Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<淳と亮>過去回想(6)ー背信ー

2016-07-19 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
”青田淳と河村亮は腹違いの兄弟”という噂が流れた後、淳は自身の考えを変え、

彼らに対する態度も変化させて行った。

あの時から、俺はお前達と少し距離を置くようにした。

自分の意思をはっきりと父に伝えるためにね。




突然冷たくなった淳に亮は苛立ち、静香は途方に暮れた。

それでもそうするしかない、限られた選択肢の中で、淳は淳なりに足掻いていたのだ。

高校生だった俺に出来ることは、それくらいしか無かったから









誰も居ない廊下で、淳は一人窓の外を眺めていた。

ここは皆からの好奇な視線も、ヒソヒソと囁かれる噂話も届かない。

けれど、淳の胸中は常にざわざわとざわめいていた。



「あの‥」



すると背後から、弱々しい声がした。

声のした方をじっと見ていると、オドオドとした男が一人近づいて来る。



「あの‥」



俯きながら「あの」を繰り返すその男に、淳は向き合って声を掛けた。

「何?」

「いやその‥聞きたいことが‥あって‥」



男はクラスメートであり、亮と同じピアノ科の学生だった。

淳は見せかけの笑顔を飾りつつ、彼の発言を優しく促す。

「何かな?大丈夫だから、言ってみなよ」







彼は幾分逡巡していたが、やがておずおずと口を開いた。

「も‥もしかして河村亮も‥

君の家から援助を受けてるの?」








柔和な笑顔を保てない程、その質問を前にして淳は絶句した。

明らかに表情の変わった淳を見て、ピアノ科の学生は狼狽える。

「い‥いやその‥

君のお父さんが‥この前家に訪ねて来られて‥」




「僕‥コンクールにも出られずに落ち込んでたから‥励ましに来て下さったみたいで‥」

「大丈夫ですよ」



そして彼は、スポンサーである淳の父親が家に訪ねて来た時のことを話し出した。

「大きな賞を取ることを期待して援助している

わけではないですから。負担に思う必要は無いですよ」




「ご子息が私の夢を広げてくれることの方が何倍も嬉しいですから。

私は元々クラシック音楽が好きなもので、それで援助の手を広げているだけなのです。

同じ高校と別の高校のピアノ科にも、同じ様に援助している子らがいるのですよ」







淳は黙って彼の話を聞いていた。

ピアノ科の学生はボソボソと喋りながらも、淳に聞きたいことを確実に口にしてくる。

「皆ご両親は健在だし、お金持ちだし‥。

青田君にいつも引っ付いて、家のこともよく分からないのが河村亮だから‥」




「その上あんな噂まで‥」



ピアノ科の学生はそこまで口にしたものの、

淳の前で口にすべき話題では無かったと気づき、すぐさま訂正した。

「あっ勿論嘘だろうけど!」



淳はまだ何も返さない。

ピアノ科の学生は、それを自身の発言を許容しての態度だと理解し、言葉を続ける。

「それでもしかしたら河村亮がそうなのかもって‥。それって‥本当なの?」



そう言ってチラと淳の顔を見た彼の表情は、どこか優越感を感じさせるものがあった。

気弱なその態度の中に、嫌悪している相手の弱点を見出した時特有の小狡さが、見え隠れしていたのだ。



はっ、と淳は小さく息を吐き捨てた。

彼が浮かべた表情は、淳が飽きるほど目にして来た、相手を出し抜こうとする小者の表情だ。



いつもなら当たり障りない言葉でやんわりと否定しただろうが、

もう状況は違って来ていた。

目の前に居るその小狡い人間は、淳の返事を期待を込めた表情をして待ち侘びている。







河村亮という人間が作り出した影が、今意志を持って動き出そうとしていた。

その光を飲み込もうと、鬱々とした感情を従えながら。

「調べてみなよ」



否定も肯定もしない、それでいて影を先導するその言葉が、

事態を何倍ものスピードで進行させて行く。



「おい、河村も援助受けてるらしいぜ」

「え、マジ?」「何何?」



「おい、お前どうして何も言わねーの?

かくしてねーでアイツらに援助してるって言えばいいじゃんか」




「マジで天使かっつーの!」



淳は何も言わずただ笑顔を浮かべていた。

”天使”は自らの手を汚さずとも、背信に動く影が、いつか光を飲み込むからと‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(6)ー背信ー でした。


少し短めの記事で失礼しました。

ピアノ君(今は”ショパン”でしたね)が淳に、亮が「援助を受けてる」という裏を取りに行った場面でしたね。

これを静香が覗いていたんですねぇ。



だんだんと抜けていた過去エピが埋められて行くのはゾクゾクしますね!


次回は<淳と亮>過去回想(7)ー父の抑圧ー です。

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<淳と亮>過去回想(5)ー侵害ー

2016-07-17 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)


亮のコンクールは成功の内に終わったらしいと、上機嫌で帰って来た父親を見て悟った。

淳は亮に祝いの言葉を掛けることもせず、翌日普段通りに登校した。



顔を合わせた友人と軽く挨拶を交わしながら廊下を歩く。

普段通り、いつもと何も変わらない朝に思えた。



しかし。



すれ違った同級生の男二人が、淳の方へと意味深な視線を寄越した。

淳は無言で、彼らの方を向く。







淳と目が合った二人は、

繕うような笑顔を浮かべながら、気まずそうな素振りでその場を離れた。

淳はどこかおかしなその空気を感じつつ、ただその場で首を傾げる。



すると。



同じ様に、そこに居るほぼ全員が淳のことを見ていた。

まるで腫れ物に触るかのように、じっとただ遠巻きに。



明らかに異常な光景だった。ただその場に立ち尽くす淳。

するとそんな淳の元に、クラスメートが血相を変えて走ってくる。

「おい、青田!お前あの話‥聞いたか?」



その先に続く言葉は、出てくる名前は、もう聞かずとも分かる気がした。

「亮が‥」





”外国の女の人と‥” ”異母兄弟” 



目の前が暗転して行くのとは裏腹に、聴覚が研ぎ澄まれて学生たちの囁きが耳に入ってくる。

彼らの噂を繋ぎ合わせるとこうだ。

”青田淳と河村亮は腹違いの兄弟”



”コンクールの日、河村亮が”青田会長は自分の父親のようなもの”と嬉しそうに口にした”



”「自分は実の息子の淳よりも可愛がられている」、とも。”







歪んで行く視界の端に、自身に送られる視線を痛いほど感じていた。

彼らが淳に送るのは、好奇な視線、興味本位の眼差し、



そして、

「可哀想‥」



「義理の兄弟よりも愛情を受けられなかった実子」に送られる、



”哀れみ”








握った拳が、小刻みに震えていた。

淳はその場に立ち尽くし、俯きながら、溢れ出す感情の渦にただ飲み込まれて行く。

理解出来ない



脳裏に浮かぶのは、父親と楽しそうに談笑する亮の姿。

実の家族を差し置いて、亮のコンクールのことを第一に考える父親の後ろ姿。



二人共



結局こうなるだろうと分かってたのに‥



暗く陰る視界の先に、亮がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

溢れ出す憤懣の中で淳は、その闇を制御することも忘れてその男を凝視する。



「いや‥オレは‥」



その凄まじいほどの怒りにたじろぐ亮。

そして淳はこう言ったのだ。

”欺瞞って言葉、知ってるか?” と。



良くしてやればやるほど、お前はどんどんエスカレートするー‥。







二人は再び現在へと時を戻した。

淳はあの時のことを回想しながら、自身の思いを淡々と語る。

「それからだよ。俺が考えを変えたのは」



「お前達が来る前から、父さんは俺に対して抑圧的だった。

だからそのせいで態度が変わったわけじゃない」




亮は咄嗟に言葉を返した。

「それじゃどうしてオレらに‥」

「それはこっちの質問だ」



しかし淳は亮の質問を途中で切ると、鋭い眼差しを送りながら逆に問い返す。

「お前、どうしてあの時父さんとの関係をあんな形で話した?」



「それは‥」



亮は思わず言葉に詰まった。

昔会長から言われたあの言葉が、亮の胸を締め付ける。

「私のことは実の父親のように思ってくれ」




「”本当の家族”」



まるで心の中を読まれたようなタイミングで言われた言葉に、

亮はピクリと反応した。



固まる亮に向かって、淳は抑揚のないトーンで言葉を続ける。

「”実の父親のように思ってくれ”、言葉ではなんとでも言えるけど、

本気の愛情なんて感じられなかったろ。完全には信じられなかっただろうし、

でもその言葉を信じたかっただろうし」




「だからあんなこと言ったんだろ。

人が受けるダメージなんて考えもせずに」


「‥‥‥‥」



俯いた亮に向かって、淳は往年の思いを口にした。

自分の父親という一人の男性に対して思う所、そして、亮と静香に対して思う所を。

「父さんが偽善者だってことは、誰よりも俺がよく分かってるさ。

だけど俺が耐えられなかったのは‥」




「お前達が、父さんのその演技を助長し引き立てる役割を担い続けたからだ」



「とても忠実にね」



二人は再び高校時代の回想へと戻った。


彼らが居る以上、自分は常に侵害され続けるー‥。

そう感じ始めた淳は、次第にその態度を変えて行く。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(5)ー侵害ー でした。

亮と静香という小さなさざなみにさらされ続けた淳が、とうとうその際限なさを悟り、

絶望と怒りを感じた‥という場面でしたね。

しかし時系列とエピソードがこんがらがる

亮視点の過去は河村姉弟3<向けられた背中~その日>にまとめてありますので、

どうぞご活用下さいね〜


次回は<淳と亮>過去回想(6)ー背信ー です。

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<淳と亮>過去回想(4)ー萌芽の原因ー

2016-07-15 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
本気で俺のこと親友だと思ってるのか?



門の前でそう問われた時の場面が、亮の脳裏に蘇った。

自分が淳の人生にどういう影響を与えて来たのか、今まで考えたこともなかったその疑問に、

亮は今初めて考えを及ぼしているのだった。

そうか‥アイツ、だからいきなりそんな話ー‥



”お前はそこまでだ” ”線を守れ”

あの時淳はそう言った。



当時亮はその言葉の真意を、まるで理解することが出来ずに、

明日話そーぜ!



ありふれた世間話を明日に延ばすかのように、あの夜亮はそう言って、軽い気持ちで背を向けた。

まさかその続きを話し合うのに、八年もの歳月が必要だなんてあの時は考えもしなかったー‥。



オレがチクったと思ってんのか?



亮の胸中にそんな疑問が新たに湧き始めたが、二人は再び過去を辿り続けた。

思い浮かぶのは、門の前で会話した翌日の二人のやり取り‥。



「おい!昨日の話の続き‥」



廊下にて淳の背中を見掛けた亮がそう声を掛けるも、淳は半身を残して振り返っただけだった。

まるで疎ましいものを見るような目付きで。







亮は初めて自身に向けられたその眼差しに幾分戸惑い、続く言葉を変えて喋り掛ける。

「‥いや、次のコンクールには絶対来‥」

「その日は予定がある」



淳はそっけなくそう言うと、背を向けてさっさと行ってしまった。

その背中を見つめながら、ぽかんと固まる亮‥。



「アイツ長いことスネ過ぎじゃね?!

あーっイライラする‥!!」




そう叫んでみたものの、依然として胸中はモヤモヤと煙っていた。

教室に帰ってからも、淳は亮に近づこうともしない。

「西条ってまだ学校こねーの?」「骨がくっつかねーと学校これねーだろw」



三年にやられたという西条の噂話が広まる教室内。

亮はチラ、と淳の方へと視線を流す。



淳はクラスメートに囲まれながら、依然として続く西条の話に相槌を打っていた。

「骨がくっつくどころか顔腫れてパンパンだったぜ」「最近見舞い行ったん?」



淳は何気ない表情で、皆に向かってこう口にする。

「そうなんだ。早く良くなると良いね」



「!」



その言葉を聞いた途端、思わず亮は吹き出した。

あの時の場面を、淳と西条のその会話を、亮は実際に耳にしているからだ。



”早く良くなると良いね”だとよ。ウケんだけど‥テメーが病院送りにしたようなモンじゃねーか‥






口元に笑いを残したまま、ふと亮が顔を上げると、

先ほどまでこちらを見ようともしなかった淳が、亮の方をじっと見ている。







亮を見る淳の瞳の中には、一切の光が消えていた。

”線を越えた”岡村泰士を見ていた時の眼差しと同じそれが、今亮に注がれている‥。








暫く視線を合わせていた二人だったが、じきに淳は亮から目を逸し、クラスメートと談笑を始めた。

亮は未だ淳のその目付きの意味を理解出来ぬまま、ただ目を見開いて固まっている。



なんだ‥?







その不穏な芽の正体を解せぬまま、八年もの歳月が過ぎた。

そして八年後の今、亮は初めてその芽を萌芽させた原因は、自分なのではないかと思い至る。

「‥‥‥‥」



亮はゆっくりと淳の方を向くと、明かされたその真実を改めて口に出した。

「西条のこと‥会長が知ってただと‥?」



そう問う亮に向かって、淳は冷めた口調で淡々と言葉を続ける。

「こんなにも簡単に忘れてしまえるとは‥今更ながら驚くな」



「じゃあ餞別に一つだけ訂正しといてやるよ。お前がずっと勘違いしてたことをな」

「勘違い‥」



呟く亮に向かって、淳は微かに口角を上げた。

「お前、俺が父さんからの愛情を奪われたから、

お前らのこと嫌ってると思ってるだろ」




「まぁ‥その方がありふれてて自然な発想だけどな」



二人の意識は再び過去へと飛ぶ。

そして淳は自身が亮のことを嫌っている理由は”父親からの愛情を奪われたから”という亮の思い込みに、

冷水を浴びせ掛けた。

別にそういうわけじゃない。と。







「明日、外食しませんか」 「明日?」



携帯を片手に多忙そうな父親に向かって、淳はそう口にして彼を呼び止めた。

「明日、母さんが帰国するでしょう。

この間父さんと母さん喧嘩別れのままだったし、

それ以来の帰国ですから外で食事でも、と思って」




父親は息子からの提案に「それは良い考えだ」と同意を示したが、

携帯を離さぬまま続けてこう話した。

「でも明日は亮のコンクールがあるから、食事は明後日にしよう。

空港へはお前が行ってくれ」




「木村秘書、記者との交渉は終わったか?

明日の写真は重要だぞ。あぁ、分かったな?」




「あ、それと明後日レストランを予約しておいてくれ」



明日は亮のコンクールがある日だった。

まるで家族水入らずの食事がついでに聞こえるかのように、

父親のコンクールへの、そして亮への入れ込みようは深いものがある。



淳は上を向きながら、幾分呆れたような表情でこう呟いた。

「ほどほどにして下さいよ‥」



距離を置いたその先で、だんだんと物事が進行して行く。

けれど淳には為す術も無いまま、ただその行方を案じるに留まる日々だった。


あの噂が、その身を侵害するまではー‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(4)ー萌芽の原因ー でした。

西条のことで思わず吹き出した亮を見る淳の顔が‥



以前英語の自主ゼミの時に淳を見て笑った雪ちゃんに対する顔とかぶります。



初めて嘲笑いを向けられたのが亮からだったとは‥。

だから雪ちゃんが「ぷっ」と嘲笑った時、あんなにも黒淳になっていたのですね。



しかし‥相手への悪感情とか疑心が、全てを悪い方向へと取ってしまう原因になっているというか‥。

淳はそれを相手にぶつけずに裏工作して発散しようとするから不気味なんですよね。

そうしなければならない原因を作っているのは、やはり淳の父親か‥。


次回は<淳と亮>過去回想(5)ー侵害ー です。


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<淳と亮>過去回想(3)ー不穏な芽ー

2016-07-12 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
「なぁ、お前あの時も見てただろ?」



「あの時、教室で‥」と淳は続けた。



亮の記憶が、再び高校時代へと戻った。






クラスメート達が、ヒソヒソと話している声が聞こえる。



そのざわめきの中で、亮は目にしてしまったのだ。



ほんの一瞬、淳の口角が微かに上がるのを。



亮は信じられない思いで目を見張った。

あいつ‥今笑ったのか‥?



まるで幻でも目にしたかのように、亮は暫しぼんやりと固まる。

「‥‥‥‥」



心の中に、何か不穏なものが生まれた気がした。

まだ言葉には出来ないが、どこか不安で見過ごせない何かが。



何だ‥?



どうして笑う?ちょっと変じゃねーか?



あんな話題で笑うヤツじゃねーのに‥優等生がよ‥



顔を出した不穏な芽。

しかしその種の存在は、無意識下で認識していたように思う。

脳裏に蘇って来るのは、以前目にした西条と淳の姿。暗雲漂う彼らの会話。

なんだ?不良達と仲良くねーんじゃなかったのか?

そうだ、確かに「行く」とは言ってねぇ



見えない意図を張り巡らせた、淳の一言‥。

「無闇に人に喋るんじゃないぞ」






「‥‥‥‥」



心に芽生えた不穏な芽は、様々な場面を経由して大きくなって行く。

例えばあの時。



岡村泰士と喧嘩をしたの淳は、明らかに普段と違っていた。

岡村の髪を掴みながら、目の前の石に頭を打ち付ける寸前で手を止めたあの時。



「止めろ」



あの時目にした淳の瞳を、なんと形容すれば良いものか。

一切の光を灯さない、無慈悲で残忍なその瞳をー‥。



あの後確かに亮は思ったのだ。

その闇に気付かなかった静香の後ろを歩きながら、淳の方をチラチラと盗み見ながら。

「大丈夫ぅ〜?!ほら顔見せて!あたしのせいで〜」



アイツ‥ちょっと危ねーんじゃねーか?切れたらマジやばそーなんだが‥






「‥‥‥‥」



モヤモヤと煙る胸中を持て余しながら、亮は続けてこんな場面を思い返していた。

岡村との喧嘩の後、青田会長に詫びを入れに行った時のことを。

「いつもオレらのこと気に掛けてくれて、マジ感謝してます、会長!

んで‥静香がクソなこと‥いや‥」




「とにかく‥ちゃんと止めらんなくてすいませんした。マジでお恥ずかしい‥」

「はは、大丈夫だ」



「どんな一面も受け入れるのが家族だろう」





あの時会長が口にしたその言葉が、今の亮が抱えるモヤモヤへの答えの様な気がした。

だよな!オレら家族同然だもん!



亮はガッツポーズを固めつつ、”家族”というその甘い響きを噛み締める。

まぁ意外に危ねぇ一面があんのかもしんねーけど、

そんなんは全て家族の愛ってヤツで包んでやるっての








チラ、と亮は淳の方へと視線を流した。

こうして見ると普段通り、品行方正な優等生の彼の横顔‥。

言葉では説明出来んけど、アイツは皆が思ってるような単純なヤツじゃない。

複雑な何かを抱えてんだろう




そういえば‥



亮の脳裏に、仮面を貼り付けたように笑う淳の表情が思い浮かぶ。

「いや、大丈夫」



あの時亮は笑顔を返したけれど、どこか不自然なそれを感じていたのだ。

そして今思い返してみてこう思う。

あいつの笑顔には色々な種類がある



そのことを、姉にこう打ち明けたこともある。

「アイツ、今でもオレらに反射的に笑顔返すのな。どっか壁作ってんぜ。

オレ、媚びんのはヤダっつってるくせに、結局ああいう奴らへの接し方と変わんねーじゃん」




あの時静香は「心を開くのに時間が掛かる子なのよ」と言っていたはずだ。

そしてそれをどこか物寂しく思っていた。

けれど‥。

「ははは!」



あの時や、



あの時。

そして、



「ははは!」



あの時も。

「はははは」



あの笑顔は、確かに今までのそれとは違っていたはずだ。

あの時、花火のように刹那に咲くその笑顔を前にして、亮は目が離せなかった‥。






アイツもそろそろオレらに心開いて来たってことだろ



そう考えるのが妥当な気がした。

そしてそう考えることは、どこかこそばゆい気持ちを亮にもたらす。



悪くねぇな



”本当の家族”が、その”家族愛”が、不穏なその芽の存在を曇らせた。

全てが壊れてしまった今、幾重にも巻き付いたその蔓が二人をがんじがらめにしている‥。



「だからこれ以上互いに期待したり、会いに来るのも止めてくれ。

それぞれ自分の道を歩もう」




伏し目がちにそう話す淳を見ながら、亮はどこか割り切れない思いが胸に広がるのを感じていた。

さっきからコイツ‥一体何のこと‥。オレがどんなひどいことをしたって言‥



そこまで考えた時、不意にあの言葉が蘇った。

「本気で俺のこと親友だと思ってるのか?」



青田家の門の前で、問い掛けられたあの言葉。

あの時淳はあの仮面を貼り付けたような笑顔を浮かべていなかった‥。



亮は思った。

「‥‥‥‥」



不穏な芽の下にあったその種は、一体いつから植わっていたのだろう。

そしてそれを萌芽させたのは、一体何が原因だったのだろうとー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(3)ー不穏な芽ー でした。

過去を丁寧に紐解いて行きますね〜。

ようやく亮が淳が抱えていた闇に直面する時が来た感じがします。


さて4部41話はここで終わりです。


次回は<淳と亮>過去回想(4)ー萌芽の原因ー です。


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<淳と亮>過去回想(2)ー真実ー

2016-07-10 01:00:00 | <淳と亮>過去回想(1)〜(10)
亮と静香は、自分の父親に利用されていただけー‥。



僅かに開いた扉の隙間から漏れる光が、彼らを憎むのは見当違いだと淳に教え、

亮の代わりにコンサートへ出向いたり、まるで兄弟のように一緒になって行動したりと、

そういった行動を”好意”として、淳は示していたつもりだった。

亮と静香は全くの下心無しに、自分と共にいるのだから、と。

「‥けど、実際は違った」



淳は暗い瞳を偽ることなく静かな口調で話を続けた。

亮は目を見開きながら、それを聞いている。

「父さんに言いつけるだけじゃ飽き足らず、結局お前は、俺を留学させようとまでしたんだ」

「あ‥」



”留学”というワードが、亮の記憶の蓋をこじ開ける。






瞼の裏に浮かんで来たのは、何かについて悩んでいる青田会長の姿だった。

いつものように青田家を訪れた亮は、机の上に置かれたその膨大な資料に目を留める。



家政婦がお茶を運んで来た後、亮は会長に向かって話を切り出した。

「アイツ、留学させるんスか?」



「‥悩んでるよ。淳だけじゃなく、お前達のことも心配だし‥。亮はどう思う?」

「はは、オレらはまぁ‥」



亮は自分のことについては言葉を濁しながら、淳の留学についての見解を述べる。

「アイツは良い大学行った方が良いでしょーね。将来会社継ぐつもりらしいですし。

他にやりたいこともないらしいスから




会長は微笑みを浮かべながら亮の話を聞いていたが、今度は亮にその話題を振った。

「お前達自身はどうだ?留学する気があるか?」「えっ!?」



それは亮にとって、青天の霹靂とも言える話だった。

けれど会長は当然のように頷いている。

「‥留学までさせてくれるんスか?」

 

「はは、当然だ。遠慮する必要なんて無いぞ」







親も無く姉と二人だけで生きている自分が、留学出来るー‥。

突如舞い込んで来たその話は、亮の心を高揚させた。

「勿論行くっす!!」



「オレ、めっちゃめちゃ頑張りますから!音楽界に自分の名前、ぜってー「角印」します!」

「はは、「刻印」だよ」

「淳が外国で浮かれてたら、オレが兄貴分として目ぇ光らせることも出来ますし!

アイツのことカンペキ見守りますよぉ!オレはぁ!」








亮の心は浮き立ち、嬉しさに思わず打ち震えた。

いつか夢見た”三人で居る未来”の足音が、聞こえてくるような気がして。

「三人一緒に!良いじゃないスか!」



亮は会長に向かって無邪気にそう叫んでいた。

そして話は、現在へと戻る。




「あぁ?あん時お前家に居たっけ?」



亮は首を傾げながらそう淳に問うたが、淳はそれには答えずに先ほどからの流れを続ける。

「お前とこれ以上揉めたくもないけど、いつまた帰って来て絡まれるか分からないから、

ちゃんと話をつけとくべきだと思ってね。留学に学校生活の報告まで、随分うちの父さんと話し込んでたみたいだな」


「は?何のことだよ?」



亮は先ほどから淳の話の意味がいまいち掴めずにいた。

留学のことにしたって、どうして今更その話を出して来るのかが分からない。

「つーか留学のことはよぉ、会長がさせてくれるっつーから、嬉しくてついハイハイ言っちゃったんだろ!

あとお前の日常生活の報告?まぁ話してる内に色々言ったことあるかもしんねーけど、

オレがチマチマ会長にチクるわけねーだろ?あ?」




亮は苛立ちながらもそう自身の気持ちを語ったが、

淳は亮の方を見もしないで、ポツリとこう言った。

「おかしいな」

 

「いやだから、一体何がだよ?!さっきから何言って‥



やはり淳の意図が理解出来ない亮。

淳はそんな亮のことをじっと見つめながら、

彼の意識外にあるその真意を引き出そうとしていた。

「お前のその顔‥今の、それ演技なのか?」



「じゃなきゃ、ごくありふれたことだったから覚えてもないってことなのか」

「はぁ?」



そして淳は遂に口に出した。具体的なあの事件のことを。

「まるで俺が西条和夫に暴行したみたいに、

いつの間にか父さんにそう伝わってた」




「あの時俺に疑いの目を向けていた人間はただ一人‥」







淳はそう言った後、静かに指を刺した。

地面にへたり込んだ亮に手を差し伸べていたあの頃とは、もう何もかもが違っていた。

「お前だ」



「亮。お前だよ」



まるで見当違いな方向へと流れていると思われた淳の話は、

あの”西条和夫の事件”に終着することで、亮にその実感をもたらした。



身に覚えがないと言い切ることが出来ない。

それが亮の真実だった。






淳は暗く苦しい当時の記憶を引き摺り出しながら、

絶望の中で悟ったあの真実を口に出す。

父さんの俺に対する監視と抑圧に、

お前が止めを刺し、助長させたんだ。




嫌でも蘇る、僅かに開いたドアの隙間から聞こえた、両親の言い争う声。

「うちの淳のどこがおかしいって言うんですか?!」

「友達の髪を掴んで、レンガにぶつけようとしたと!

それに西条社長の息子さんにしたことも聞いてただろう?結果上級生達から袋叩きに遭わせて‥。

たとえ誰かに手出しされたとしても、こういった形で対処することが正しいと思うか?」


「それよりも子供の学校生活を逐一監視する親がどこにいますか?!

その為に河村教授の孫を同じ学校に通わせてるくせに」




自身の領域が、気がつけば侵害されていた。

その時からだった。

父親に利用されているだけだと思っていた亮の存在が、淳の中で敵になったのは。

あまりにも深く介入し過ぎた。

家族の関係と平和な日常をぶち壊したのは‥








「お前なんだよ」



何も言わない亮に向かって、淳は淡々と言葉を続けた。

そして再びあの時の記憶を想起させる為に、淳はあるキーワードを亮に投げる。

「なぁ、お前あの時も見てただろ?」



あの時、教室でー‥



そして二人の記憶は、再び高校時代を辿る‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淳と亮>過去回想(2)ー真実ー でした。

淳の心の中に常にあった疑心が、一つのきっかけで何倍にも膨れ上がってしまった感じですね。

そもそも亮は自分達に対して淳がそんな感情を抱いているとは微塵も気付かなかったので、

気がついた時には淳が自分を敵対視していた‥と。

なんかこれって萌菜との話に出て来た、高校時代の雪ちゃんとかぶります。

やられてもやられてないふりをし続けて、ある日突然相手を見切り、絶縁してしまった雪ちゃん。

この辺の話の流れのつなぎが上手いなぁ‥と改めて鳥肌でした。


次回は<淳と亮>過去回想(3)ー不穏な芽ー です。


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