「いやあ、都合のいいところに、自転車が、捨ててありましたねえ」
と、邦衛は、学生用のスポーツ車と覚しき自転車をこぎながら、はしゃいでいます。
「邦衛、自転車は、大丈夫なの?ちゃんと乗れるの?」
と、邦衛につかまりながら、自転車の荷台に、乗っている由美ちゃんです。
「へへ。これでも、子供の頃は、韋駄天の邦衛と呼ばれたもんですぜい。自転車くれえ、どってことないっす」
と、うれしそうに、自慢する邦衛です。邦衛の言うとおり、自転車は、速度をあげて走っています。
緑の丘のような場所を走る、自転車です。
空は、少しずつ、開け始め、少しずつ、明るくなってきています。
邦衛は、うれしそうに、走ります。由美ちゃんのために、自分が役に立っていることに、喜びを感じているようです。
「なんだか、こうやって、走っていると、恋人同士みたいね、わたしたち」
と、うれしそうな邦衛を見ながら、邦衛の腰に手をまわす、由美ちゃんは、ポロッと話します。
「お嬢ちゃん、何を言ってるんでえ。あっしは、お嬢ちゃんのナイトのつもりですぜい」
と、邦衛は、由美の言葉に、少し照れながら、それでも、自分を主張しています。
「お嬢ちゃんは、美しいお姫さん。そして、俺は、それを命がけで守る騎士でさ。それが、一番しっくりくる」
と、邦衛は、そう言って、納得しています。
「お嬢ちゃんと、恋人同士なんて、そんな、恐れ多いすよ」
と、邦衛は、小さくつぶやきます。その言葉は、由美には、聞こえていないようです。
「ナイトの背中はたくましいわね。奥さんは、いるの、邦衛?」
と、由美は、興味深く、邦衛の背中を見ながら、そう話しかけます。
「ええ。華子って、いうんですけどね。元看護婦のかみさんが、ひとりいます」
と、邦衛は、急に、奥さんのことを思い出します。
「へえー。邦衛のことだから、美人の奥さんでしょう?」
と、由美ちゃんは、断定口調で、決めつけます。
「え、そりゃ、ま、あのー、ええ」
と、突然、取り乱す、邦衛ですが、
「まあ、俺が言うのも、何ですが、すっごい美人です」
と、素直に白状する邦衛です。
「やっぱりねー。あなた、女性に愛されるところを、たくさん、持っているもの・・・」
と、由美は、邦衛の背中をみながら、素直に話しています。
「そ、そうですかい?ど、どこに、そんなものが・・・」
と、邦衛は、はじめて言われた言葉に、どきどきしてしまいます。
「あら、あなた、そういうこと、周りの女性に、言われたこと無いの?」
と、由美はさも当然のこと、という風に、話します。
そのとき、邦衛の脳裏に、いろいろな、シーンが浮かびます。
「あなたは、女性に、モテるから、心配しちゃうわ」
と華子さんが、言っています。
「もう、邦衛ったら、ほんとに、あなたは、かわいいわね」
と、組長の奥さん、神山ひろこさんが、話しています。
「もう、邦衛さんったら、すぐに、女性のこころを、くすぐるんだから」
と、どこかのバーの女の子が、しなだれかかります。
「邦衛さん、だーい好き」
と、どこかの娘さんが、言っています。
「わたしに、嫉妬させないでね。愛しているわ、あなた」
と、華子さんが、目で笑いながら、キスしてくれます。
「あ、俺、けっこう、そういうこと、言われてきた、みたいす・・・」
と、邦衛は、記憶を思い出しながら、カーッと赤くなっています。
「ふふふ。そういうところが、邦衛のかわいいところ、なのかもね」
と、そういう邦衛の表情を、笑いながら、見ている由美です。
「い、いやあ、俺って、てっきり、女性には、モテない人間だと、思ってやしたんで・・・」
と、邦衛は、新しい事実に直面して、ちょっとドキドキしています。
「それは、単なる思い込みよ。あなたは、十分に、男性として、魅力があるし、愛される価値をもつ人間よ」
と、由美は、素直に思っていることを、邦衛に、言います。
「いやあ、こんなきれいな、お嬢ちゃんに、そんなこと、言われると、照れるじゃねーですかい」
と、邦衛は、顔を真赤にしています。
「あなたみたいなひとに、愛されて、奥さんもしあわせね」
と、由美は、さらりと言います。
「いやあ、迷惑ばっか、かけてますよ。俺っち、いまいち、人生をうまく生きられねえんで・・・」
と、これまでの人生をふりかえる邦衛です。
「人生、どこで、間違っちまったのか・・・しがないヤクザですからね・・・それで、華子も、苦労してるすよ」
と、しんみりする邦衛です。
「何を言っているのよ・・・、あなたは、わたしを守るナイトでしょ?それをしっかり努めあげてるじゃない!あなたには、しあわせが、きちんとくるはずよ!」
と、邦衛の態度に、それは違うとばかりに、意見する由美です。
「しあわせは、誰にだってやってくるわ。ちゃんと自分を信じていれば、最後には、ひとは、絶対に、しあわせになれるの」
と、由美は自分の信念を話しています。
「わたしだって、たくさん、失敗してきた。でも、その瞬間、その瞬間は、しあわせだったし、これからも、しあわせに、なるつもりよ!」
と、由美は、自分の経験から来る話をしています。
「大丈夫なんだから!とにかく、邦衛は、このミッションを成功させて、華子さんに、胸をはって、自慢できるように、がんばるの。それが、しあわせへの第一歩だからね!」
と、由美は、邦衛のしあわせのための、目標設定まで、してあげています。
「いいわね、邦衛!」
と、由美が、まじめな顔で、言うと、その目を見る邦衛です。
「わかりやした、お姫さん。俺は、姫を守る騎士ですから、命令は、絶対に聞きますぜい」
と、邦衛は、ニヤリとすると、前を向いて、全力で、自転車を漕ぎ出します。
「お姫さんと、華子のために、俺は、絶対に、がんばりやーす!」
二人の乗る自転車は、見る見る、小さくなっていくのでした。
黄色いシビックが、長万部駅、近くのコンビニ前に止まっていました。
「しっかし夜は、まだまだ、寒いすねえ、北海道って、ところは」
と、トミーは、買ってもらった、チーズ肉まんをほおばりながら、のんきなことを、言っています。
「しかし、もう、スワンは、行っちまったんでしょう?なぜ、おいら達、ここで、待ち伏せなんて、するんです?」
と、素直に疑問を呈するのは、トミーです。
「実は、奴らは、警察をまいたらしいんだ。今の電話で、組長がそう言っていた・・」
と、マツは、タバコをふかしながら、前を向いています。
「ってことは、さっきの、非常線、奴らを捜すためのものですか?国道という国道に、非常線って、警察もやるときは、やりますねー」
と、トミーは、途中で出会った警察の非常線に、驚きの声をあげています。
「警察も、奴らをみつけるのに、必死だって、ことだ」
と、マツは、静かに、話します。
「まあ、いちかばちか、俺の勘だが・・・」
と、マツは、真面目な顔になりながら、
「5時によ、ここを出発する一番電車が、あるんだよ。それに、乗るんじゃねえかな、あの二人・・・」
と、マツは、独特の勘で、二人の行き先を感じているようです。
「そうですか。アニキがそう言うんなら、間違いねえ」
と、トミーは、マツを完全に、信じ込んでいるようです。
「ま、これは、完全な俺の勘だ。だから、間違ってるかもしれねえ。とにかく、俺は、その一番電車を確認してみたいんだ」
と、マツは、自分の思いを素直に、吐いています。
「いいっすよ。今まで、ずっと、アニキを信頼してきたんだ。それで、間違ったことは、一度もねえし・・・」
と、トミーは、言います。
「そう言われると、うれしいな。まだ、時間がある、トミー、少し眠っとけ」
と、マツも静かに、そう言います。
「じゃあ、4:40まで、寝かしてもらいやすよ・・・」
と、トミーは、キャップのつばを下げると、眠りに入ります。それが、いつもの、彼のスタイルです。
「ああ、ちょっとしか、時間はねえが、そうしてくれ」
と、マツは、前を向いたまま、そう口にします。
「いつも、すまねえな。トミーよ」
と、マツは、小さな声で、つぶやきます。
トミーは、すっかり寝込んでいて、そのつぶやきは、聞こえなかったようです。
マツは、そんなトミーの寝顔を見ると、ホッとしたのか、次のたばこに、火をつけ、深く吸い込みます。
そして、静かに煙を吐き出すと、満足そうにしながら、駅のほうをじっと見つめるのでした。
ここは、東京某所の黒鮫組、若山組長の大邸宅です。
その前に、黒塗りの車が、数台、止まります。
その中でも、一番大きな車から、カタギリと呼ばれる男が、黒いサングラスをかけたまま、でてきます。
「ご苦労様です」「ご苦労様です」「ご苦労様です」
と、周りを囲む部下に言われながら、肩で風をきるように、歩くカタギリは、
部下に案内されるように、若山組長宅に、入っていきます。
その様子を、向かいのアパートの部屋の中から、確認している二人組がいます。
「おやっさん、どうやら、カタギリ、入ったようですぜ」
と、若い刑事が、先輩格の刑事に話しています。
「ああ。ボスに連絡だ」
と、先輩格の刑事は、黒電話(!)をかけています。
「ええ。奴が今、入りました。ええ。我々の推理が、確かなら、ええ」
と、先輩格の刑事は、報告にやっきになっています。
パンパンパン!
何かの、音が、大きく、響きます。
「おやっさん!銃声が!」
若い刑事は、その状況に、驚くばかりです!
「なんだと、やっぱり、そうなりやがったか!」
と、電話をしている刑事は、電話を切ると、すかさず、部屋を出て行くのでした。
「ねえ。警察も、わたしたちが、また、長万部駅に、現れるなんて、想像もしないわよね?」
と、由美ちゃんは、荷台の上から、邦衛に聞いています。
「まあ、そう思いますねえ。二人で考えた作戦ですからね。だーれもわかりゃあ、しませんよ!」
と、うれしそうにする邦衛です。
二人の自転車は、しらじらと開ける日のもと、長万部駅へと走っていくのでした。
(つづく)
と、邦衛は、学生用のスポーツ車と覚しき自転車をこぎながら、はしゃいでいます。
「邦衛、自転車は、大丈夫なの?ちゃんと乗れるの?」
と、邦衛につかまりながら、自転車の荷台に、乗っている由美ちゃんです。
「へへ。これでも、子供の頃は、韋駄天の邦衛と呼ばれたもんですぜい。自転車くれえ、どってことないっす」
と、うれしそうに、自慢する邦衛です。邦衛の言うとおり、自転車は、速度をあげて走っています。
緑の丘のような場所を走る、自転車です。
空は、少しずつ、開け始め、少しずつ、明るくなってきています。
邦衛は、うれしそうに、走ります。由美ちゃんのために、自分が役に立っていることに、喜びを感じているようです。
「なんだか、こうやって、走っていると、恋人同士みたいね、わたしたち」
と、うれしそうな邦衛を見ながら、邦衛の腰に手をまわす、由美ちゃんは、ポロッと話します。
「お嬢ちゃん、何を言ってるんでえ。あっしは、お嬢ちゃんのナイトのつもりですぜい」
と、邦衛は、由美の言葉に、少し照れながら、それでも、自分を主張しています。
「お嬢ちゃんは、美しいお姫さん。そして、俺は、それを命がけで守る騎士でさ。それが、一番しっくりくる」
と、邦衛は、そう言って、納得しています。
「お嬢ちゃんと、恋人同士なんて、そんな、恐れ多いすよ」
と、邦衛は、小さくつぶやきます。その言葉は、由美には、聞こえていないようです。
「ナイトの背中はたくましいわね。奥さんは、いるの、邦衛?」
と、由美は、興味深く、邦衛の背中を見ながら、そう話しかけます。
「ええ。華子って、いうんですけどね。元看護婦のかみさんが、ひとりいます」
と、邦衛は、急に、奥さんのことを思い出します。
「へえー。邦衛のことだから、美人の奥さんでしょう?」
と、由美ちゃんは、断定口調で、決めつけます。
「え、そりゃ、ま、あのー、ええ」
と、突然、取り乱す、邦衛ですが、
「まあ、俺が言うのも、何ですが、すっごい美人です」
と、素直に白状する邦衛です。
「やっぱりねー。あなた、女性に愛されるところを、たくさん、持っているもの・・・」
と、由美は、邦衛の背中をみながら、素直に話しています。
「そ、そうですかい?ど、どこに、そんなものが・・・」
と、邦衛は、はじめて言われた言葉に、どきどきしてしまいます。
「あら、あなた、そういうこと、周りの女性に、言われたこと無いの?」
と、由美はさも当然のこと、という風に、話します。
そのとき、邦衛の脳裏に、いろいろな、シーンが浮かびます。
「あなたは、女性に、モテるから、心配しちゃうわ」
と華子さんが、言っています。
「もう、邦衛ったら、ほんとに、あなたは、かわいいわね」
と、組長の奥さん、神山ひろこさんが、話しています。
「もう、邦衛さんったら、すぐに、女性のこころを、くすぐるんだから」
と、どこかのバーの女の子が、しなだれかかります。
「邦衛さん、だーい好き」
と、どこかの娘さんが、言っています。
「わたしに、嫉妬させないでね。愛しているわ、あなた」
と、華子さんが、目で笑いながら、キスしてくれます。
「あ、俺、けっこう、そういうこと、言われてきた、みたいす・・・」
と、邦衛は、記憶を思い出しながら、カーッと赤くなっています。
「ふふふ。そういうところが、邦衛のかわいいところ、なのかもね」
と、そういう邦衛の表情を、笑いながら、見ている由美です。
「い、いやあ、俺って、てっきり、女性には、モテない人間だと、思ってやしたんで・・・」
と、邦衛は、新しい事実に直面して、ちょっとドキドキしています。
「それは、単なる思い込みよ。あなたは、十分に、男性として、魅力があるし、愛される価値をもつ人間よ」
と、由美は、素直に思っていることを、邦衛に、言います。
「いやあ、こんなきれいな、お嬢ちゃんに、そんなこと、言われると、照れるじゃねーですかい」
と、邦衛は、顔を真赤にしています。
「あなたみたいなひとに、愛されて、奥さんもしあわせね」
と、由美は、さらりと言います。
「いやあ、迷惑ばっか、かけてますよ。俺っち、いまいち、人生をうまく生きられねえんで・・・」
と、これまでの人生をふりかえる邦衛です。
「人生、どこで、間違っちまったのか・・・しがないヤクザですからね・・・それで、華子も、苦労してるすよ」
と、しんみりする邦衛です。
「何を言っているのよ・・・、あなたは、わたしを守るナイトでしょ?それをしっかり努めあげてるじゃない!あなたには、しあわせが、きちんとくるはずよ!」
と、邦衛の態度に、それは違うとばかりに、意見する由美です。
「しあわせは、誰にだってやってくるわ。ちゃんと自分を信じていれば、最後には、ひとは、絶対に、しあわせになれるの」
と、由美は自分の信念を話しています。
「わたしだって、たくさん、失敗してきた。でも、その瞬間、その瞬間は、しあわせだったし、これからも、しあわせに、なるつもりよ!」
と、由美は、自分の経験から来る話をしています。
「大丈夫なんだから!とにかく、邦衛は、このミッションを成功させて、華子さんに、胸をはって、自慢できるように、がんばるの。それが、しあわせへの第一歩だからね!」
と、由美は、邦衛のしあわせのための、目標設定まで、してあげています。
「いいわね、邦衛!」
と、由美が、まじめな顔で、言うと、その目を見る邦衛です。
「わかりやした、お姫さん。俺は、姫を守る騎士ですから、命令は、絶対に聞きますぜい」
と、邦衛は、ニヤリとすると、前を向いて、全力で、自転車を漕ぎ出します。
「お姫さんと、華子のために、俺は、絶対に、がんばりやーす!」
二人の乗る自転車は、見る見る、小さくなっていくのでした。
黄色いシビックが、長万部駅、近くのコンビニ前に止まっていました。
「しっかし夜は、まだまだ、寒いすねえ、北海道って、ところは」
と、トミーは、買ってもらった、チーズ肉まんをほおばりながら、のんきなことを、言っています。
「しかし、もう、スワンは、行っちまったんでしょう?なぜ、おいら達、ここで、待ち伏せなんて、するんです?」
と、素直に疑問を呈するのは、トミーです。
「実は、奴らは、警察をまいたらしいんだ。今の電話で、組長がそう言っていた・・」
と、マツは、タバコをふかしながら、前を向いています。
「ってことは、さっきの、非常線、奴らを捜すためのものですか?国道という国道に、非常線って、警察もやるときは、やりますねー」
と、トミーは、途中で出会った警察の非常線に、驚きの声をあげています。
「警察も、奴らをみつけるのに、必死だって、ことだ」
と、マツは、静かに、話します。
「まあ、いちかばちか、俺の勘だが・・・」
と、マツは、真面目な顔になりながら、
「5時によ、ここを出発する一番電車が、あるんだよ。それに、乗るんじゃねえかな、あの二人・・・」
と、マツは、独特の勘で、二人の行き先を感じているようです。
「そうですか。アニキがそう言うんなら、間違いねえ」
と、トミーは、マツを完全に、信じ込んでいるようです。
「ま、これは、完全な俺の勘だ。だから、間違ってるかもしれねえ。とにかく、俺は、その一番電車を確認してみたいんだ」
と、マツは、自分の思いを素直に、吐いています。
「いいっすよ。今まで、ずっと、アニキを信頼してきたんだ。それで、間違ったことは、一度もねえし・・・」
と、トミーは、言います。
「そう言われると、うれしいな。まだ、時間がある、トミー、少し眠っとけ」
と、マツも静かに、そう言います。
「じゃあ、4:40まで、寝かしてもらいやすよ・・・」
と、トミーは、キャップのつばを下げると、眠りに入ります。それが、いつもの、彼のスタイルです。
「ああ、ちょっとしか、時間はねえが、そうしてくれ」
と、マツは、前を向いたまま、そう口にします。
「いつも、すまねえな。トミーよ」
と、マツは、小さな声で、つぶやきます。
トミーは、すっかり寝込んでいて、そのつぶやきは、聞こえなかったようです。
マツは、そんなトミーの寝顔を見ると、ホッとしたのか、次のたばこに、火をつけ、深く吸い込みます。
そして、静かに煙を吐き出すと、満足そうにしながら、駅のほうをじっと見つめるのでした。
ここは、東京某所の黒鮫組、若山組長の大邸宅です。
その前に、黒塗りの車が、数台、止まります。
その中でも、一番大きな車から、カタギリと呼ばれる男が、黒いサングラスをかけたまま、でてきます。
「ご苦労様です」「ご苦労様です」「ご苦労様です」
と、周りを囲む部下に言われながら、肩で風をきるように、歩くカタギリは、
部下に案内されるように、若山組長宅に、入っていきます。
その様子を、向かいのアパートの部屋の中から、確認している二人組がいます。
「おやっさん、どうやら、カタギリ、入ったようですぜ」
と、若い刑事が、先輩格の刑事に話しています。
「ああ。ボスに連絡だ」
と、先輩格の刑事は、黒電話(!)をかけています。
「ええ。奴が今、入りました。ええ。我々の推理が、確かなら、ええ」
と、先輩格の刑事は、報告にやっきになっています。
パンパンパン!
何かの、音が、大きく、響きます。
「おやっさん!銃声が!」
若い刑事は、その状況に、驚くばかりです!
「なんだと、やっぱり、そうなりやがったか!」
と、電話をしている刑事は、電話を切ると、すかさず、部屋を出て行くのでした。
「ねえ。警察も、わたしたちが、また、長万部駅に、現れるなんて、想像もしないわよね?」
と、由美ちゃんは、荷台の上から、邦衛に聞いています。
「まあ、そう思いますねえ。二人で考えた作戦ですからね。だーれもわかりゃあ、しませんよ!」
と、うれしそうにする邦衛です。
二人の自転車は、しらじらと開ける日のもと、長万部駅へと走っていくのでした。
(つづく)