えー、先日、と言っても、風邪でぶっ倒れる前、まあ、2,3週間前の話になりますけど、
アメリカ人の友人、仮名ジムと飲んでいたんですね。
ジムは日本文化オタクが高じて、日本に来ちゃった金融コンサルタントなんですけど、
「日本人のかみさんを探すんだ。綾波レイちゃんみたいなの!」
とアホなことを公言している奴なんで、どれくらいアホか、わかると思いますけど、
このジムがこういうことを言うわけです。
「なあ、日本の社会って、談合ってのが、あるんだって?自由経済のアメリカ人の俺から言わせると、こんな不正義は、ないなー」
まあ、酒の上の話ですから、ジムも笑顔だったりして、挑発をしかけているのは、明白なんですけど、
こういうおしゃべりが、いろいろ日本について、気づかせてくれたりするんですね。
「じゃあ、アメリカの正義って奴を、説明してくれよ」
と、僕も、なんだか、「塚原卜伝」の剣の試合みたいに、相手の出方を探るわけです。
ま、その時は、まだ、「塚原卜伝」始まっていなかったけどね(笑)。
「とにかく、全ては市場が決める。供給量と品質に対して、価格が決まる。それが神の意思だ」
と、一神教を信じるアメリカ人ジムは、そういう言い方で、僕を、挑発します。
「つまり、枠組みを守るために行われる、日本の談合は、その神の意思を無視しているものだ、と?」
と、日本人である僕も挑発し返します。
「そう。そうだ。神の意思を無にする行為だ。神の僕(しもべ)たる僕達からすれば、それは、許されない利敵行為だよ」
と、ジムも応戦します。
「利敵行為・・・悪魔を助ける所業だと言うんだね?」
と僕が言うと、ジムは、
「そういうことだ。違うかな?」
とほくそ笑みます。
「僕は日本のだめな部分。例えば、重要な決断が下せない背景・・・TPPの話だって、結論が出ないだろ?・・・には、談合の背景にある、何かが作用していると思うんだ」
と、ジムは指摘します。
「アメリカの正義である、市場至上主義を以てすれば、それも解消出来ると?」
と、僕が言うと、ジムは、得たりとばかりに話し出します。
「そうだ。例えば、硬直し腐敗する組織のことを考えてごらんよ。例えば、人事を握る総務部系の組織は、腐敗しやすい・・・既得権益になっちゃうからね」
と、ジムは言います。
「うーむ、うちの会社は、腐敗なんぞ、してなかったぞ・・・けっこう、入れ替えも激しかったし、それで既得権益化を防いでいたんじゃないかな・・・」
と、僕は自分の経験を話します。
「まあ、ゆるちょはミツビシにいたんだろ。そういうところじゃなくて、既得権益化する場所ってのは、あるんだよ」
と、ジムはニヤリとしながら、
「日本の官僚組織・・・天下りは既得権益じゃないのかい?」
と、ズバリ!と核心をついてきます。
「アメリカでは、人事すら、アウトソーシングして、市場競争させる。その人事の評価機関も外に置くから、恣意的な人事なぞ、出来なくなるんだ」
と、ジムはニヤリと笑います。
「なるほど、すべて市場競争に任せれば、いい、という結論か」
と僕が言うと、ジムは、頷きます。
「そう。市場競争に任せれば、自ずと結論は出る。だから、アメリカは結論を出すのが速いし、正確だ」
と、ジムは胸を張ります。
「それに比べて、日本はどうだ・・・個人やら組織を守るための仕組みがわんさか・・・だから、仕事も遅いし、決断も遅い」
とジムは核心的なことを指摘します。
「アメリカ人はとにかく、シビアに仕事しまくる。そうしないと自由競争に勝てないからね・・・日本人はどうも、自分を守るために仕事をしているみたいに見えるんだかな・・・」
と、ジムは自分なりの仕事感について話します。
「アメリカと日本では、正義が違うからね」
と、僕は、結論的にジムに言います。
ジムは、少しだけ目を光らせると、
「ほう。じゃあ、日本の正義とやらは、なんなんだ?」
と、素直に聞きます。
僕は少しだけ、姿勢を正してジムを見つめると、
「和をもって尊しとなす」
と、言います。
その言葉にジムは、怪訝な表情。
「聖徳太子が制定した、十七条の憲法の第一条だ」
と僕は、説明します。
「聖徳太子?・・・いつの時代の話だ?」
と、ジムが質問するので、
「7世紀始めの話だから、随分昔の話だが、日本はそのところは、未だに、変わっちゃいない」
と、僕は、笑います。
「日本では、なにより、社会を守ること、仲良くすることが、正義なんだ。だから、競争も本来、悪とされている。つまりキミらの正義とは、ま逆なんだ」
と、僕が言うと、ジムは驚いたように、
「え、どういうことだ?競争が悪だと?」
と、僕に聞きます。
「競争してしまうと、お互いの実力がわかってしまうからね。そうすると、人間として、上下が出来てしまうだろ?」
と、僕が言うと、
「何を言っているんだ、ゆるちょ?上下が出来なければ、給料に差が出せない・・・いや、公正な競争が出来ないだろ?」
と、ジムは鼻をつままれたような顔をします。
「実際は、猛烈な競争をしているよ。サラリーマン社会ではね。でも、つきあいの上では、あまり、能力の差について言及しないのが、日本社会だ」
と、僕は言います。
「強きをくじいて弱きを助ける・・・それが、武士道の基本理念だからね。お互い助けあって仲良くやっていこうってのが、日本社会の基本通念なんだ」
と、僕が言うと、
「だから、談合なのか?自由競争をしたように見せかけて、枠組みを守るために、お互いの存在を尊重するために、納得する結果をお互い受け入れる」
とジムは言います。
「お互いを傷つけないために。だって、本来作らないはずの、上下を自ら作ったんだから、それでよしとしよう・・・それが談合の思想だよ」
と、僕が言うと、
「だから、日本は、だめなんだ。だから、腐敗化した組織が日本にはたくさんあるじゃないか?それでも、まだわからないのか?」
と、ジムは言います。
「「和をもって尊しとなす」の精神と、武士道の精神からは、そういう社会が作られるんだよ」
と、僕が言うと、
「だから、日本はだめなんだ!」
と、ジムは言います。
「仕事も遅いし、なにより、結論が出てこない。何も決められない。ただ、時間だけが過ぎるだけ。それは、時間の浪費にすぎないじゃないか」
と、ジムは言います。
「結論を出すということは、正しいとする人間と正しくないとする人間を創ることだ・・・。わざわざ戦いを助長することだ」
と、僕が言うと、
「日本においては、何より、和を乱すことは、容認できないんだ。不快な思いを生むことになる。それは、日本社会においては、やってはいけないことなんだ」
と、僕が言うと、
「じゃあ、何か、いつまでも、結論は、先送りした方がいい!と言うのか?」
と、ジムは僕に食って掛かります。
「日本人の正義的に言うとすれば、そういうことになるね」
と、僕が言うと、ジムは唖然とします。
「もちろん、それは、日本人の正義的に言えば・・・ということだ。日本人の世界だけなら、けっこう、それで上手くいく。だけど、世界が相手だとそうはいかない」
と、僕が言います。
「当たり前だ・・・しかし、日本の国内というのは、興味深い世界だな・・・結論を出すことが、戦いを生むなら、あえて先送りする・・・そういう考えがあるとはな」
と、ジムはため息をつきます。
「日本には、260年のミラクルピースという、物質文明の進化を止め、精神文化だけを成長させた時代があった。先送りすることで戦いを生まず、ミラクルピースは成ったんだ」
と、僕が言うと、ジムは僕を見ます。
「欧米はその間、血塗られた時代を生きた。戦いが戦いを呼び、物質文明の進化は格差を生み戦争を呼んだ。その間、多くの死者を生んだ」
と、僕は事実を指摘すると、
「この歴史の違いを君はどう見るね?」
と、僕は結論的にジムに叩きつけます。
「戦って勝利を得ることで、進んでいくアメリカと、戦を嫌い平和を指向する日本人の違いが、そこに現れていると思うけど、どう思う?」
と、僕が静かに言うと、
「戦って勝つことだけでは、達成できないものもあるかもしれないな。戦争と平和の歴史の違いか・・・しかし、日本というのは、興味深い国だ」
と、ジムは、ある感慨を持って、僕を見ているようでした。
「なるほどな・・・お互いの文化の根っこを理解しないと、相手の文化ってのは、理解できないもんだな・・・」
と、ジムは言うと、
「しかし、ゆるちょは、日本人的でないな。だって、論争好きだし、けっこう、本音でバリバリ言うからな」
と、混ぜっ返します。
「おかげで、友達ガンガン減っているよ(笑)。ま、そんな俺を気にいってくれる、ジムみたいな、新しい友だちもガンガン作っているけどな」
と、僕が言うと、
「確かに。ゆるちょは、しっかりいろいろ言ってくれるから、付き合いやすい。お互い切磋琢磨するのが、友人ってもんだと思うぜ。アメリカ人の俺としてはな」
と、ジムは頼もしげに言うと、
「ひとは、進化していかなければ。成長していかなければ、しあわせになれないぜ」
と、遠くを見つめるジムでした。
「俺も、そう思うよ」
と、僕も静かにビールを飲み干し、しば漬けを食べるのでした。
「そのしば漬け、うめえだろ」
と、こっちも見ずに言うジムでした。