、そして大宮を助ける有田が描かれ続けるのでストーリー的には変化が少ない。
冒頭で有田による「兵隊の話は、もうごめんだって? 私も同感だ。20 年経ったいまでも、カーキ色を見るたびに、胸糞が悪くなる。なにしろ、故国を何百里と離れた満州の、それも北の果て、ソ連との国境に近い孫呉という街で、四年も兵隊の生活をしていたのだから」というナレーションが入る。
軍隊の非民主的な行為として画一的とも言えるビンタ、ビンタの連続で、描き方としても”もうごめんだ”と言いたくなるのだが、大宮の反撃には軍隊生活を経験していない僕でも「よくやってくれた」と溜飲を下げることが出来る。
大宮が自己紹介的に「新宿の親分の命令を受けて、露天のショバ代を徴発して歩くのが自分の商売で、その前は浪花節になりたかったが、一年と師匠のところはつとまらず破門された」と言っているから、彼は芸人修行のなかばで素行が悪くて破門され、腕っ節を買われてやくざになったという男のようだ。
ヤクザのもめ事で人を殺したが、身代わりが務所に入ってくれたようで、身代わりと残された家族のことを気にかける善良な部分も見せている。
そのあたりがインテリの有田が一目置くところなのだろう。
大宮貴三郎は兵隊なのに上官が行く慰安所に通い音丸を贔屓にする。
有田は大宮をいたぶった炊事班の石神軍曹の不正を慰安所のみどりから聞き出す。
満州の慰安所なら中国人や朝鮮人の慰安婦が居ても良いはずだが、あえて日本人の慰安婦しか登場させていないと思われる。
慰安婦問題に気を使ったのかもしれない。
大宮たちの部隊は南方へ派遣されて全員戦死を遂げてしまうが、当時そのような命令を受けた兵士たちの気持ちはどんなだっただろう。
戦死を覚悟して命令に服しただろうから、戦争とはむごいものでる。
階級の差による非道は想像できるが、兵役の長さによる上下関係も重要な要素だったようで、戦場を知らない僕は戦地における上下関係がよく分からなかった。
当時の状況として戦地では有田上等兵が中沢准尉に対してあのような態度をとれたものなのだろうか。
大宮の指示、音丸の協力で有田と大宮は脱走に成功する。
最後に有田が大宮にかける言葉も痛快であった。
未読である原作の意図がどこにあるのかは知らないが、映画は反戦を意識させない痛快娯楽作であった。
この「兵隊やくざ」シリーズは、大映の「座頭市」・「悪名」シリーズと並ぶ、勝新太郎のヒットシリーズの第1弾が、この映画「兵隊やくざ」だ。
有馬頼義の小説「貴三郎一代」を、名脚本家の菊島隆三がシナリオ化し、名匠・増村保造が監督した作品だが、破天荒の痛快さに満ち溢れた一篇だ。
勝新太郎扮するのは、元ヤクザの新兵。
このならず者を教育するよう命じられたのが、田村高廣扮する、インテリ三年兵・有田上等兵だ。
育ちも性格も全く違う二人だが、なぜか気が合い、奇妙な友情で結ばれた二人は、非人間的な大日本帝国陸軍に、徹底的な犯行を試みていくというのが、シリーズを通しての基本コンセプトになっていると思います。
この第一作目の物語は、三年兵の有田上等兵が所属する部隊に、新兵の大宮貴三郎が入って来る。
貴三郎は無頼の徒で、八方破れの暴れ者。
上官の命令でも、納得できないことには従わず、その為、殴られたり、蹴られたりの日々。
だが、有田はこの反骨感に、いつか親しみを覚え始めるのだった。
貴三郎も有田には友情を感じ、二人は遂に脱走を計画することに--------。
勝新太郎は、先行する「座頭市」「悪名」をヒットさせ、シリーズ化も成ってから、この作品に主演している。
まさに脂の乗っていた時期の作品なのだ。
加えて、無鉄砲で正義感に溢れた、無頼の兵隊と、役どころもピッタリだ。
水を得た魚のごとくに、この作品に挑んで、思いっきり暴れ回っている。
軍隊において、勝新太郎が扮する主人公は、ヤクザの倫理をそのまま通そうとする為に、あちこちでぶつかり、その度にビンタを食らったり、リンチを受けたりすることになるのだが、もともとは、世間のはみ出し者たちが、勝手に作り上げた倫理観が、軍隊のそれよりも、ずっと人間的であるという奇妙さ、面白さ。
勝新太郎が暴れれば、暴れるほど、それだけ、日本の軍隊の非人間性が暴かれていくという寸法なのだから、暴れれば、暴れるだけ、楽しさが増していくのだ。
主人公は、権力に反抗する者の一人だが、そこに悲壮感といったものは全くない。
天衣無縫。思った通りに暴れ回っている。
ジメついたところが皆無なのが良いし、助平根性丸出しにして、淡路恵子と戯れるあたりも、人間臭くてまたいい。
そして、勝新太郎と田村高廣の友情も、同期の桜的なベタついたものではないだけ、観ていて実に気持ちが良い。
増村保造監督は、日本的な閉塞状況を、個としての人間のエネルギーの爆発で打ち破っていくという、生来のテーマをきっちりとこの作品の中に入れ込んではいるが、決して理屈をこねたりはしない。
あくまでも、娯楽性、通俗性で押し通しつつ、この作品を撮っていて、実に素晴らしい。
「座頭市」や「悪名」とは、また違った味のヒーロー像を創り上げて、勝新太郎も見事だが、増村保造監督の監督としての腕もまた確かだ。
その分、悪に向かっていくエネルギーを存在しているだけで感じさせる人だったように思います。
「座頭市」も「悪名」も、そしてこの「兵隊やくざ」も第1作は実に面白い。
他に菊島作品では、黒澤明の『用心棒』での三船敏郎と東野英次郎の友情です。